多目的トイレの重要な機能「オストメイト対応」 人工肛門の役割を医師が解説
このマークが何を意味するか、ご存知でしょうか?
このマークの名前は「オストメイトマーク」。
オストメイトとは、「人工肛門や人工膀胱を持つ人」のことです。
駅や公園などの公共施設、ショッピングモール、映画館などの多目的トイレ(多機能トイレ)を見てみてください。
このマークがついたところがあるはずです。
オストメイトの方が排泄物を処理したり、装具や腹部を洗浄したりするのに適した「オストメイト対応トイレ」です。
人工肛門(人工膀胱)を持つ方は、日本で約20万人いると言われます(※)。
しかし、服を着ていると人工肛門(人工膀胱)があるかどうか、周囲の人には分かりません。
そのためか実態をあまり知らない方が多く、ペースメーカーや人工関節のような器具だと誤解している人すらいるのです。
人工肛門・人工膀胱とは何か
私たちは排便・排尿のため、1日に何度もトイレに行きます。
飲み食いしている以上、便を直腸にためて肛門から出し、尿を膀胱にためて尿道から出す必要があるためです。
もし、病気や怪我で肛門や膀胱が失われたら、どうなるでしょうか?
当然ながら、別の場所に出口を作って便や尿を出さねばなりません。
この時に手術で作るのが、人工肛門や人工膀胱です。
これらを併せて「ストーマ(ストマ)」と呼びます。
お腹の表面に出口となる小さな穴を開け、そこにつながる便や尿の通り道を作ります。
もちろん、器具を埋め込むわけではなく、臓器の一部が体外に少しだけ顔を出している状態です。
ただし、排泄物の出口はあっても、体内にためておく場所が(十分には)なく、便意や尿意もありません。
そこで出口に装具をつけ、排泄物を袋の中にためておき、定期的に袋の中身をトイレに捨てに行くことになります。
どんな病気で必要になるのか?
前述の通り、直腸や肛門、膀胱が障害される病気が主な原因です。
大腸や肛門、膀胱のがんに加え、子宮がんや卵巣がんなど、近くにある臓器のがんも原因になりえます。
胃がんや膵がんなど、他の臓器のがんが広がって直腸や膀胱を障害することもあります。
また、がん以外にも、潰瘍性大腸炎やクローン病、先天性の腸の病気などが原因になることもあります。
生活に制限はない
オストメイトであっても、生活に制限があるわけではありません。
装具は防臭加工されており、適切に使っていればにおいはありません。
肌色であまり目立たない装具もあります。
装具を適切に使えば漏れはありませんし、普通に入浴もできます。
もちろん温泉施設の利用も自由にでき、衛生上の問題もありません。
残念ながら、他の入浴客からのクレームで、オストメイトであることを理由に入浴を拒否されるという事例が各地で起こっています(1)。
クレームをおっしゃる方は、自分の肛門をむしろ直接お湯につけるはずなのですが…。
2017年の予測統計から、日本で最も多いがんは大腸がんになりました(2)。
今後、オストメイトの方がますます増える可能性があります。
周囲の方々も十分な知識を持つことが大切だと思います。
現状、まだオストメイト対応トイレの数は十分ではなく、外出時のトラブルでとても苦労した、という声を患者さんから聞くことはよくあります。
日本オストミー協会は、オストメイトの方が便利にトイレを使用できるよう配慮を呼びかけています。
オストメイトの方が安心して外出できる環境の整備が進むことを願います。
もう少し詳しく知りたい方は、ぜひこちらの記事もご参照ください。
(※) 日本オストミー協会、高石道明会長のインタビュー記事より「20万人」としましたが、これは障害者手帳交付数に基づいたものであるため、一時的人工肛門(詳細はこちら)の患者数は含まれておらず、全体数はもっと多いと考えられます。
(参考文献)
(1) 厚生労働省「入浴問題啓発チラシ」
(2) 国立がん研究センター がん情報サービス 「2019年のがん統計予測」