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外食が高くコンビニのないイタリアの食品ロスは日本より少ない?ヨーロッパ最古の大学、ボローニャ大学訪問

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
イタリア・ミラノのCOOP。色がまだらでも並ぶ。バラの量り売りが多い(筆者撮影)

ヨーロッパ最古の総合大学であるイタリアのボローニャ大学を訪問し、イタリア国内の食品ロスに関する調査概要とその結果について教えて頂いた。

ボローニャ大学の構内(Francesca Nota氏撮影)
ボローニャ大学の構内(Francesca Nota氏撮影)

他国と連携してのプロジェクト及びイタリア国内調査について

最初に、Department of Agricultural and Food Sciencesの准教授、Fabio De Mennam氏(男性)より、他国と連携して進めている食品ロス関係のプロジェクトについて説明して頂いた。

次に、UNIBO Research Teamのコーディネーター、Luca Falasconi氏(女性)より、具体的な調査結果について教えて頂いた。 ここではその調査結果の概要と結果について説明する。

左がLuca Falasconi氏、右がFabio De Mennam氏、手前が筆者(Francesca Nota氏撮影)
左がLuca Falasconi氏、右がFabio De Mennam氏、手前が筆者(Francesca Nota氏撮影)

1、家庭調査(400世帯)

イタリア国内での家庭を対象とした調査

方法:アンケートと週ごとの食事日記という2つの方法

調査時期:2014年から2015年まではパイロット(事前)調査、主となる調査は2017年に実施

次のような結果が得られた。

  • 家庭において、年間一人当たり、27.5kgの食品ロスが発生していた(27.5kg edible food waste per person per year)
  • これをイタリア国内で試算すると、家庭からのロスは年間160万トンとなる
  • 野菜は年間一人当たり7kgの食品ロス
  • 牛乳は年間一人当たり4.8kgの食品ロス
  • 果物は年間一人当たり4.5kgの食品ロス
  • パン類(Bakery)は年間一人当たり3.2kgの食品ロス
  • 捨てる理由としては「だめになったから(spoiled)」が46%で最も多く、次に「個人の好き嫌い(personal preferences)」が26%
  • 最も多くロスが出るのは夕食
  • 引き金になるのは「買い物の頻度」
手前がFabio De Mennam氏、一番奥がLuca Falasconi氏(Francesca Nota氏撮影)
手前がFabio De Mennam氏、一番奥がLuca Falasconi氏(Francesca Nota氏撮影)

2、廃棄物の組成調査(北イタリアの8処理場)

廃棄物の組成調査は、北イタリアの2つの地域にある8つの廃棄物処理場で実施した。

廃棄物の組成調査(Luca Falasconi氏の発表資料より)
廃棄物の組成調査(Luca Falasconi氏の発表資料より)

方法:廃棄物組成調査

調査時期:パイロット(事前)調査および本調査とも2016年に実施

次の結果が得られた。

  • 年間一人当たり29kgの食品ロスを排出している
  • 年間一人当たり62kgの二酸化炭素を排出している
  • ロスになる主な食材は野菜、牛乳、果物
調査結果について説明するLuca Falasconi氏(Francesca Nota氏撮影)
調査結果について説明するLuca Falasconi氏(Francesca Nota氏撮影)

3、学校給食のロス調査(78小学校、11,518名、109,656食対象)

イタリアの3つの地域にある78の小学校を対象に調査を行った。

学校での調査風景(Luca Falasconi氏の発表資料より)
学校での調査風景(Luca Falasconi氏の発表資料より)

方法:インタビューと廃棄物組成調査

対象者:11,518名

対象となった食事:109,656食

時期:パイロット(事前)調査は2016年に、主となる調査は2017年に実施

結果は次の通り。

  • 534gの食事のうち、120gが廃棄された(120 goes wasted)
  • 120gのうち、90gは食べる人が残したもので、30gは調理室で廃棄された (90g are plate leftovers, 30g are kitchen leftovers)
  • ロスになったうち、21%は主食(パスタ、豆類、米)
  • 27%は副菜(肉や魚)
  • 30%は野菜類
  • 学校内に調理室がある場合はロスが少ない
  • 学校外で調理したものを運んでくる場合の方がロス量が多く、学校と調理する場所の距離が増えるほどロスが多かった(more the distance, more the waste)
  • ロスの半分は朝食向け
  • 年間を通して、冬向けメニューで、よりロスが多かった
左手前がFabio De Mennam氏、左の一番奥の赤い服がLuca Falasconi氏、手前右が筆者、その右隣が同行してくれた佐藤啓友氏、その右隣がERICA社(Francesca Nota氏撮影)
左手前がFabio De Mennam氏、左の一番奥の赤い服がLuca Falasconi氏、手前右が筆者、その右隣が同行してくれた佐藤啓友氏、その右隣がERICA社(Francesca Nota氏撮影)

4、ハイパーマートとスーパーマーケット調査(イタリアの2地域)

イタリア国内の2つの地域で、ハイパーマーケットとスーパーマーケットでの調査を実施した。

方法:4つ(面談・データ収集・廃棄物の組成調査・調査のためのフォーカスグループ)

フォーカスグループの様子(Luca Falasconi氏の発表資料より)
フォーカスグループの様子(Luca Falasconi氏の発表資料より)

時期:パイロット(事前)調査は2016年に、主となる調査は2016年から2017年にかけて実施

(ハイパーマーケットは衣食住全てに関連する商品を扱う形態の、ヨーロッパで多い店舗。カルフールなどが有名)

次の結果が得られた。

  • ハイパーマーケットでは年間/売り場面積1平方メートル当たり 9.5kgの食品ロスが発生していた
  • スーパーマーケットでは年間/売り場面積1平方メートル当たり 18.8kgの食品ロスが発生していた
  • 大規模な小売業は年間一人当たり2.89kgの食品ロスを減らす責務がある

以上

イタリアでは、食品ロスを減らすため、子どもを対象とした食育が行われたり、大人を対象とした、認知度を上げるためのキャンペーンが実施されたりしている。

ボローニャ大学構内に咲く花(Francesca Nota氏撮影)
ボローニャ大学構内に咲く花(Francesca Nota氏撮影)

日本と比較しての考察

1、日本全体の食品ロスは646万トン/年、イタリアは510万トン/年

ビュッフェの残りをなぜ寄付できるか イタリア食品ロス削減の最前線で書いた通り、日本全体の食品ロスは646万トン/年(農林水産省・環境省が2018年4月に発表)。

イタリアは510万トン/年(ピエモンテ州での調査による)。

2、家庭からのロスは日本の方が少ない?

平成26年度の農林水産省の統計調査報告によれば、日本では、一人一日当たり40.9gの食品ロスを出している。これを年間にすると、14.9kg/年となる。

農林水産省の食品ロス統計調査報告による一人1日当たりの食品ロス量は14.9kg/年(農林水産省ホームページ)
農林水産省の食品ロス統計調査報告による一人1日当たりの食品ロス量は14.9kg/年(農林水産省ホームページ)

あるいは、家庭系・事業系合わせて一人年間51kgの食品ロスを出しているということで、家庭からのロスがおよそ45%であることを考えると、単純計算では22.9kg/年となる。

いずれにしても、イタリアの家庭からのロスより少ないということになる。だが、日本の食品ロスの統計値には、畑や港などで廃棄されたものは含まれていない。備蓄食品の廃棄も含まれてはいない。

イタリアでは、生ごみを分別して回収している。日本は、ごく一部の自治体で生ごみを別に分別して堆肥化するなどしているが、ほとんどは、生ごみ以外のものと一緒くたにしてごみ処理している。

ボローニャ大学キャンパスそばの街角で。左側のごみ箱は生ごみ専用(筆者撮影)
ボローニャ大学キャンパスそばの街角で。左側のごみ箱は生ごみ専用(筆者撮影)

3、学校給食は同レベル?

環境省が2015年(平成27年)4月28日に発表した学校給食から発生する食品ロス等の状況に関する調査結果によれば、日本では、2013年度(平成25年度)の学校給食で、児童・生徒1人当たり、約 17.2kgの食品廃棄物が発生している。文部科学省の調査によると、全国の小学校で年間190回、中学校で186回の給食が実施されているそうなので、平均で年間188回とし、これで給食1回あたりのロスを試算すると91.4g/回。イタリアの調査結果120g/回では小学校のみが対象となっており、単純に比較はできないが、単純計算では、おおよそ同じくらいのレベルと言える。

日本と異なりイタリアではゼロウェイストの取り組みが国じゅうに広がっている(筆者撮影)
日本と異なりイタリアではゼロウェイストの取り組みが国じゅうに広がっている(筆者撮影)

4、イタリアでも日本でも、家庭のロス削減のキモは野菜類

上記調査によれば、イタリアでは、家庭の食品ロスのうち、25%を野菜が占めている。日本の場合、平均で47.7%と、さらに多い。いずれにせよ、2カ国とも、野菜と果物のロスの割合は多くなっている。

野菜保存袋や新聞紙などを上手に活用し、家庭内の野菜のロスを防ぐことで、家庭からのロスが減るだろう。

ボローニャ大学構内で、Fabio De Mennam氏、Luca Falasconi氏と研究チーム、同行してくれた佐藤啓友氏とERICA社のメンバー、筆者(Francesca Nota氏撮影)
ボローニャ大学構内で、Fabio De Mennam氏、Luca Falasconi氏と研究チーム、同行してくれた佐藤啓友氏とERICA社のメンバー、筆者(Francesca Nota氏撮影)

5、日本の事業系ロス(357万トン)はイタリア(239万トン)より100万トン以上多い?

日本の事業系由来の食品ロスは、年間357万トン。一方、イタリアの事業系食品ロスは、イタリア・ピエモンテ州の取材によれば、年間510万トンのうち47%とのこと。計算すると239万トンになる。

日本在住のイタリア人女性に聞いたところ、イタリアでは外食が高いため、コース料理などは注文せず、自分の食べたいものを単品で頼む傾向が高いと言う。日本のような、義務の飲み会も少ないのではと話していた。

彼女は「イタリアにはコンビニがないんですよ」とも話した。日本に来て、食品関係のアルバイトをしたこともあるが、あまりに毎日廃棄をするので、イヤになってすぐ辞めたそうだ。

イタリアに比べて日本の事業系由来のロスが高いとすれば、その主な発生箇所を捉えて集中的に対策をすべきだろう。企業が自主的に減らす努力をするべく、農林水産省が平成26年度に目標値を設定している。が、それでもだめなら、ある程度、強制力を持って取り組むしかあるまい。

注:日本で食品ロスのことを「フードロス」と呼ぶ人がいるが、海外でそのまま「food loss」と言うと、日本で使われている意味とは違ってくる。何をもって「食品ロス」と呼ぶか、国ごとに定義や呼称が異なるため、統一化するのは難しいが、海外で話す場合「food loss and waste (FLW)」とした方が、より近い意味になると思われる。

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食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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