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加熱式タバコを吸うと「新型コロナ」にかかりやすく重症化リスクも高くなる:大阪公立大学などの調査研究

石田雅彦科学ジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 喫煙は、新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の感染や重症化のリスク要因だ。今回、紙巻きタバコとの二重喫煙者(デュアルユース)を含む加熱式タバコ(新型タバコ)の喫煙者で、よりリスクが高くなることがわかった。

加熱式タバコは害が少ないのは本当?

 アイコス(IQOS)、グロー(glo)、プルーム(Ploom)といった新型タバコがタバコ会社から製造販売されているが、これらはタバコ葉を燃やさずに加熱することから加熱式タバコと呼ばれている。タバコ会社は、有害性、臭い、煙などが紙巻きタバコより少ないと主張していることから、健康悪化を心配しつつ、タバコをやめられない(ニコチン依存から脱せられない)喫煙者の間に使用が広がっている。

 これら加熱式タバコは、本当に有害性などが少ないのだろうか。

 実は、タバコ会社の研究グループでなかったりタバコ会社から資金提供を受けてないこれまでの中立的な研究によれば、新型タバコにも健康への害があるという結果が増えてきている(※1)。

 例えば、IQOS(金属板にスティックを差し込む旧タイプ)のエアロゾルから炭化した有害物質が検出されたという英国ノッティンガム大学の研究があり、香港の高校生で非喫煙者と加熱式タバコの喫煙者を比べたところ、咳や痰が出るなどの呼吸器の異常が加熱式タバコの喫煙者で多かったという報告も出ている(※2)。

 また、タバコ会社の研究でも述べられているが、紙巻きタバコも加熱式タバコも吸う二重喫煙(デュアルユース)の場合、健康懸念の払拭のために新型タバコを吸う意味はほとんどない(※3)。だが、実際にはこうした二重喫煙者は多く、健康影響について加熱式タバコの実態がつかめない原因にもなっている。

 新型コロナでは、年齢、性別、基礎疾患、生活習慣など、多種多様なリスク要因が調べられてきた。その中で、喫煙も感染や重症化のリスク要因とされているが(※4)、関係はないとする研究もあり(※5)、これについてはパンデミックの初期から議論が続いてきた。

紙巻きタバコとの二重喫煙でハイリスクに

 今回、大阪公立大と大阪国際がんセンターの研究グループが、加熱式タバコを吸うと新型コロナに感染したり重症化したりしやすくなる傾向があることがわかったと発表した(※6)。

 同研究グループは、インターネット調査会社が2022年2月に行った生活状況調査のデータを活用し、オンラインのアンケートに回答した3万130人のうち、2020年から2021年の間に1度だけ感染した1097人(16歳から81歳)について、加熱式タバコを含むタバコの使用状況と新型コロナの感染および感染時の悪化(入院、酸素投与)の有無、感染および悪化との関連が考えられる項目を抽出し、その関係性について統計解析を行ったという。

 その結果、感染者の割合は、タバコをこれまで吸ったことがない人で2.34%、紙巻きタバコのみ吸う人で2.58%となり、加熱式タバコのみを吸う人で4.81%、両方吸う二重喫煙者では19.27%と高いリスクだった。さらに、感染者で入院した人の割合は、タバコをこれまで吸ったことがない人が23.3%、紙巻きタバコのみ吸う人が37.6%、加熱式タバコのみ吸う人は37.7%となった一方、これも両方吸う二重喫煙者で69.5%とかなりのハイリスクだった。

新型コロナの感染リスク(表1)と悪化(重症化)リスク(表2)における喫煙するタバコ製品による比較。いずれも加熱式タバコのみ、紙巻きタバコと加熱式タバコの二重喫煙で高いリスクとなった。大阪公立大学プレスリリースより。
新型コロナの感染リスク(表1)と悪化(重症化)リスク(表2)における喫煙するタバコ製品による比較。いずれも加熱式タバコのみ、紙巻きタバコと加熱式タバコの二重喫煙で高いリスクとなった。大阪公立大学プレスリリースより。

 これらの研究結果について、同研究グループの浅井一久(大阪公立大学医学研究科呼吸器内科学)氏に話をうかがった。

──入院リスク、酸素投与治療でデュアルユース喫煙者のリスクが高かったという結果ですが、紙巻きタバコ、加熱式タバコ単独よりもそれぞれリスクが高い理由はどのようにお考えでしょうか。

浅井「単独群より併用群は総喫煙量が多いことが影響していると考えられます。ただ、今回の調査では喫煙量は調べておらず、推測の域を出ません」

──二重喫煙(デュアルユース)喫煙者の場合、紙巻きタバコのみの喫煙者に比べ行動様式が異なっている(紙巻きタバコは自宅のみ、加熱式を外で、など)ことが影響している可能性についてどうでしょうか。

浅井「私たちの解析では、喫煙者では感染予防行動が不十分な可能性が示されています。手軽な分、加熱式タバコを自宅外の喫煙所や喫煙所以外でも使用している可能性があり、その際はマスクをしていませんので、感染リスクが高い可能性があります」

──喫煙者は一般的に非喫煙者に比べ、より広く活動する(タバコを買いに出かけたり、喫煙場所を探すなどの理由)と考えられていますが、今回の結果との関連はどのようにお考えでしょうか。

浅井「活動量と加熱式を含むタバコ使用とは相関はしませんが、活動量が多い方のほうが感染リスクが高かったです。私は非喫煙者ですので、分からない部分もありますが、喫煙者が喫煙するために活動が高い可能性はあるかと思われます」

 これまでの他の研究で、アイコスで自己炎症性疾患(自分の免疫システムが自分を攻撃してしまう病気)に関連するタンパク質(IL-1β)がも増えていたという結果があり、このタンパク質はCOPD(慢性閉塞性肺疾患)の発症や新型コロナのサイトカインストームにも関係していると考えられている。アイコスがACE2の発現に関係するシステムに影響し、紙巻きタバコと同様に気道の炎症を増やし、COPD(慢性閉塞性肺疾患)や新型コロナの重症化リスクを大きくする危険性があるというわけだ(※7)。

 今回の研究結果により、特に紙巻きタバコと併用して加熱式タバコを吸うと新型コロナにかかりやすく、重症化リスクも高くなる危険性があることがわかった。

 喫煙は、紙巻きタバコにせよ加熱式タバコにせよ、健康に害をおよぼす。他者への受動喫煙の害も同じだ。新型コロナに限らず、がんをはじめ、多くの喫煙関連疾患を引き起こすことが知られている。できる限り早く禁煙したほうがいいだろう。

※1:Farzad Moazed, et al., "Assessment of industry data on pulmonary and immunosuppressive effects of IQOS" Tobacco Control, Vol.27, s20-s25, 29 August, 2018

※2-1:Clrement N. Uguna, Colin E. Snape, "Should IQOS Emissions Be Considered as Smoke and Harmful to Health? A Review of the Chemical Evidence" ACS OMEGA, doi.org/10.1021/acsomega.2c01527, 22, June, 2022

※2-2:Lijun Wang, et al., "Characterization of Respiratory Symptoms Among Youth Using Heated Tobacco Products in Hong Kong" JAMA Network Open, Vol.4(7), e2117055, 14, July, 2021

※3:Frank Lucicke, et al., "Effects of Switching to a Heat-Not-Burn Tobacco Product on Biologically Relevant Biomarkers to Assess a Candidate Modified Risk Tobacco Product: A Randomized Trial" CANCER EPIDEMIOLOGY, BIOMARKERS & PREVENTION, Vol.28, Issue11, 1, November, 2019

※4:Huimei Zhang, et al., "Association of smoking history with severe and critical outcomes in COVID-19 patients: A systemic review and meta-analysis" European Journal of Integrative Medicine, Vol.43, 101313, April, 2021

※5:Yumi Matsushita, et al., "Smoking and severe illness in hospitalized COVID-19 patients in Japan" International Journal of Epidemiology, Vo..51, Issue4, 1078-1087, 11, December, 2021

※6:Misako Nishimura, et al., "Association of combustible cigarettes and heated tobacco products use with SARS-CoV-2 infection and severe COVID-19 in Japan: a JASTIS 2022 cross-sectional study" scientific reports, 13, Article number: 1120, 2, February, 2023

※7-1:Han-Hsing Tsou, et al., "Effect of heated tobacco products and traditional cigarettes on pulmonary toxicity and SARS-CoV-2 induced lung injury" Toxicology, Vol.479, doi.org/10.1016/j.tox.2022.153318, September, 2022

※7-2:Kevin John Selva, Amy W. Chung, "Insights into how SARS-CoV2 infection induces cytokine storms" Trends in Immunology, Vol.43, Issue6, June, 2022

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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