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新幹線の「減便取り止め」 対照的だったJR各社の対応から、何がわかるのか?

小林拓矢フリーライター
東海道新幹線では車両性能を統一することで緻密なダイヤと臨機応変な対応が可能に(写真:アフロ)

 「JR東日本が、5月28日からの減便ダイヤを取りやめる検討をしている」――数日前から、いくつかのメディアで報じられてきた。すでに多くの県で「緊急事態宣言」は解除され、大阪や京都なども解除、残るは一都三県と北海道だけになっている。そんな中、JR東日本が5月8日に発表した減便ダイヤをどうするかが焦点となっていた。22日に減便ダイヤはほぼ取り消しとなった。

 一方、JR東海は5月7日に発表し、11日からの減便ダイヤを5月31日で中止し、定期列車に関しては6月1日からもとどおりのダイヤにすることになった。

 JR東海の的確な判断と、JR東日本の後手の判断の明暗が分かれた形になる。

東北新幹線などの減便はなぜ取り消されたのか

 JR東日本の減便ダイヤは、既存の新幹線ダイヤをベースにしつつも、大幅に減便し、その上で停車駅を増やすというものであった。こういったダイヤは、利用者が減っているときにこそ行うべきであった。

 だが、5月14日に39の県で緊急事態宣言が解除され、通常通りの移動を必要とする人に交通機関を提供する必要が生まれてきた。このような状況の中で、東北・上越・北陸新幹線の減便はほんとうに必要なのか、という考えが出てきたことが考えられる。

 さらに21日には、JR東日本の営業エリアとは直接関係ないものの、京都府・大阪府・兵庫県の緊急事態宣言が解除された。

 そんな中、同日に東京都・神奈川県・千葉県・埼玉県と北海道の緊急事態宣言を解除するかどうかを25日に判断すると安倍首相は表明した。

 そうなるとJR東日本も判断の見直しをせざるを得ない。緊急事態宣言をなるべく早く解除したいという安倍政権の意向も見られる中、多くの人が通常通りに生活するようになり、新幹線車両が「3密」になりかねないという状況をどうするかということが問われる情勢になってきた。

 そこで減便取り消し、ということになったのだろう。

 JR東日本などの減便は、8日に発表したものとしても、28日から実施するには明らかに間隔が空きすぎている、という見方もある。列車ダイヤの調整はなかなか手間であり、さらに運転士や車掌、その他運行に関わる従業員の手配をどうするかの調整も必要だったものの、状況の変化が激しく、ついていくことができなかった。

 その結果として、減便取り消しということとなったと考えられる。

 一方で、完全に取り消したというわけではない。

 北陸新幹線「はくたか」はすべて運行を行い、上越新幹線「とき」などももとどおりとしたものの、「はやぶさ」の新青森~新函館北斗間は一部運休するということになった。JR北海道は特急の減車・減便を続けることになり、それとあわせて北海道新幹線も減便ということになったと考えられる。

 また、28日からの運行でも、「3密」を避けるためのくふうはされている。停車駅の少ない列車では、普通車指定席を定員の6割、グリーン車を定員の5割を上限として発売するという。普通車ならA席・C席・E席、グリーン車ならA席・D席に座る(ひとりで乗る場合)となるのだろう。

 需要にあわせ、本数をもとどおりにし、かつ「3密」を避けるためには、後手の対応とはいえどもこれしかなかった。

東海道新幹線の対応の早さ、九州新幹線は減便が続く

 JR東海・西日本は6月1日からの運転計画見直しを5月22日に発表した。東海道新幹線では定期列車はすべて運行し、山陽新幹線に乗り入れる列車もすべて運行、「のぞみ」はもとどおりになる。

 一方、JR九州は運転計画見直しの発表を行っていない。「みずほ」の大幅減や「さくら」のダイヤ見直しなどは引き続き行われる。

 おそらく、山陽新幹線のダイヤが東海道新幹線のダイヤ復帰と九州新幹線の減便継続の調整として使われたのだろう。

 九州新幹線の減便は、JR九州が緊急事態宣言解除後も人の動きがもとのようになっていないという現状を把握した上で行っていることであり、いまのダイヤでも「3密」は避けられるという判断をしていると考えられる。

 一方で東海道新幹線の定期列車全面運行再開は、東京~名古屋~新大阪間の運行本数を確保しつつ、利用者が増えたら「3密」になりかねない――とくに、「のぞみ」は――という状況もあり、行われることになったのということではないか。

 その中で山陽新幹線は、「ひかり」増便を継続し、「みずほ」「さくら」のダイヤを埋め合わせ続けている。置かれた状況の異なるJR東海とJR九州の対応を橋渡しする役割を、JR西日本は果たしている。

 さすがのJR東海も、5月25日に東京都などの緊急事態宣言が解除されるか、5月末まで宣言が続くかは判断ができていない。しかし、本当に状況が悪化しているときに減便し、回復を見越して運転計画を立て直すというのは、よく考えられたものだという見方ができる。

 JR東海の新幹線は、全車両が同一座席配置、性能も同じ(しかも現在は全車両N700Aに統一されている。近くN700Sが登場予定)ということもあり、何かあったときの運用変更などにも即座に対応できるということになっている。そのために東海道新幹線と九州新幹線の直通列車がなかったり、500系のような車両が東海道区間を走らなくなったりということにもなった。こういった方針は一部の鉄道ファンの間では評価が低いものの、この状況下では正しかったといえる。

 緊急事態宣言の中、新幹線のダイヤをどうするかの各社の判断は異なったものの、対応の仕方で各社の性格が見えると言えるのではないだろうか。

フリーライター

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。鉄道関連では「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」などに執筆。単著に『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)など。鉄道以外では時事社会メディア関連を執筆。ニュース時事能力検定1級。

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