Yahoo!ニュース

万年筆とインクの専門店がコラボ商品で相次ぎヒット

小出宗昭中小企業支援家
インクを調合する川崎文具店店主の川崎紘嗣さん(Gaki-Biz提供)

 岐阜県大垣市にある万年筆とインクの専門店「川崎文具店」の店主・川崎紘嗣さんが、大垣ビジネスサポートセンターGaki-Biz(以下ガキビズ)の支援を受けながら、県内外との連携を通じて新商品を生み出し続けている。

 関ケ原町歴史民俗学習館の館長の監修を受け2020年8月に発売したのは、関ケ原の合戦で活躍した24人の武将をイメージした万年筆インク「色彩語(しきさいがたり)・古戦場関ケ原」だ。合戦から420年という節目の年に、県をあげて盛り上げようとしていた矢先コロナ禍に突入し、関ケ原観光協会も困っていた。そこで同町と川崎文具店双方のPRにつなげられないかと、関ケ原の合戦をイメージしたインクの開発をガキビズが提案した。武将の家紋入り木箱等もセットで毎月2個ずつ1年間かけて届くサブスクリプションサービスで、歴史好きをうならせ発売前から予約が殺到し1カ月で300万円を売り上げた。

 22年7月に発売したのは山形県山辺町の金属加工業ヒカルマシナリーとのコラボ商品で、注文者の横顔をかたどったオーダーメイドインク壺「カーヴ・オブ・アリア」だ。同社は職人技が光る金属加工技術を広くPRしようとBtoC事業に乗り出していた。支援にあたっていた山形市売上増進支援センターY-bizの富松希センター長が日ごろからガキビズの発信にも目を通しており、川崎文具店に来る熱狂的な愛好家ならインク壺にもこだわるはずと考えコラボを提案したのがきっかけだ。

 同年9月に発売したのは浜松市の木製インテリア用品製造業、豊岡クラフトとのコラボ商品で、ガラスペン専用の木製ケース「スリーピング・トロイメライ」だ。豊岡クラフトは私が17年前に浜松市の公的産業支援施設でお会いして以来応援してきた企業で、匠の技術が生み出す製品は、こだわりを持つ顧客層に支持されている。数本から数十本、百本と収納できる万年筆ケースも手掛けていた事から、かねて川崎文具店とのコラボを提案していた。

「ベクトルは一致しているか」

 他社との連携では、相手のニーズや経営戦略を理解している必要がある。成功のカギは、関係者のベクトルが一致している事だ。18年7月にガキビズが開設してすぐの頃、正田嗣文センター長と私が揃って川崎夫妻と会う機会があった。事業の方向性に迷いがある様子だったが、万年筆やインクを求めて来る客の平均滞在時間が3~4時間という話を聞き、我々は川崎氏の知識量の豊富さに驚いて、彼自身が川崎文具店の最大の強みであり、売りだと伝えた。

 オリジナルインクの調合も手掛けていた事から「色彩の錬金術師インクバロン」とブランディングをして情報発信を強化すると、川崎氏の存在は国内外の愛好家に知れ渡っていった。事業の方向性が明確になったところにガキビズを中心とした連携のノウハウを持った支援機関の存在が加わり、商品化を加速させたと思う。

 昨年、創業100年の節目を迎えた川崎文具店は、来店客とじっくり万年筆を語れる場として新店舗「懐憧館(かいどうかん)」をオープンした。ガキビズが紹介した地域の人気店の珈琲や菓子も提供されている。ここからまた新たな連携が生まれていきそうな気配だ。

【日経グローカル(日本経済新聞社刊)484号 2024年5月20日 P73 企業支援の新潮流 小出宗昭連載第14回より】

中小企業支援家

59年生まれ。法政大卒後、静岡銀行に入行。M&A担当等を経て、01年静岡市の創業支援施設へ出向。起業家の創出と地域産業活性化に向けた支援活動が高く評価され、Japan Venture Award 2005経済産業大臣表彰を受賞した。07年浜松市に開設された中小企業支援施設への出向中に故郷の富士市から新設する中小企業支援施設のセンター長着任を依頼され、08年銀行を退職し会社を立ち上げ施設の運営を受託し12年に渡り運営した。知恵を使って売上を生む小出流の中小企業支援をわが町にもと取り組む自治体が全国20カ所以上に拡がった他、NHK「BS1スペシャル」や「クローズアップ現代等でその活動が特集された。

小出宗昭の最近の記事