北海道釧路市のテナント支援に積極的な飲食店ビル 保育所開設 販促アプリも開発
コロナ禍で最も打撃を受けた業界の一つは言うまでもなく飲食業だ。2020年2月に混乱が始まって2カ月もしないうちに資金繰りの相談に来たのも飲食店の経営者だった。感染の波が何度も押し寄せて来る中、行政からの要請に基づく時短営業・営業自粛で出る協力金では全く足りず、多くの事業者が苦しい経営を強いられた。
そのような中、昨年12月に北海道釧路市で道内有数のテナント数を持つ飲食店ビル「オリエンタルプラザ」のテナントで使えるスマホアプリ「ノマサル」がリリースされた。入居する飲食店の紹介やビール1杯無料などといったクーポンのほか、「お店を応援する」という機能もあり、1回押されるたびに10円がその店の家賃から割り引かれる。2週間足らずで会員数は500人を超え、応援クーポンの利用も活発だという。
オリエンタルプラザはかつて百貨店だったビルを東洋ビル開発が買収して改装し、飲食店ビルにした。同社は地方のテナントビル経営会社としては聞いた事がないほどテナントの支援に積極的だ。17年にはビルで働く女性たちが子供を預ける場所がなくて困っているということを聞きつけて保育園を立ち上げた。コロナ禍に入った頃には全テナントの2カ月分の家賃を免除した。「感染拡大で心配と苦労があると思うがテナントに寄り添っていきたく、何でも相談してほしい」と直筆の手紙も渡して。テナントとの共存共栄に徹した経営者の姿勢には感服するばかりだ。
同社は20年秋、テナントの集客をサポートしたいと釧路市ビジネスサポートセンター(k-Biz)に相談した。ノウハウは全く無いが大手の飲食店クーポンアプリのようなものができないかと考えていた。
話を聞いたk-Bizは、アプリの基本要件を整理し、開発会社の見積もりをとるところから支援を始めた。多額の費用がかかる事が分かったが、これで検討がより具体化した。直後に中小企業庁の「事業再構築補助金」の予算化が発表され、この活用も一手かもしれないと提案した。アプリ開発に向けて動き出すと、事業計画策定、補助金申請、発注、仕様の詳細確認、進捗確認、PR計画づくり、テナントへの説明など全面的に支援した。
補助金獲得に信金が尽力
事業再構築補助金の申請には認定経営革新等支援機関による確認書が必要になる。東洋ビル開発のメインバンクの一つであり認定経営革新等支援機関の釧路信用金庫は、k-Bizでの戦略会議に毎回出席してビジネスモデルの理解に努めて計画策定と補助金申請実務をサポート。第一回公募での採択にこぎつけた。
事業再構築補助金は補助額が最高で1億円と高額なため、半ば補助金を目当てにした「新しい事業を立ち上げたい」との相談が目立って我々も困惑したが、あるべき姿で活用されているケースも多くある。
それにしても、「テナント向けクーポンアプリ」のビジネス化など、大型ショッピングセンターが仕掛けるような取り組みを地方の中小企業が実現できたのは、関係者の熱意と高度な支援力のたまものだろう。
【日経グローカル(日本経済新聞社刊)460号 2023年5月15日号 P85 企業支援の新潮流 連載第2回より】
追記:ノマサルの会員数は2023年9月現在800人