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株価暴落、史上初の経常赤字はアベノミクスの失敗の結果。早急に政策転換を!

山田順作家、ジャーナリスト

■株価は暴落し、経常収支は初の半期赤字に

8月8日は、日本経済にとって悪いニュースが二つ重なった。一つは、株価の暴落。日経平均が454円余りも暴落して1万4778円と、抵抗ラインとされた1万5000円台をあっさりと割り込んで引けたこと。もう一つは、財務省が発表した2014年上半期(1~6月)の国際収支状況で、経常収支が5075億円の赤字を記録し、比較可能な1985年以降で初めてという異例の事態になったことだ。

しかし、どちらのニュースも、メディアは重大な出来事とは捉えていなかった。私としては、これはアベノミクスが失敗している、あるはまったくうまくいっていない現れだと思うが、そうは捉えていないのだ。

株価の下落は「オバマ大統領がイラクでの限定的な空爆を承認したことで地政学的リスクが高まったこと」と、まるで他人事。史上初の経常赤字も、「原発停止で燃料の輸入が増え、企業が生産拠点を海外に移転して輸出が伸び悩み、貿易赤字が膨らんだから」と、解説しているにすぎなかった。

■アベノミクスは日本経済を見誤っていた

しかし、実際はそうではない。アベノミクスでは、大胆な金融緩和で円安になると、輸出企業の利益が増え、雇用拡大や所得増加が起る。そうして景気が回復するとされてきた。本当にそうなら、株価はこのような地政学的リスク程度で暴落するわけがなく、経常収支が赤字になるなどということは起らないはずだからだ。

株価の暴落は、これまで官製相場で支えてきたのが、外国勢に、これを機会と食い逃げされたのが真相だろう。これまで、日本の株は外国勢によって引き上げられてきた。それが、もう利かなくなった。そうハッキリ、伝えるべきではないだろうか。

そして、経常赤字は、日本経済の実体が、アベノミクスが想定したような「貿易立国」型の経済ではなかった結果と、伝えなければならない。つまり、アベノミクスははじめから、日本経済を間違って捉えていたのだ。

■貿易赤字は「燃料輸入費が増加したから」ではない

メディアの解説がおかしいのは、経常赤字の原因を貿易赤字の拡大とし、それを「原発停止による火力発電の燃料輸入費が増加したから」としていることだ。

しかし、よくよく数字を見れば、貿易赤字の主原因とされる液化天然ガスは4054億円の増加、原粗油は3553億円の増加だが、二つ合わせて7607億円だから、輸入増加額3兆8858億円の2割程度にすぎない。増加額の2割しか占めないものが、なんで主な原因になるのだろうか?

日本が貿易黒字を稼げない国になっているのは、アベノミクスが始まるはるか前から明らかだった。日本企業の海外移転は進み、国内に残った製造業で黒字をもたらせるのは、自動車産業や光学機器などだけになっていた。

かつて興隆を誇った家電産業、半導体産業は崩壊し、いま、国際市場で、日本が優位にある製品は数えるばかりだ。

■メディアも識者も自説を再検証してほしい

それでも、これまで日本が経常収支の黒字を出せたのは、海外に移転した産業が稼いでくれたからだ。それが所得収支の黒字をもたらし、貿易収支の赤字を埋めてきたからである。

しかし、経常収支が赤字となると、これまでどおりの経済運営ではうまくいかなくなる。つまり、アベノミクスは、想定ミスを認め、早急に政策転換しなければならい。

また、『アベノミクスで超大国日本が復活する』『アベノミクスで日本経済大躍進がやってくる』『リフレは正しい アベノミクスで復活する日本経済』などという本を書いてきた方々は、自著を修正して、どうしたら今後の日本経済を立て直せるか、再考してもらいたいと思う。

メディアも、あらかじめ用意されていた解説を書くのをやめ、もっと真相に切り込んでほしい。

■日本は「成熟した債権国」になっていた

日本経済は1981年から2013年までの過去33年間で、年間ベースでは1度も経常赤字になったことはない。しかし、このままだと、今年はそうなる可能性が高い。

ただし、経常赤字が即悪いことと、悲観的になることはない。経常赤字は、企業や家計の赤字とは違って、あくまでのその国の経済活動の結果だからだ。

むしろ、こうしたことが起るのは、「経済の発展段階説」にしたがえば、すでに日本が「成熟した債権国」になっていた結果だからだろう。とすれば、今後はいかに所得収支を確保して、そのうえで海外投資を呼び込むことが大きなテーマになる。

そうでないと、日本は一気に「債権取り崩し国」の段階へ進んでしまいかねないからだ。つまり、これまでの蓄積(過去の黒字)をどんどん失ってしまう。

■アメリカ、イギリス、カナダも経常赤字国

別に「債権取り崩し国」になろうと、経済運営はできる。たとえば、アメリカやイギリスはここ何十年も経常赤字が続く「債権取り崩し国」である。また、カナダやオーストラリアも経常赤字国である。

ただし、これらの経常赤字国は、所得収支を維持するか、海外からの投資で、経済運営を行っている。それができないと、長期金利は上昇し、政府債務は膨張し、政府の金利負担増から国家が破綻してしまう可能性がある。

アメリカが経常赤字でも国家運営ができているのは、世界覇権を持ち、ドルが基軸通貨だからだ。また、イギリスは国際金融センターとして、世界の投資マネーを呼び込んでいる。

カナダやオーストラリアには、豊富な資源があり、それが赤字を担保している。しかし、日本には、そのどれもない。

■日本はこの先なにをしなければならないのか?

とすると、日本はこの先、貿易赤字を減らし、そのうえで所得収支の黒字を確保し続けなければならない。そうしたうえで、海外からの投資をもっと呼び込まなければならない。

そうするためには、液化天然ガスなどのエネルギー調達コストを下げるため、将来的にアメリカで進むシェールガスの輸入を拡大させる、国内に残った産業の生産性を高める、次世代の産業をリードするイノベーションを起こすなどが、絶対的に必要だ。

また、所得収支を確保するためには、海外直接投資を積極的に増やさなければならない。

さらに、海外マネーを国内に継続的に呼び込むために、大胆な規制緩和をし続けることも重要だ。現在のアベノミクスの「第三の矢」程度では、海外マネーはやって来ない。

こうなったら、移民を積極的に認め外国人観光客を大幅に増やす、特区を充実させ外国企業を大胆に誘致するなどを、早急に行うべきだ。英語で起業、企業活動ができるようにすることも重要だろう。

■いますぐやめるべきことは山ほどある

ともかく、いつまでも議論を続け、既得権側の話を聞き、鎖国を続けるのは、もうやめるしかない。TPPも早急に決着させるべきだ。そろそろ、復興予算をカットする必要もある。官僚だけが焼け太りするだけの改革はやめにして、政府を小さくすることも重要だ。

いずれにしても、国債の実質的な日銀引き受けを「異次元金融緩和」と言ってごまかして行うのは、もうやめるべきだろう。国債発行による借金で、公共投資を続けるのはドブにカネを捨てるのと同じだ。

また、公的資金で株価を支えるのも無意味だ。なぜなら、いくら株価を上げても、円安を続ければドルベースでは日本の資産は目減りするだけだからだ。

株価の上昇で得た利益を外国勢が、日本に再投資するだろうか? 彼らは、通貨価値が下がっていく円で資産を保持するはずがなく、結局、ドルに替えるだけだ。

まして、これで増税などしたら、国民生活はますます苦しくなる。

この先、猛暑が過ぎて秋が来たら、日本経済の本当の姿を知らされる、もっと驚くようなニュースが待っているかもしれない。

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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