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脚本と小説はどう違う? 舞台『しろばら』脚本家が語る意外な基本「心情は書かない」

コティマムフリー記者(元テレビ局芸能記者)
舞台『しろばら』の台本/筆者撮影

 10月17日から大阪・大阪市のインディペンデントシアター2ndで、演劇ユニット・BACK ATTACKERS(以下、BA)による舞台『しろばら』が上演されます(20日まで全7公演)。BAを主宰する脚本家で俳優の萬浪大輔氏が脚本・演出を手掛けており、自身も出演。俳優の天崎ことりが主演を務め、青木愛 、新太シュン 、忽那美穂 、谷屋俊輔 、森田兼史 、杉本佳毅 、申大樹 、藤森海 、山植久美加 、雨宮綾真 、大國明里 、おくむらたかし 、松岡美桔 、櫻川ヒロが出演します。

舞台『しらばら』を上演するBACK ATTACKERS/筆者撮影
舞台『しらばら』を上演するBACK ATTACKERS/筆者撮影

 本作は、イギリスの劇作家ウィリアム・シェイクスピアの喜劇『真夏の夜の夢』のオマージュと、第二次世界大戦中にミュンヘン大学の学生だったハンス・ショルとゾフィー・ショル兄妹らによって起こった反ナチス運動「白バラ」を融合させた物語。24年1月に東京・下北沢で上演され話題となり、大阪での再演が決定しました。

舞台『しろばら』/提供:BACK ATTACKERS
舞台『しろばら』/提供:BACK ATTACKERS

 今回は、元テレビ局芸能記者で現・フリー記者のコティマムが、BAの舞台稽古を取材。インタビュー最終回となる今回は少し趣向を変え、脚本家の萬浪氏に「脚本とは何なのか」を伺いました。(取材・文=コティマム)

実際に使われている台本/筆者撮影
実際に使われている台本/筆者撮影

※インタビュー前編はこちら「舞台『しろばら』の脚本家&キャストに聞く複雑なストーリー背景 戦時中の胸中はディスカッションで想像

※インタビュー中編はこちら「舞台『しろばら』は喜劇と悲劇の融合 ”相反するもの”を混ぜる脚本家の信条とは

脚本に書くのは状況や動作「心情は俳優に任せたい」

脚本家の萬浪大輔氏/筆者撮影
脚本家の萬浪大輔氏/筆者撮影

 

『しろばら』の舞台はドイツ・ミュンヘンからほど近い、迷いの森。貴族の娘・ハーミア(天崎)は、恋人で元軍人の学生・ライサンダー(青木)との結婚を、父・イジーアス(谷屋)と貴族の検事・シーシアス(萬浪)に反対されてしまいます。そこでライサンダーと約束を交わし、迷いの森を抜けて海の向こうにある自由を求めます。

 そんなハーミアを追って、許嫁のディミートリアス(新太)が森の中へ……。すると、ディミートリアスに恋するヘレナ(忽那)まで森にやって来ます。 森の妖精・パック(大國)と妖精王・オーベロン(おくむらたかし)は、彼らを導こうとします。物語はシェイクスピアの『真夏の夜の夢』をオマージュして進みながら、「白バラ運動」が絡み合っていきます。

――萬浪さんは俳優であると同時に、脚本家として脚本を書かれ、演出もしています。そもそも、脚本というのはどういうものなのでしょうか。物語や小説との違いはありますか。

萬浪大輔氏(以下、萬浪):僕は戯曲の脚本を書いています。戯曲の場合は、台本上で「登場人物たちが置かれている状況」は説明するのですが、その登場人物の「心情」は、俳優が演出がするというイメージです。

――心情、ですか。

萬浪:「この登場人物がこう思った」「この人はこういう感情で、だからこういう風に手を伸ばした」という気持ちや心情部分は、役者に任せます。小説家の場合は、「彼はこう思ったから、こういう気持ちで手を伸ばし、その指先でここを触り、さらにこんな風に感じた」というところまで細部に書きますよね。登場人物が”どう思ってどう動いたか”までを書きます。

でも戯曲の脚本では、登場人物のセリフや行動は書くのですが、その”心情”は書いてないんです。

登場人物のセリフが書いてある舞台『しろばら』の台本/筆者撮影
登場人物のセリフが書いてある舞台『しろばら』の台本/筆者撮影

――確かに、台本に心情が書かれていませんね。

萬浪:「にっこり笑って撮られる」という行動は書くけれど、「どういう気持ちでにっこり笑って撮られるのか」は、俳優に任せたいと思っています。情景は書くけれど、心情は基本的には書かないのが脚本ですかね。

――台本を見て、役者は自分で心情を考えるのですか。

萬浪:そうですね。僕は、俳優は”思考する生き物”だと思っています。”考える生き物”だと。作業的にただセリフを言っているわけではなく、思考して心の部分から立ち上がる精神が備わって、そこから創り上げてから、声としてセリフが出ていくのが基本です。

そのためには、自分で考えなければいけない。思考しなければいけない。誰かに「こうだよ」と言われて機械的にやっていては、俳優のアイデンティティーやオリジナリティーは出ないと思っています。

舞台稽古で演出と演技指導をする萬浪氏/筆者撮影
舞台稽古で演出と演技指導をする萬浪氏/筆者撮影

――萬浪さんの場合は、演者として舞台に立つこともありますが、俳優としての自分と脚本家としての自分は違うのでしょうか。

萬浪:そこは全然違います。自分で書いた脚本なのに、俳優としては、その時に思ったことや感じたことを直接演技で表現するので、自分が脚本を書いた時に思い描いていたこととは、全然違うお芝居をすることもあります。でも正しいのは”その瞬間に感じたこと”だと思っていて、それで脚本家が想像したことよりも面白くなるなら、僕はそれでいいと思っています。

――他の脚本家が書かれた作品で、脚本家と自身が考える登場人物の心情が違うことはありますか。

萬浪:少なくとも、僕の場合は戯曲の脚本なので心情を書きません。書いていない以上、”心情は俳優に任せる”というのが僕なりの解釈です。でも、他の脚本家の方も動作を指示することはあっても、俳優が作っていた心情に関しては、特にけんかになることはないですね。僕が書いたものをやる場合でも、そこは俳優にお任せしています。

タイプと同時に浮かぶセリフとアンサー「ひとりでにキャラクターが歩き出す」

セリフと動作のみを書いている台本/筆者撮影
セリフと動作のみを書いている台本/筆者撮影

――『しろばら』の脚本は133ページあります。第1稿は2週間で完成したそうですが、こうしたストーリーやキャラクタは一気に思い浮かぶのですか。

萬浪:キャラクターは途中から現れることもありますが、基本的には主人公がいて、この登場人物が先に現れて……など、物語をつむいでいく中で生まれていきます。

ただ、途中からひとりでにキャラクターが歩き出すようになります。

――キャラクターが歩き出す?

萬浪:例えばこの作品では、ハーミアの許嫁のディミ―トリアスは、結構変態というか(笑)、ハーミアが大好きです。なので、「ハーミアのことをどう思っているのか」「ハーミアの恋人・ライサンダーのことをどう思っているのか」など、それぞれに思いが違います。

この状況では、ディミートリアスは何をするだろう。おそらく、大好きなハーミアのところに行くよね。そうしたら、ディミ―トリアスのことが好きなヘレナは、彼を追いかけるよね……と。これが、それぞれのキャラクターが「存在する」ということです。

――確かに、そのキャラクターの「次にしたいこと」が勝手に見えてくるようです。

萬浪:ようするに、それぞれのキャラクターに欲求・目的があるのです。台本に現れるキャラクターには、すべからく目的がある。その目的遂行のために、「よーいどん」でみんなが走り出す。

敵対する人物同士だとぶつかってけんかになるし、その時に「この人なら、この相手に何が言いたいだろう」「この立場なら何て言うだろう」「殴るかもしれない」「逃げるかもしれない」と、登場人物の目的や欲求がどんどん生まれていく感じです

動き出す登場人物たち/筆者撮影
動き出す登場人物たち/筆者撮影

――キャラクターが定まると、勝手に進みだしてくれるのですね。頭の中に物語が浮かんできて、パソコンを打つ手が追いつかないことはありますか。

萬浪:間に合わないこともありますが、僕の場合は特殊なのか、(PCを)タイプするとセリフが生まれ、セリフのアンサーがその場で浮かぶ感じです。頭の中で先にセリフのやりとりがたくさん浮かぶのではなく、タイプしながら同時に浮かんで進んでいくので便利です、物語が先行して浮かぶのは稀ですね。

――書いている時は、もう映像として浮かんでいるのですか?

萬浪:そこまでは出てきていないですが、舞台セットはざっくり浮かんでいますね。戯曲を書く段階で場所(劇場)は考えるので。でもその後は、「キャラクターたちがどこにいたいだろうか」「どこなら決闘できるだろうか」ということを考えて広がっていきます。僕の場合は、舞台の全体映像というよりは、登場人物だけが浮かんでいる感じです。

――脚本家の頭の中を見せていただいたようなお話でした!

舞台『しろばら』のキャスト相関図/提供:BACK ATTACKERS
舞台『しろばら』のキャスト相関図/提供:BACK ATTACKERS

 舞台『しろばら』はあす17日から大阪・大阪市のインディペンデントシアター2ndで上演。20日まで全7公演行われます。喜劇と悲劇が融合し、どんでん返しが待っている社会派作品。ぜひチェックしてみてくださいね。

 取材に関する記事については「『スポーツの日』に知りたいキーワード! ”ファンクショナルトレーニング”ってなに?」もご覧ください。※スマホからご覧の方は、プロフィールからフォローしていただくと最新記事の見逃しがなくおすすめです。リアクションボタンもプッシュしていただけると、励みになります!今後も記者目線で、「ちょ~っとだけタメになる(?)」言葉解説をつづっていきます。

※今回の記事は、主催者に掲載の許可をいただいた上で公開しています。

フリー記者(元テレビ局芸能記者)

元テレビ局芸能記者で、現・フリーランス記者。歌舞伎や舞台、芸能イベント、企業・経営者を取材中。記者目線ならではの“言葉のお話”や、個人的に取材したおもしろ情報を発信していきます♪執筆記事1万本以上。取材は5200回以上。現在は『ENCOUNT』、小学館『DIME WELLBEING』、舞台評、出版社書籍要約、企業HP制作など多岐に渡り執筆中。過去媒体にテレ朝ニュース、キャリコネニュース、音楽雑誌『bounce』etc.

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