大学生のマナーの基準は「忖度と損得」〜大学生意識調査プロジェクトより〜
大きく変化するマナー意識について大学生が大学生に調査した
「満員電車でスマホをいじる」のはマナーとしてありかなしか?「許可をとらずにお店で料理の写真を撮る」のはありかなしか?あるいは自分でもやっているかいないか?答えは今、人によってかなり違うのではないだろうか。
スマートフォンなど新しいツールが日常に浸透したいま、マナーについて人びとの意識は大きく変わりつつある。またマナーについての意見の相違が時にネットで“炎上”を巻き起こしている。マナーについて私たちは考えるべきであり、一方で変な方向に考えすぎている気がする。
そんなことを感じさせてくれた調査結果が今月発表された。「大学生意識調査プロジェクト(FUTURE2017)」は首都圏の6つの大学(青山学院・駒澤・上智・専修・千葉商科・日本)で広告やマーケティングを学ぶ学生が集まったチームだ。毎年同様のプロジェクトが行われ、東京広告協会という業界団体の協賛で“大学生が大学生を調査する”取組みが行われてきた。今年の学生たちが自ら選んだテーマが「マナー」だった。
私が運営する勉強会「ミライテレビ推進会議」では東京広告協会の仲介で毎年この調査結果を学生さんたちに発表してもらっているのだが、今年のテーマは多くの人びとに関わりがあると思うので、ここで紹介・解説したい。
なお、報告書はこのURLで全文読めるので興味あればぜひ目を通してみてほしい。
→http://www.tokyo-ad.or.jp/activity/seminar/pdf/FUTURE2017_full.pdf
(調査対象は彼ら自身が在籍する6つの大学の各学年の男女21名ずつ、合計1008名)
マナーが悪いのは学生のせいだが、自分はちゃんとしてる!
まず最近の世の中のマナーについて「悪いと思う」と答えたのが全体の約6割で、大学生たちがマナーの悪化を憂いていることがわかる。そして、誰がマナーを悪化させているのかとの問いには、65.1%が「大学生・短大生・専門学校生」つまり自分たちの属性だと答えた。
ところが、自分自身がマナーを守っているかを聞くと「そう思う」と答えた人が約9割だった。自分たち学生がマナーを悪くしているが、自分はマナーを守れている、という矛盾した結果。いま一度学生自身が自分のマナーを見直したほうがいいのかもしれない。だが一方で、他の属性でも同じ傾向なのではないだろうか。私の感覚だと中年男性がマナーを悪くしているような気がするし、自分は守れていると感じている。自分に似た人のマナーがいちばん気になるとすると、誰しも自らのマナーをチェックする必要がありそうだ。
マナーのグレーゾーンが登場している
一方、マナーの具体的なことを聞いていくと、いま非常にマナーが難しく、また変化していることが感じとれる。何がマナー上ありで、何がマナー違反なのか、判断がしにくいことが増えているのだ。その一例がこのグラフだ。
冒頭で書いた「料理の写真を許可を得ずに撮る」をはじめ、微妙で人によって違いそうなことが多い。それらの多くはスマートフォンやネットサービス、電子タバコなど最近登場したものの扱いによるものだ。
他にも微妙な調査結果を紹介すると・・・
- 電車やバスなどで飲み食いをする→する40.9% しない59.1%
- 歩きながらハンズフリーで通話をする→する39.8% しない60.2%
- 食事中にスマホをいじる→する63.3% しない36.6%
- 他人が写ってる写真・動画を勝手にSNSに投稿する→する46.0% しない54.0%
読者の皆さんはどうだろう?社会人だからといって正しく振る舞えているかわからないのではないか。いや、そもそも何が正しいのか言えないことばかりではないだろうか。
友だちに「忖度」する一方、合理的で「損得」を重視する
よく言われる通り、調査結果からも友だち関係を今の大学生たちは非常にケアしていることがわかった。そしてそこにはSNSが強く影響を及ぼす。上の世代から見て面白いのが、「LINEの既読無視を“了解しました”の返事の代わりにする」という項目は自分でもあまりやらないし、周囲がすると気になる部類の行為だった。これに対し、「LINEですぐに返信ができない時に既読無視より未読無視を選ぶ」ことは、自分でもやるし周囲がやっても気にならない行為なのだそうだ。
つまり、いま学生たちの間では友だちからのLINEを既読無視つまり「読んだけど返信しない」のはマナー違反で、そうするくらいなら未読無視つまり「まだ読んでない」状態に意図的にするべきだということらしい。LINEの使い方においてもそれほど友だちからどう思われるかを気にする、そこにSNS時代の学生たちの人間関係の特徴が表れていると思う。そのことを、報告書では「友人関係での忖度」を気にしているとまとめている。
一方で今の学生たちは「合理性」を重視していることもレポートされている。例えば「授業内容を正しく記録するため、板書・スライドをスマホで撮影する」「譲るべき人がいない場合に、優先席に座る」といった質問項目には、自分でもやるし周囲がしても気にならないと答える人が多かった。つまり肯定的に捉えているわけだが、それは合理的な考え方の表れだと報告している。
無駄を嫌い、効率化をよしとする学生たちの意識は、下のグラフにもはっきり見えているという。
もっとも私も若い頃はレンタカーやクーポンをデートで使うことはあったので、いまの若い世代特有の“合理性”かは疑問が残ったが。
礼儀の国への誇りと、不要なマナーを変えたい意識
マナーに対する学生たちの様々な意識が見えてきたが、この国のマナー意識についてどう感じているのだろう。調査結果からは、礼儀を重んじること日本の美徳を若い世代なりに肯定的に受けとめていることがわかる。
面白いのは、その一方で「時代遅れなマナーが多いと思うか」の問いには4割強が「そう思う」と答えていることだ。礼儀を重んじる伝統は肯定する一方で、納得のいかないマナーに疑問を持っているのだ。無意味なマナーを聞くと「頭髪のルール」「お付き合いの飲み会」「リクルートスーツ」などが挙がっている。
彼らの報告を勉強会で発表してもらった際、この「無意味なマナーをアップデートしたい」という点がメッセージとして伝わってきた。素晴らしい主張だし、上の世代として応援したいと思う。
一方で、学生たちの意識は親子ほど年の差がある私とも変わらない気もした。私が社会人になった頃は「新人類」と呼ばれ上の世代のマナーを知らないし、上司に飲み会に誘われても平気で断る、旧人類とはまったくちがう世代だなどと言われたものだ。我々も若い頃は、おかしな常識はアップデートしたいと考えたはずだ。でも結局それは変わらなかったうえに、自分たちが年をとったら、同じように理不尽なマナーを押し付けているのかもしれない。
変わっていないからこそ、変えるべきだと思う。自分たちが変えたいと思っていたことを、若い世代が同じように変えたいと思っているのなら、一緒になって変えられるはずだ。くだらない常識は、老いも若きもともに手を組んで変えていこう。そして美しい礼儀は守っていこう。レポートから私はそんなことを考えた。ぜひ皆さんも目を通して彼らのメッセージを受けとめてあげてほしい。