「家に住んでいるだけのケダモノ」北朝鮮“暗黒の村”の救われぬ実態
北朝鮮で最も南に位置し、気候が温暖な黄海南道(ファンヘナムド)は、田んぼの広がる大穀倉地帯だ。今月から田植えが始まったが、電力難がネックになり思うように進んでいない。現地のデイリーNK内部情報筋が伝えた。
安岳(アナク)郡、殷栗(ウンニュル)郡など道内の農村では先月から深刻な電力不足が続いている。本来なら田んぼに水を張るための揚水機が使えるように1日に4時間電気が供給されることになっている。これでも充分とは言えないだろうが、それが1時間以下になってしまったのである。
特別扱いの農業用の電力供給がこの有り様なのだから、民家は言うまでもなく、全く電気の来ない日もある。邑(郡の中心地)の住民は、発電機や自動車のバッテリーを使って自主的に電気を調達するしかない。
電気の自主調達は農村とて同じだ。
安岳郡の大楸里(テチュリ)と元龍里(ウォルリョンリ)の住民は、自宅にソーラーパネルを設置して発電を行っている。利用率は非常に高く、20世帯から40世帯で構成される人民班(町内会)で使っていないのは3〜4世帯ほどだ。もはや、インフラですら国に頼れないのが今の北朝鮮だ。
さらに頭の痛い問題も発生している。盗難だ。北朝鮮では1990年代の大飢饉「苦難の行軍」に際しても盗難が相次ぎ、抑止策として公開処刑も頻繁に行われた。
(参考記事:北朝鮮の15歳少女「見せしめ強制体験」の生々しい場面)
「ますます生活が苦しくなり、泥棒が増えている。ちょっと目を話した隙に、金目のものはすべて盗まれるが、ソーラーパネルとて例外ではない」(情報筋)
田植えの時期なので農民はほぼ1日外出しているが、その間にソーラーパネルを盗まれてしまうのである。盗難を防ぐために、ソーラーパネルを室内に仕舞ってから出かける人もいる。これでは発電ができず、意味がないようにも思えるが、それでも盗まれるよりはマシだ。
「仕事が終わって帰宅すれば午後8時、9時ごろになるが、(ソーラーパネルが盗まれて)電気がなければ真っ暗で何も見えない。最近は断水も続いていて、丸一日働いても体を洗うことすらできず、もはや人間の暮らしではない」(情報筋)
照明はもちろん、テレビやラジオも使えないため、何の娯楽もない。ソーラーパネルを盗まれてしまった農民は「まるで家に住んでいるだけのケダモノだ」だと嘆いた。
北朝鮮の電力事情は年がら年中不安定だが、その原因のひとつは、雨の少ない気候なのに水力発電への偏重が著しいことだ。特に雨が少ない春には電力不足が深刻となる。そこで、他に供給する電気を減らして農村に供給することになっている。この時期に限って、農村の電力事情は地方中小都市よりよくなるものだったが、「そのようなメリットももはや昔話になってしまった」と情報筋はため息をついた。
わずか数十キロ南には、電気も水も当たり前のように存在する韓国がある。韓国の超巨大ショッピングモールと、北朝鮮の荒れ果てた田畑が川一本隔てて隣接するところすらある。北朝鮮の農民は、光り輝くモールを見て何を思うのだろうか。