軽やかに、鮮やかに、点と点をつなげる…若き俳優たちが体現する等身大の自己発信力とは?(後編)
5月14日(土)から東京・ポレポレ東中野で映画『距ててて』(読み:へだててて)が公開となる。同作は、加藤紗希(振付師/俳優)と豊島晴香(俳優)の創作ユニット「点と」が製作した初の長編映画にして、初の劇場公開作品。写真家を目指すアコ(加藤)とフリーターのサン(豊島)の共同生活を、二人を取り巻くちょっと変わった人々とのやりとりを織り交ぜながら、4編のオムニバス構成で軽やかに描き出している。
その軽やかさの秘密は何なのか? 先だって配信したインタビューの前編では『距ててて』を手がけた加藤紗希(監督)、豊島晴香(脚本)に加え、釜口恵太(第1章出演、助監督、衛生班、スチール、車輌)、神田朱未(第2章出演、劇中料理、ケータリング)、髙羽快(第2章出演、助監督、スチール)らクリエイティブチームの一員でもある出演者たちにも参加してもらい、撮影の裏側を聞いたが、今回は劇場公開に至るまでの道のりを聞いた。(本文中は敬称略)
■若手の登竜門的な国内映画祭で次々と入選
「第43回ぴあフィルムフェスティバル(以下PFF)」「第22回 TAMA NEWWAVE」「第15回田辺・弁慶映画祭」など、若手の登竜門ともいうべき、国内の主要映画祭で相次いで入選を果たした本作。いとうせいこう、前田弘二監督ら著名クリエーターたちからも賛辞が送られている。
加藤:まず『泥濘む』のPFF入選があって。次に同じメンバーで違う長編作品を作りたいという目標があったんですけど、それともう一つ。もう一度PFFに入選したいということも大きく目標に置いてたんです。それでPFFが決まって、TAMA NEW WAVEも決まって田辺も決まってという感じでした。
豊島:撮影の時からPFFに入選したいというのは言ってたよね。
加藤:そう。そこから他の映画祭にも行って。ゆくゆくは劇場公開もできたらいいなという夢みたいなことを言ってました。でもまずはPFFの締め切りに間に合わせなきゃいけない。だからみんなに協力してくださいとはお願いしてました。
高羽:僕はこの2人の勢いに巻き込まれてました。
豊島:巻き込んだね。
高羽:だから本当にやるんだなと。それが入選してて本当にすごいなと。ちゃんと実現するか否かは別として、やりたいと思ったことを取りあえずやろうというのはすごいなと思いましたね。
■俳優みんなで力を合わせて作った映画
本作は5月14日よりポレポレ東中野で劇場公開されることとなった。どのようにして劇場公開までこぎつけたのだろうか。
加藤:実はPFFで上映される前に、ポレポレ東中野の小原さんという方に映画を観てほしいと連絡をしたんです。その方は8年ぐらいPFFのセレクションメンバーをやられてて、『泥濘む』のときには一次審査員をやってくださっていたんですが、今回はセレクションメンバーに入っていなかったので、ぜひとも観てもらいたいと思って。それで観てくださったんですが、その時に「この作品で劇場デビューをしたいのであれば相談に乗りますので、いつでも言ってください」みたいなことを言ってくださって。
その後、小原さんが「例えばどんなところで劇場公開したいですか」と聞いてくださったので、「できたらポレポレ東中野さんでかけていただけたら」みたいなことを言ったら「ぜひやりましょう」と。それがPFFで上映する前。入選は決まってたんですけど、PFFの上映前にもう劇場公開を決めてくれたんです。
神田:わたしは2人の、とにかく分かんないけどやってみよう、みたいなところにすごく感銘を受けたんです。「えっ、いきなり3週間公開するの? それ大変じゃない?」って。実際本当に大変なんだけど、でもその先に何があるのかなというのは楽しみですし、学ぶことも多い。そういう2人のパワーが結構この映画にギュッと詰まってる気がします。それを皆さんが見てなんかありだなとか、より広いとこに行けるかもな、みたいな感じに思ってもらえたら、めちゃくちゃ幸せだなと思います。
豊島:なんかウルウルしちゃう。
加藤:本当にこうやって俳優のみんなで力を合わせて作った作品なので。できるだけ別の俳優の方にも観てもらえたらいいなと思っていて。自分たちでもこんなことができるんやでみたいな。やってみよう精神で仲間を集めたらできるんだと。もちろんわたしたちはすごく幸せな例だと思うんですよ。こんなに才能があって、信じられる仲間がいるわけだから。でもやってみたいと思うことに対して、素直にやってみることを大切にしたいなと思ってるので。そんな姿を見て、ちょっとでも楽しいなと思ったり、ちょっとでも新しいことをやってみようかなと思ってもらえたらといいなと思っています。
■彼女たちを創作に向かわせるものとは
インタビュー前編の回答で「俳優として、映画に出る機会を自分で作るべきという感覚はそんなになかった」という言葉があったが、そんな彼女たちを創作に向かわせるものとは何なのか。今回のテーマだということもあり、最後にそのあたりをもう少し深掘りしてみたい。
加藤:私は元々は映画が好きなので、映画のことをもっと知りたいなと思って撮り始めたというのはあります。映画のことを知るために、何か本を読むとか、俳優として参加するというやり方もあるんですけど、やはり作る方がいろんなことを知ることができるんじゃないかと思ったというのが根本にあって。だから俳優として自分が出る作品を作りたいからというよりは、そっちへの興味から始まったんです。
だから今回、私たちが主演を務めたのも、コロナ禍のために現場を少人数にしたかったということがベースにあったから。むしろ『泥濘む』を撮ったときは、監督・主演って恥ずかしいというか、ちょっと怖いなという思いもあったんです。でもやっぱり俳優なので出ないという選択肢はないんですよ。自分は演技でも関わりたいし、みんなと作りたいという気持ちの方が大きかったから。
豊島:わたしは『泥濘む』という作品で主演だったんですけど、それは加藤さんが「豊島さん主演の作品を撮りたい」と言ってくれたから。やはり主演で撮りたいと言われることはすごいうれしいことだし、今回もこうやって物語の主軸を作っていくっていうのは、俳優としてはやっぱり喜ばしいことなので。でもわたしも創作への興味のほうが全然強いかもしれない。わたしは工作が好きなんですけど、映画って集団で作る工作みたいだなと思っていて。だから脚本もそうだし、小道具なんかも一生懸命作ったり、各セクションがそれぞれ自分の仕事をして一つの大きな集合体になる。それは工作好きとしてはめっちゃ楽しいことなんですよね。
監督:加藤紗希
脚本:豊島晴香
出演:加藤紗希/豊島晴香/釜口恵太/神田朱未/髙羽快/本荘澪/湯川紋子
撮影:河本洋介
録音・音響:三村一馬
照明:西野正浩
音楽:スカンク/SKANK
製作:点と
(2021年/日本/フィクション/78分)
2022年5月14日(土)より東京・ポレポレ東中野ほか全国順次公開