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米国がシリアでイスラーム国の拠点を攻撃したと主張する一方で、実際に交戦しているのは「抵抗の枢軸」

青山弘之東京外国語大学 教授
Mehr News Agency、2024年10月12日

米国中央軍(US-CENTCOM)は10月12日、Xのアカウントを通じて以下の通り発表した。

フロリダ州タンパ(2024年10月12日)—米国中央軍部隊は、10月11日未明にシリア国内にあるイスラーム国の複数の拠点に対して一連の爆撃を実施した。この爆撃により、イスラーム国が、米国、その同盟国、協力者、そして地域内外の民間人に対して攻撃を計画し、組織し、実行する能力を妨げることができる。戦闘被害の評価が現在進行中だが、民間人の死傷者は確認されていない。情報が確認され次第、更新する。

しかし、10月11日、あるいはその前後にシリア領内で確認された米軍の軍事行動は、イスラーム国に対するものではなかった。

深まるイランとイスラエルの対立

イラン・イスラーム革命防衛隊は10月1日夜、ハマースのイブラーヒーム・ハニーヤ政治局長の殺害(7月31日)と、レバノンのヒズブッラーのハサン・ナスルッラー書記長とイラン・イスラーム革命防衛隊レバノン地区司令官のアッバース・ニールファルシャーン准将の殺害(8月27日)への報復の一環として、イスラエル中心部の重要軍事・安全保障施設を狙って弾道ミサイル数十発を発射した。

これに対して、米国はイスラエルの報復権を認めつつも、イスラエルに対して、イランの核施設を標的から除外することや、軍事施設に限定するよう求め、戦火の拡大を抑止する姿勢を示してきた。

その一方で、米国防総省は10月13日に、イランからの攻撃に対するイスラエル軍の防空力強化を支援するため、終末高高度防衛ミサイル(THAAD)をイスラエルに配備し、米軍兵士も派遣することを決定したと発表し、イスラエル防衛に深く関与していった。

イラン・イスラーム革命防衛隊による報復攻撃の前日にあたる9月30日深夜、イスラエル軍は、レバノン南部の地盤地域であるヒズブッラーに対する限定的、局地的、標的を絞った地上攻撃を開始していたが、イランとイスラエルの対立が深まることで、地域全体の緊張も高まった。

攻勢を強める「抵抗の枢軸」

「抵抗の枢軸」の一翼を担うイエメンのアンサール・アッラー(フーシー派)は、10月1日、2日、3日、7日にヤーファー無人航空機、サマード4無人航空機、クドス5巡行ミサイルでイスラエルを攻撃したと発表した。イラク・イスラーム抵抗も、10月1日から14日まで毎日、無人航空機とアルカブ巡航ミサイルでイスラエルや占領下のゴラン高原、ヨルダン川西岸地区を攻撃したと発表した。

これに対して、米軍は10月4日、イエメン領内のフーシ派の15の標的を攻撃し、対抗したが、シリア領内でも「イランの民兵」によると見られる武装勢力と米軍(有志連合)の攻撃の応酬が激化していった。

米国の参戦

10月2日には、ハサカ県シャッダーディー市に米軍(有志連合)が違法に設置している基地を狙ってロケット弾複数発が発射され、1発が基地近くの住宅に着弾した。これに対して、米軍はロケット弾が発射されたと見られるシャッダーディー市の基地周辺を爆撃した。

青山弘之「シリアにおける米国の軍事介入と部隊駐留の変遷(2011~2021年)」(CMEPS-J Report No. 65)
青山弘之「シリアにおける米国の軍事介入と部隊駐留の変遷(2011~2021年)」(CMEPS-J Report No. 65)

10月4日には、ダイル・ザウル県のCONOCOガス田に違法に設置されている米軍の基地が無人航空機1機とロケット弾複数発による攻撃を受けた。

10月6日には、シリア政府の支配下にあるダイル・ザウル県アイヤーシュ村にある「イランの民兵」の貯蔵施設複数棟が無人航空機による爆撃と機銃掃射を受けた。英国で活動する反体制派系NGOのシリア人権監視団は、この無人航空機の所属は不明だとしたが、スプートニク・アラビア語版は米軍の無人航空機だと伝えた。

10月8日には、「イランの民兵が」CONOCOガス田の米軍基地を狙ってロケット弾1発を発射、基地に駐留する米軍部隊がこれを撃破した。これに対して、CONOCOガス田の基地に駐留する米軍部隊がシリア政府の支配下にあるダイル・ザウル市郊外のダイル・ザウル航空基地一帯に砲撃を行った。

10月9日には、CONOCOガス田に駐留する米軍部隊が、シリア政府の支配下にあるハトラ村、ダイル・ザウル市フワイジャト・サクル地区にある「イランの民兵」の陣地複数ヵ所を砲撃した。

10月10日には、CONOCOガス田に駐留する米軍部隊が、ダイル・ザウル市近郊とダイル・ザウル航空基地一帯に設置されている「イランの民兵」のロケット弾発射台複数ヵ所を砲撃した。

10月11日には、「所属不明」とされる無人航空機1機が、シリア政府の支配下にあるマフカーン町にある診察所近くで車1台を攻撃、これにより1人が死亡、4人が負傷した。また、この爆撃と前後して、CONOCOガス田に駐留する米軍部隊がダイル・ザウル市近郊に向けて2発のロケット弾を発射した。

10月12日には、CONOCOガス田に駐留する米軍部隊が、ジャフラ村、ダイル・ザウル市フワイジャト・サクル地区、ハトラ村を砲撃した。この砲撃に関して、シリア人権監視団は当初、米軍によるものだとしたうえで、ハトラ村で「イランの民兵」とともに活動するシリア人1人が死亡、1人が負傷したと発表していた。だが、10月14日には、「何者か」の砲撃だったと訂正、ロシア軍士官2人、シリア軍士官3人(うち1人が准将)、国籍不明の2人が死亡したと発表した(なお、これに関するロシア、シリアの当局からの死亡発表はない)。

10月13日には、CONOCOガス田に駐留する米軍部隊が、ダイル・ザウル航空基地を砲撃した。

10月14日には、「イランの民兵」が、CONOCOガス田の米軍基地を無人航空機1機で攻撃した。これに対して、CONOCOガス田に駐留する米軍が対空兵器でこの無人航空機を撃破、シリア政府の支配下にあるムッラート村、マリーイーヤ村、ジャフラ村、ダイル・ザウル市フワイジャト・サクル地区を砲撃し、ムッラート村で女性1人と子ども1人を含む4人が負傷した。

イスラエルとともに「抵抗の枢軸」を挟撃しようとする米国

10月15日には、「イランの民兵」の自爆型無人航空機1機がハサカ県ハッラーブ・ジール村の農業用空港に違法に設置されている米軍の基地への攻撃を試みた。これに対して同基地に駐留する米軍部隊が対空兵器で迎撃した(撃破には失敗)。またCONOCOガス田に駐留する米軍部隊がシリア政府支配下のいわゆる「7ヵ村」(ハトラ村、ムッラート村、マズルーム村、フシャーム町、タービヤト・ジャズィーラ村、サーリヒーヤ村、フサイニーヤ村)を砲撃した。

10月1日のイランの攻撃に対するイスラエルの報復攻撃が秒読み段階に入っており、その結果、イランとイスラエルの報復合戦が激化することが懸念されている。米国は、ハマースやヒズブッラーといった「抵抗の枢軸」の「主力」との直接的な衝突は避けつつ、シリア(そしてイエメン)領内で「支援勢力」を背後から攻撃している。これにより、米国もまたイスラエルの「支援勢力」として紛争への軍事的関与を深めることで、イスラエルとともに「抵抗の枢軸」を挟撃し、緊張の拡大を力で抑え込もうとしている。

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリアの友ネットワーク@Japan(シリとも、旧サダーカ・イニシアチブ https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』など。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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