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星野源を巡る憶測投稿、事務所の異例対応から見えるものと発信者・滝沢ガレソの“読者”が過熱した理由

田辺ユウキ芸能ライター
騒動に巻き込まれた星野源さん(写真:アフロ)

5月22日10時頃、ミュージシャンの星野源さんを連想させる形で「某NHKアナとW不倫」「某週刊誌が本件をすっぱ抜く予定だったものの所属事務所が10億円を支払って記事をもみ消した」「そのミュージシャンと妻は事実上の離婚状態」という旨の情報がXで駆け巡った。

「ドラマ共演をして電撃結婚した男性歌手」という表現などから、誰もが星野源さんと新垣結衣さんの夫妻、そして所属事務所はアミューズのことを指していると連想。この投稿は瞬く間に拡散された。

アミューズの「法務部」が、「滝沢ガレソ」を名指しにして声明文を出した異例対応

星野源さんが所属する芸能事務所、アミューズの対応は素早かった。

5月23日深夜3時過ぎ、この情報について「事実は一切ありません」と完全否定。さらに「虚偽の情報の拡散、発信には法的措置を検討いたします」と、発信元だけではなく憶測投稿への便乗がひどい投稿に対しても然るべき措置をおこなう可能性を示した。

芸能関連のライターである筆者がまず異例だと感じたのは、アミューズが「法務部」と部署名を明らかにした上で、憶測投稿の発信者であるSNS上のインフルエンサー、滝沢ガレソ氏を名指しにして声明文を出したこと。芸能事務所の一般公開用の声明文に「法務部」と署名されているものは、なかなかお目にかかれないのではないか。

また芸能事務所はこういった場合「一部報道機関」「ネット上で」という風に、憶測であっても発信元を濁した言い回しをするケースが多い。SNS上のインフルエンサーの個人名を明示する形で声明文を出すのはかなり珍しい。

それだけ、アミューズ、星野源さん、そしてその関係者の憤りがすさまじいということではないだろうか。あわせて同件の対応への本気度が感じられた。

星野源さんを侮辱するXユーザーたちの便乗投稿

アミューズが、人目につきやすい朝を待たず「深夜3時」に声明文を出すほど、この憶測への反響は大きかった。

滝沢ガレソ氏の憶測が投稿されると、Xユーザーからすぐに「星野源には失望した」との声が多数あがった。憶測に乗じて、星野源さんが取材で「自分は昔から欲深い」と発言した内容を皮肉的に絡めたり、「昔、モテなかった人間が新垣結衣と結婚できて勘違いした」といった投稿をしたり、アミューズが10億円を支払ったことを表すとされる書面が載るなど、Xユーザーは言いたい放題、やりたい放題の状況に。挙句には、女優を妻に持つお笑い芸人が以前起こした別件の不倫スキャンダルの話題まで再燃。さすがに、どれも目に余るものだった。

多方面まで波及し、放っておけばどんどん状況が悪化する恐れもあり、アミューズとしては、1分、1秒でも早く態度を示すことを優先した。おそらくすぐに星野源さんの方にも確認をとり、声明文を制作するなど段取りを整えていったと思われる。

ダークヒーローとして信者も多数、情報の過熱の要因にも

滝沢ガレソ氏は、Xでもトップ級の270万人をこえるフォロワー数を誇っている。その投稿内容は、今回のような芸能人のスキャンダルだけではなく、一般の社会や日常で起きているトラブルまで、かなり幅広い。ネット上でのボヤ騒ぎ程度の出来事も滝沢ガレソ氏が取り上げると一気に炎上し、より現実的な問題として私たちのもとまで波及していく。大きなメディアがノーマークな社会の暗部や裏側にスポットライトをあて、ユーザーに気づきを与えるパターンも少なくない。そのため、なにかあればXユーザーが「このネタ、滝沢ガレソが取り上げないかな」と要望することも。ちなみに情報はDMを通したタレコミなども多いようだ。

近年では、回転寿司チェーン店で起きた迷惑行為(通称“スシローペロペロ事件”)も、滝沢ガレソ氏が取り上げたことで広く知られ、テレビやネットのニュースメディアが後追いした。回転寿司チェーン店では迷惑行為を防ぐため、皿に寿司を乗せて回すことを取りやめるなどした。さらに株価の上げ、下げにも影響が出た。良いか悪いかは別として、そういう風に滝沢ガレソ氏は社会や企業の仕組みを変えるきっかけにもなっている。

一方で、今回のように正しくないとされるものも扱われている。お笑い芸人による隠し子疑惑はその典型だ。Xに投稿後「削除要請があったためツイ消ししました」とポストを削除。「削除要請があったため」といういろいろ含みを持たせた言い方になっているが、現在までそれを事実とする報道は出ていない。つまり、反響を集めるだけ集めて「言った者勝ち」のような状況を作り出した。

筆者もずいぶん前から滝沢ガレソ氏のXをチェックしている一人だ。そこで実感していたことは、滝沢ガレソ氏がダークヒーロー的に扱われている側面がある点。かといって、滝沢ガレソ氏が正義を振りかざしている風には見えない。キャッチした情報を、読み手が興味を持つ形へとアレンジして伝えているだけ。つまり、編集テクニックに優れている投稿者なのだ。

そんな滝沢ガレソ氏は無数の信者を抱えている。信者たちは、滝沢ガレソ氏があぶりだすスリリングな情報をある意味、楽しんで見ている。危ないものを見たい、人間の欲や汚いところを見たい。滝沢ガレソ氏の投稿はそんな欲求に訴えかけるものがある。いろいろ触発されることで、ネタを過熱させる役割をつとめるようにもなる。つまりXユーザーが、滝沢ガレソ氏の投稿を受けて正義を振りかざす側になっているのだ。

「悪事はさらされるべき」の意識が塊となり、滝沢ガレソ氏という“キャラクター”が生まれた?

悪事は白日のもとにさらされて、法的、もしくは私刑として罰せられるべき――。

Xユーザーに限らず、世の中のほとんどの人にはそういう意識が備わっているのではないか。滝沢ガレソ氏という“キャラクター”は、そういった私たちの意識が塊となって生まれたもののようにも思える。誰もが持つ「悪事はさらされるべき」の意識が強くなりすぎた結果、今回のように真偽不明の情報であってもついついXユーザーは過熱してしまうのだ。

ただXユーザーは、滝沢ガレソ氏の投稿内容の真偽について、自分で取材をするなどして確かめることはない(できない)。特に今回の場合は映像などの“証拠”がない。これは以前から議論されていることだが、そういった情報に自分の意見を付け加えて拡散する場合は、大きな責任がともなうことを自覚しなければならない。なにより滝沢ガレソ氏は、自分自身に降りかかる火の粉は振り払っても、拡散者らの責任はとってくれない。

今回の件があっても滝沢ガレソ氏のネット上での支持は衰えないと推察する。「この件でガレソには潰れて欲しい」との声もあるが、果たしてどうなるだろうか。

芸能ライター

大阪を拠点に芸能ライターとして活動。お笑い、テレビ、映像、音楽、アイドル、書籍などについて独自視点で取材&考察の記事を書いています。主な執筆メディアは、Yahoo!ニュース、Lmaga.jp、Real Sound、Surfvote、SPICE、ぴあ関西版、サイゾー、gooランキング、文春オンライン、週刊新潮、週刊女性PRIME、ほか。ご依頼は yuuking_3@yahoo.co.jp

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