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初の台湾製潜水艦、世界のメディアはどう報じたのか 台湾を国家とみなし「台湾初の国産」と表現したのか

高橋浩祐米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員
9月28日に行われた初の台湾製潜水艦「海鯤」の進水式(写真:台湾国防部)

初の台湾製潜水艦「海鯤」(ハイクン)の進水式が9月28日、台湾南部の高雄の造船所で行われた。メディアによって、「台湾初の国産潜水艦の進水」あるいは「台湾初の自主建造潜水艦の進水」と表現が分かれているのがとても興味深い。台湾を事実上の一国家とみなせば「国産」となる。一方、「自主建造」と表現するのは「台湾は自国の一省政府」とみなす中国の主張に配慮しているのかもしれない。

世界のメディアは台湾が初めて建造した潜水艦の進水式をどう報じたか。まとめてみた。

●日本メディアは「台湾初の国産潜水艦」の表現を避ける

日本の大手メディアは、「台湾初の自主建造潜水艦が進水」「台湾初の自前潜水艦が進水」といった表現を使い、「台湾初の国産潜水艦」との表現を避けた。進水式のニュースを伝える主な記事の見出しは以下のようになっている。

ただし、NHKは上記の記事の中で、蔡英文総統が「潜水艦の国内での建造は目標である以上に、を断固として守るための具体的な実践だ」と述べた進水式での祝辞を引用した。この祝辞の中には「国内」「国」との表現があり、蔡総統の言葉を借りて、事実上の「台湾初の国産潜水艦」であることを示しているのかもしれない。

日本と台湾(中華民国)は1972年、日本が中国(中華人民共和国)と国交を正常化したことを受けて断交した。このため、日本は現在も台湾を独立国と認めていない。このことを受け、日本メディアも今回、「国産」との表現を避けたとみられる。ただし、日本は1972年に中国と国交を結ぶ以前は、台湾を国家として認め、中国を国家として認めていなかった。

台湾メディアに勤務する台湾人の友人は筆者の取材に対し、日本メディアが「国産」という言葉を避けていることについて、「台湾人から見るとかなり切ない」と嘆いた。

●米英メディアは表現分かれる

アメリカとイギリスのメディアは表現が分かれた。CNN、ニューズウィーク、BBCの日本語ニュースは以下のようになっている。

ニューズウィークは見出しで台湾初の国産潜水艦の進水であることを明確に伝えた。ニューズウィークは別の記事でもNHK同様、「潜水艦は、我が国を防衛するという具体的な取り組みを実現する重要なものだ」と述べた蔡総統の祝辞を引用した。

●台湾メディアは「初の国産潜水艦」と強調

台湾メディアは「海鯤」が台湾初の国産潜水艦であることを強調し、華々しく報じた。

前述の台湾メディアの関係者は「中国共産党は1949年から中華民国を潰して中華人民共和国が中国の正当な唯一の政権だと考えている。しかし、中華民国は中華人民共和国に一回も統治されたことがない。台湾人のほとんどが、中国と一緒になることは考えず、あくまでも現状維持を望んでいる。でも、その現状に不満を持つ中国は一日も早い統一を言っている。戦争のリスクがなければ、台湾人はもちろん正式に独立をしたい」と述べた。

●中国メディアは台湾の「自造潜水艦」と表現

中国メディアは「海鯤」を台湾初の自造潜水艦と表現した。

環球網:台媒炒作台首艘自造潜艇下水,岛内网民:连水都没碰到叫下水吗?

(日本語訳:台湾メディアは台湾初の自造潜水艦進水について大々的に宣伝、島のネットユーザーらは「水に触れずに進水したと言うのか?」と疑問を呈した)

中国新聞網:国防部谈台湾自造潜艇:不过是螳臂当车,终将会自取灭亡

(日本語訳:国防省は台湾の自造潜水艦について「自分の腕を戦車として利用しようとしているカマキリにすぎず、最終的には自滅に至るだろう」と語る)

「一つの中国」の原則を譲らない中国は、台湾を一省政府とみなし、台湾トップの「総統」という肩書さえも認めていない。現在の民進党の蔡総統を「台湾独立主義者」と決めつけ、個人攻撃を続けている。これに対し、台湾は対等の政治実体として認知するよう中国に求めている。

中国シンクタンクに勤務する中国人の友人は、台湾の自造潜水艦の進水について、「中国大陸ではかなり報道された。国営メディアでもSNSでも詳しく伝えられた。ただ、(台湾潜水艦の)技術の程度を踏まえれば、あまり緊張はしていない」と述べた。

なお、筆者は10月3日に東洋経済オンラインに寄稿した記事では、「台湾初の国産潜水艦進水に中国が戦慄する理由」との見出しの下、「台湾初の国産潜水艦」との表現を本文中でも使った。台湾を事実上の国家とみなしているからだ。

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米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員

英軍事週刊誌「ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー」前東京特派員。コリアタウンがある川崎市川崎区桜本の出身。令和元年度内閣府主催「世界青年の船」日本ナショナルリーダー。米ボルチモア市民栄誉賞受賞。ハフポスト日本版元編集長。元日経CNBCコメンテーター。1993年慶応大学経済学部卒、2004年米コロンビア大学大学院ジャーナリズムスクールとSIPA(国際公共政策大学院)を修了。朝日新聞やアジアタイムズ、ブルームバーグで記者を務める。NK NewsやNikkei Asia、Naval News、東洋経済、週刊文春、論座、英紙ガーディアン、シンガポール紙ストレーツ・タイムズ等に記事掲載。

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