Yahoo!ニュース

武尊が那須川天心との世紀の一戦で「無制限ラウンド完全決着ルール」を要求した思惑とは?

近藤隆夫スポーツジャーナリスト
武尊(左)と那須川天心、中央はRIZIN榊原信行CEO(写真:RIZIN FF)

武尊からの提案

「判定やドローという結果はいらないと思います。完全決着をつけたい。そのために無制限ラウンドで闘いたい!」

昨年12月24日、東京ドームホテルで開かれた那須川天心vs.武尊の対戦発表記者会見に出席した武尊は、そう発言した。

ファン待望の日本キックボクシング界「頂上対決」は、今年6月に行われることになった。「K-1」でも「RISE」でも「RIZIN」でもない新たに作られる中立の舞台で両雄は闘う。まだ、試合の正式な日時と場所は発表されていないが、レギュレーションに関しては、以下のことがリリースされている。

契約体重/前日計量58キロ以下(当日に再計量し62キロ以下)

形式/ワンキャッチ・ワンアタック(瞬間的に相手を掴んでからの攻撃は1度のみ有効)のキックボクシングルール

スーパーファイトが実現に至ったことは本当に良かったと思う。ただ、日時・会場を含め、まだ決まっていないことがいくつかある。その中でもっとも気になるのはラウンド形式だ。

現在、キックボクシングの主流となっているのは3分×3ラウンド。K-1、RISE、RIZINいずれにおいても、この形式が用いられている。だが、そこに武尊が「無制限ラウンドでKO決着がつくまで闘おう」と提案したのだ。

これに対して那須川は、こう応えた。

「そこは調整なのかなと思います。関係者さんと自分のチームで相談して決めてもらえれば。引き分けはいらない。ただ、そこまで持っていかなきゃいいって話ですよね」

記者会見を終えた直後に金屏風を背にポーズを取る那須川天心(左)と武尊(写真:K-1)
記者会見を終えた直後に金屏風を背にポーズを取る那須川天心(左)と武尊(写真:K-1)

互いに納得できる決着を

果たして「無制限ラウンド完全決着ルール」は実現するのか?

もし、拮抗した内容のままで最終ラウンドのゴングが打ち鳴らされたとしたら、勝敗はジャッジに委ねられる。引き分けになる場合もあるが、僅差の判定でいずれかが勝者となり、一方は敗者となる。そんな勝敗の決められ方を武尊は望んでいない。

さまざまな障害を乗り越えて、ようやく「世紀の一戦」の実現に辿り着いた。ならば、お互いに納得のいく決着をつけよう、というのが彼の主張だ。

私も「無制限ラウンド完全決着ルール」が、この一戦には相応しいと思う。キックボクシングの既成概念を超えて行われるべきだ。そうするだけの価値のあるスーパーファイトだと考える。

それでも那須川サイドが、この提案に簡単には応じないかもしれない。なぜならば、「完全決着ルール」は、武尊に有利になるからだ。

両者のファイトスタイルは大きく異なる。

那須川が勝っているのは、スピードとラウンドを支配する能力。対して武尊は、一撃の破壊力と打たれ強さで上回る。時間無制限のド突き合いとなれば、いかにポイントを奪われようとも構わない、渾身の一発を当てれば勝てるという闘いになる。持ち味が発揮しやすいのは武尊の方だろう。

昨年のクリスマスイブに東京ドームで開かれた「那須川天心vs.武尊」対戦発表記者会見には多くの報道陣が集まった(写真:SLAM JAM)
昨年のクリスマスイブに東京ドームで開かれた「那須川天心vs.武尊」対戦発表記者会見には多くの報道陣が集まった(写真:SLAM JAM)

「世紀の一戦」を実現させるためには互いの譲歩が必要だった。

那須川は、4月「RISE」でのファイトを最後にキックボクシングから卒業、プロボクサーへの転向を決めていた。しかし、武尊と闘うために、それを後ろ倒しにしたのだ。

その分、武尊もレギュレーションの設定では一歩引いた。

契約体重58キロは、両者が現在、闘っている階級を考慮すれば妥当なところだろう。だが、当日に再計量し62キロを超えてはならないとの取り決めは、明らかに武尊に不利だが受け容れた。また、ワンキャッチ・ワンアタックのルールは、那須川が主戦場とするRISE、RIZINで採用されているものでK-1の基準ではない。

この辺りを踏まえると、武尊が「完全決着ルール」を要求する理由もわかる気がする。勝っても負けても悔いを残す闘いにしたくないのだ。もはや、この一戦はスポーツの範疇を超えた「決闘」。観る者も、それを望んでいる。

「無制限ラウンド完全決着ルール」が実現するか否か。

正式な日時・試合会場と併せて、3月上旬に発表される模様だ。

スポーツジャーナリスト

1967年1月26日生まれ、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から『週刊ゴング』誌の記者となり、その後『ゴング格闘技』編集長を務める。タイ、インドなどアジア諸国を放浪、米国生活を経てスポーツジャーナリストに。プロスポーツから学校体育の現場まで幅広く取材・執筆活動を展開、テレビ、ラジオのコメンテーターも務める。『グレイシー一族の真実』(文藝春秋)、『プロレスが死んだ日。』(集英社インターナショナル)、『情熱のサイドスロー~小林繁物語~』(竹書房)、『柔道の父、体育の父  嘉納治五郎』(ともに汐文社)ほか著書多数。仕事のご依頼、お問い合わせは、takao2869@gmail.comまで。

近藤隆夫の最近の記事