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「攻めの廃線」から5年!高速ゆうばり号と共に姿消す岩見沢―夕張間路線バス 通し乗車はマニアのみの現実

鉄道乗蔵鉄道ライター
終点レースイリゾートに到着した岩見沢発の路線バス(筆者撮影)

 北海道中央バスは、2024年9月末をもって旧夕張駅前にあるレースイリゾートと札幌駅前を結ぶ高速ゆうばり号を廃止する方針を公表した。これにともない始発の高速ゆうばり号の車両の送り込みを兼ねた岩見沢―夕張間の路線バスも廃止される。理由は慢性的なドライバー不足に加え運行経費の高騰などから路線の維持が困難になったことだという。

 岩見沢―夕張間を結ぶ路線バスは1往復のみが設定されている。岩見沢駅前にある岩見沢ターミナルを6時45分に発車し、旧夕張駅前にあるレースイリゾートに8時5分に到着する便。そして、レースイリゾートを18時52分に発車し岩見沢ターミナルに20時11分に到着する便だ。

 朝の便はレースイリゾートに到着後、8時43分発の高速ゆうばり号となり札幌に向かう。一方、夜の便は、札幌から18時18分にレースイリゾートに到着した高速ゆうばり号はそのまま岩見沢ターミナル行となる。

早朝は正面玄関が閉鎖されている岩見沢バスターミナル(筆者撮影)
早朝は正面玄関が閉鎖されている岩見沢バスターミナル(筆者撮影)

岩見沢発の便に乗るためには宿泊が必要?

 岩見沢ターミナル発の便は発車時刻が6時45分であるが、札幌駅を6時に発車する旭川行の始発列車では岩見沢駅の到着時刻が6時50分であることから、札幌方面からこのバスに乗ろうとした場合には始発列車では間に合わず岩見沢で宿泊する必要がある。一方の旭川方面からであれば、旭川駅を5時18分に発車する特急ライラック2号に乗れば岩見沢駅には6時17分に到着できるので、宿泊をする必要はない。

 筆者はとある金曜日、岩見沢駅近くのビジネスホテルに前泊し、岩見沢ターミナルを6時45分に発車するバスで夕張へと向かうことにした。前泊したビジネスホテルは朝6時過ぎにチェックアウトをしたことからホテルで朝食をとることができなかったのは心残りであったが、6時半前には岩見沢バスターミナルに到着した。岩見沢バスターミナルは岩見沢市コミュニティプラザとの複合施設となっており、6時台はまだ正面玄関は空いていなかったが、建物脇の通路を通り通用口のような入り口からターミナル待合室へと入ることができた。

裏口から待合室に入ることができた(筆者撮影)
裏口から待合室に入ることができた(筆者撮影)

実態は岩見沢市内の工業団地への若干の通勤利用

 そして、夕張行のバスがターミナルホームへと入線したのは発車のおよそ5分前。岩見沢ターミナルからは筆者を含めて4人が乗車。このうち1名は熱心にバスの写真を撮っておられたことからバスファンの方のようだった。そして、筆者はバス入口にあるICカードリーダーにICカード乗車券をタッチして乗車。夕張行の路線バスは、高速仕様であることから各席にコンセントが備え付けられていることからスマートフォンなどで作業をする人間には大変うれしい仕様である。

岩見沢バスターミナルに到着した夕張行の路線バス(筆者撮影)
岩見沢バスターミナルに到着した夕張行の路線バス(筆者撮影)

 バスは岩見沢ターミナルを発車すると、岩見沢市街地の市立病院前1名、駒園8丁目で2名、木工団地で2名、ふじ町2条2丁目で1名の乗客を乗せ、岩見沢市はずれにある耕成会館で7名の乗客を降ろした。耕成会館の近くには丸大ハム工場などの工場が立地する工業団地があり、耕成会館で下車した乗客はこの工業団地への通勤客のようであった。その後、岩見沢市内から乗車した乗客で、栗山中央公園で下車した乗客が1名あり、車内は筆者とバスファンとおぼしき方の2名のみとなった。

 バスは、JR室蘭本線の栗山駅を過ぎると栗山中央2丁目で1名乗客を拾い、やや大きな市街地を形成している栗山町角田地区の角田本通りで下車。再び車内は筆者とバスファンとおぼしき方の2名のみとなり、この状態が終点まで続いた。

 そして、終点のレースイリゾートには定刻の8時5分ジャストに到着した。ICカードリーダーにICカードをタッチして下車しようとしたところここで問題が発覚。ICカードがまったく反応しないのである。再びタッチしようとしたところ、運転手さんから「このバスはローカル路線バスだからICカードは使えないよ」と一言。高速ゆうばり号であればICカードが使用できるそうだが、岩見沢―夕張間の路線では使えないとのことだったので、財布から現金を取り出して1430円を支払って下車することになった。

終点のホテルマウントレースイは営業再開の見込みなく

夕張市街地に入って最初の青看板からは「夕張」の文字が消されていた!?(筆者撮影)
夕張市街地に入って最初の青看板からは「夕張」の文字が消されていた!?(筆者撮影)

 岩見沢―夕張間の路線バスについては栗山町の角田から夕張市内まではほぼ利用者がいないことが実態のようで、こうした状況を発信すると「だから廃止されてしかるべき」という反応を示されるかたが一定数いらっしゃる。しかし、日常的な利用者がいないことが問題の本質と言えるのだろうか。

 バスの終点であるレースイリゾートの前にはホテルマウントレースとマウントレースイスキー場が立地しており、これらの施設が営業していれば一定の通勤需要が発生することになる。8時5分の到着は夕張への通勤を考えた場合にもちょうどよい時間帯と言える。しかし、これらの施設は、鈴木直道氏が夕張市長を務めていた2017年4月、市が所有するほかの観光施設と併せて破格の2億4000万円で中国系資本の企業に売却された。

 この背景には、この中国系企業が従業員の継続雇用に加え、長年にわたって施設の運営と地域活性化を行うという同社社長と鈴木氏の口約束があったことが市議会議事録における鈴木氏の発言から明らかになっている。さらにこの時、同社社長と鈴木氏が行った共同記者会見の場で、同社が夕張市に対して100億円規模の投資を行い国際的なリゾート地にするという構想も発表されている。しかし、この約束は守られることはなく「攻めの廃線」が行われた2019年に観光施設は香港系ファンドに15億円で転売され翌年これら施設の運営会社は倒産。それ以降、ホテルマウントレースイは閉鎖が続いている。

閉鎖が続くホテルマウントレースイ。奥には待機する高速ゆうばり号(筆者撮影)
閉鎖が続くホテルマウントレースイ。奥には待機する高速ゆうばり号(筆者撮影)

 もし、当初の構想通りに夕張市が国際的なリゾート地に変貌を遂げていれば、岩見沢―夕張間の路線バスについても一定の通勤需要や観光需要が生まれることから、この問題の本質は夕張市の観光・経済政策の失敗に行きつくのではないだろうか。

(了)

鉄道ライター

鉄道に乗りすぎて頭の中が時刻表になりました。日本の鉄道全路線の乗りつぶしに挑戦中です。学生時代はお金がなかったので青春18きっぷで日本列島縦断修行をしてましたが、社会人になってからは新幹線で日本列島縦断修行ができるようになりました。

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