郵便配達のついでにフードドライブ30年 食品ロス削減と食品寄付が果たせて一石二鳥
![](https://newsatcl-pctr.c.yimg.jp/t/iwiz-yn/rpr/iderumi/01773915/title-1716238359284.jpeg?exp=10800)
「フードドライブ」って何?
「フードドライブ」という言葉を耳にするようになってきた。
「フードドライブ」とは、 家庭で余っている食品を集めて、食品を必要とする地域のフードバンクや生活困窮者支援団体、子ども食堂、福祉施設等に寄付する活動を指す(1)。
「ドライブ」の意味は「運動」「募集のための宣伝」
筆者が食品ロス問題に関わった2008年には、「フードドライブ」という言葉はなじみがなく、「何それ?ドライブって車の運転?」と聞かれることがあった。英語の「ドライブ」は「organized effort or campaign to achieve」すなわち「募集のための宣伝」や「運動」という意味があり、フードドライブは「食品を寄付する運動」ということになる(2)。
2016年に出版した拙著『賞味期限のウソ』(3)にも書いたが、1960年代にフードドライブが盛んになった米国では、食品以外にも「Paper Drive(ペーパードライブ:古紙回収)」や「Book Drive(ブックドライブ:本の寄付)」、「Toy Drive(トイドライブ:おもちゃの寄付)」「Clothing Drive(クロージングドライブ:衣類の寄付)」「Uniform Drive(ユニフォームドライブ:着なくなった制服の寄付)」「Blood Drive(ブラッドドライブ:献血)」など、いろんな「ドライブ」がある(4)。
![2018年、東洋大学で開催されたフードドライブ(東洋大学提供)](https://newsatcl-pctr.c.yimg.jp/t/iwiz-yn/rpr/iderumi/01773915/image-1716239759940.png?fill=1&fc=fff&fmt=jpeg&q=85&exp=10800)
郵便配達員が本業ついでにフードドライブ
米国では、郵便配達員が、本業のついでにおこなうフードドライブがある。それが「Stamp Out Hunger(スタンプアウト・ハンガー:飢餓撲滅)」だ(5)。
Stamp Outは「撲滅」の意味で、郵便切手の「Stamp」と掛け言葉になっている。
毎年、5月の第二土曜日に開催されるこの「スタンプアウト・ハンガー」は、米国の郵便配達員の組合、National Association of Letter Carriers(NALC:全国郵便配達員連合)が始めたものだ。
![2023年のスタンプアウト・ハンガーの案内ハガキ(市川文恵さん提供)](https://newsatcl-pctr.c.yimg.jp/t/iwiz-yn/rpr/iderumi/01773915/image-1716240257167.png?fill=1&fc=fff&fmt=jpeg&q=85&exp=10800)
いつから始まったの?
この米国のスタンプアウト・ハンガー、いつから始まったのだろう。
試験的な導入は1991年10月に米国10都市でおこなわれた。その後、1993年5月15日(土)、5月の第二土曜日から本格的に始まった(6)。
初開催の1993年は、北はアラスカから南はフロリダまで郵便配達員が食品を回収してまわり、1日で1100万ポンド(約5000t)もの食品を集めた(7)。
以来、イベントは全米50州の人口1万人以上の都市に広がった。2010年には回収された食品が10億ポンドとなり、90倍以上に増加した。
![2016年のスタンプアウト・ハンガーの告知(市川文恵さん提供)](https://newsatcl-pctr.c.yimg.jp/t/iwiz-yn/rpr/iderumi/01773915/image-1716242160933.png?fill=1&fc=fff&fmt=jpeg&q=85&exp=10800)
なぜ毎年5月に実施するの?
集まった食品を必要な人へ寄付する米国のフードバンクの中には、4月のイースター(復活祭)の後、食品の備蓄が底をつくところが多かった。そこでスタンプアウト・ハンガーは5月に開催されるようになった。
また、米国では6月から学校が夏休みに入る。1日1食、学校給食だけしか食べ物がない子どもたちは、夏休み中にやせてしまうことが多かった。
5月に食品をたくさん集めることができれば、夏休みの間、給食が食べられなくなってしまう子どもたちに食品を提供できる。
![2024年に届いたスタンプアウト・ハンガーの案内ハガキ(市川文恵さん提供)](https://newsatcl-pctr.c.yimg.jp/t/iwiz-yn/rpr/iderumi/01773915/image-1716241680451.jpeg?fill=1&fc=fff&exp=10800)
30年以上も続けている善意の活動
スタンプアウト・ハンガーは、コロナ禍の2020年と2021年は、寄付金のみを受けつけ、食品の回収は中止された。活動を始めて30年目となる2022年は、5月14日、3年ぶりにイベントとして開催された。そして2024年5月11日(土)、32年目のスタンプアウト・ハンガーが開催された。
筆者が「スタンプアウト・ハンガー」を初めて知ったのは、2011年。東日本大震災のあと、勤めていた食品企業を辞め、フードバンクの広報を手伝いはじめたころだった。大原悦子さんの著書『フードバンクという挑戦』(8)を読み、「なんて合理的な取り組みなんだろう」と感心した。
フードバンクは、車両や食品を保管する倉庫、車両の運転者や食品の管理者が必要だ。事業の運営にコストがかかるものの、基本的には無償でおこなっているところが多い。
でも、スタンプアウト・ハンガーなら、郵便局の車も、郵便配達員の人員もある。倉庫もある。すでにある資源を生かしており、持続可能で画期的な取り組みだ。
これを日本でやるのは難しいだろう。「本業だけで大変なのに」「もし食品に変なものが入れられて食品事故が起こったら誰が責任をとるんだ」などという意見が出てくるのが目に浮かぶ。米国だからこそ30年以上続いてきた「スタンプアウト・ハンガー」といえる。
パルシステム千葉が配達時のフードドライブを実施
ただ、日本でも、配達時のついでにフードドライブをおこなっている組織がある。生活協同組合パルシステム千葉だ。配達時に届け先の家庭で余剰食品を回収し、地域のフードバンクに寄付する実証実験を2016年におこなっている。2300人が参加し、50kgの食品が集められた。以来、定期的に配達時のフードドライブを続けていて、2021年には6.1トンの食品をフードバンクに寄付している。2023年度には、「まごころセット」と題し、たとえ家庭に余剰食品の在庫がなくとも、買って寄付して応援できる取り組みを2回実施し、1回目には1,500セットもの購入があった(9)。
パルシステムグループ全体としては、2022年度に子ども食堂やフードバンクなどへ110万食分、130トン以上を提供している(10)。
日本でも、このように「あるものでまかなう」、すでにある資源やインフラを活用した取り組みが広がってほしい。
参考資料
3)『賞味期限のウソ 食品ロスはなぜ生まれるのか』(井出留美、幻冬舎新書、5刷)
4)フードドライブって何?家庭の食品ロスを減らして必要な人へ繋ぐ、低コストで出来る「地産地消」の社会貢献(井出留美、Yahoo!ニュースエキスパート、2018/8/1)
5)アメリカで毎年5月第二週目に実施されるフードドライブ 子ども食堂でもフードバンクでもない食の支援の形(井出留美、Yahoo!ニュースエキスパート、2018/5/11)
6)Letter Carriers’ Stamp Out Hunger Food Drive
7)食品ロス減らすフードドライブ 先駆地米国では郵便配達員が一役(井出留美、朝日新聞SDGsACTION!、2022/6/7)
8)『フードバンクという挑戦 貧困と飽食のあいだで』(大原悦子、岩波現代文庫)
9)2023年度 第二回フードドライブ(パルシステム千葉、2023/10/2)
10)子ども食堂やフードバンクなどへ年間110万食を提供 5月8日は「ごはんの日」 (パルシステムグループ、2023/5/8)