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井上尚弥と対戦を熱望するフェザー級王者ロペスがフルトンに敗れた元王者と防衛戦

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
ロペスvs.阿部麗也(写真:Mikey Williams/Top Rank)

危険度が高いメキシコ人ロペス

 スーパーバンタム級4団体統一チャンピオン井上尚弥(大橋)の次戦は、IBFとWBOで1位を占めるサム・グッドマン(豪州)あるいは同じく豪州を拠点にする元IBF世界同級王者TJ・ドヘニー(アイルランド)を相手に行われる状況だ。4つのベルトを守って行くためには指名試合をこなす関係からグッドマンとの防衛戦を優先するのが得策だろう。しかし今のところ、ビジネス交渉は難航しているという。

 井上vs.ルイス・ネリ(メキシコ)の前座カードに出場したドヘニー(26勝20KO4敗)は6年前、岩佐亮佑から王座を持ち帰ったサウスポー。現在WBOアジアパシフィック・スーパーバンタム級王者で、37歳という年齢が気になるが、ベストコンディションをキープしており、意外と抵抗するかもしれない。ずっと王座統一戦をはじめ重要なファイトが続いた井上とすれば、いい意味で多少“息抜き”の試合も必要なのではないだろうか。ドヘニー戦はそれに相当すると思う。

 ただ米国ファンとメディアはモンスターに「勝敗予想がより拮抗する相手」との対決を強く望んでいる。「そんな強豪は122ポンド(スーパーバンタム級)にはいない」と断言する者も少なくない。だから126ポンド(フェザー級)へ早く進出せよとけしかける。迎え撃つフェザー級王者たちもモンスターへ熱視線を送る。その最右翼と思われるのがIBF世界王者ルイス・アルベルト・ロペス(メキシコ)だ。

 3月に阿部麗也(KG大和)と行った3度目の防衛戦で日本のファンにも知名度が拡がったロペス(30勝17KO2敗=30歳)。先週、自身の公式X(旧ツイッター)でまるで井上との対決が決まったかのようにバナー(ポスター)を投稿。試合締結をあおるキャンペーンに出た。それだけ井上戦を熱望している証拠だろう。

 現在フェザー級はWBA王者がレイモンド・フォード(米)、WBCがレイ・バルガス(メキシコ)、WBOがラファエル・エスピノサ(メキシコ)が君臨する。4団体の王者のうち3人がメキシコ人という状況だ。ランカー陣を見回してみても井上ともっともかみ合い、好ファイトが期待できるのが“ベナド”(鹿の意味)のニックネームで呼ばれるロペスだと推測される。体格的にも危険度はネリより遥かに高いだろう。

次回防衛戦の情報が流れたロペスと陣営(写真:Mikey Williams/Top Rank)
次回防衛戦の情報が流れたロペスと陣営(写真:Mikey Williams/Top Rank)

3年前にフルトンに屈する

 そのロペスの次戦が内定している。彼をプロモートする米国の「トップランク」によると期日は8月10日。相手は元WBO世界スーパーバンタム級王者アンジェロ・レオ(米)。正式アナウンスはまだされていないが、レオの地元ニューメキシコ州アルバカーキ開催が有力。アルバカーキの地元紙「アルバカーキ・ジャーナル」のホームページが伝えている。世界ランキングはWBAフェザー級6位が筆頭だ。

 無事に勝利を収めたロペスが井上を待ち受ける構図が目に浮かぶが、おそらく実現は来年まで持ち越されるだろう。トップランクはロペスに対し、エスピノサ(24勝20KO無敗)との2団体統一戦を年末に締結させたい意向を明かす。そのエスピノサは6月21日にラスベガスで初防衛戦に臨む。

 ロペスvs.エスピノサの勝者がモンスターの挑戦を受ける――これがボブ・アラム・プロモーター率いるトップランクの構想だと思える。フェザー級としては規格外の185センチの長身を誇るエスピノサの戦力も侮れないものがある。まずは6月の試合の結果と内容が注目される。

 さて、ロペスの前に立ちはだかるレオ(24勝11KO1敗=30歳)はプロデビュー後20連勝の快進撃を続けた。その20戦目でエマヌエル・ナバレッテ(メキシコ)が返上したWBO世界スーパーバンタム級王座を決定戦で獲得したが、2021年1月、スティーブン・フルトン(米)に大差の3-0判定負けを喫して無冠になった。それもあってか正直、王者としての印象は薄い。ちなみにフルトン(21勝8KO1敗)は6月15日ラスベガスで復帰戦を予定している。

現地記者のロペスvs.井上の予想は?

 レオはフルトン戦から5ヵ月後、ネリとWBC世界スーパーバンタム級王座を争ったアーロン・アラメダ(メキシコ)に判定勝ちで再起を果たす。ところがレオがリングへ戻ってくるまで2年5ヵ月の歳月が経過した。そのままレオは消えてしまったのか?と思っていたら、昨年11月、9回TKO勝ちで復帰すると、今年1月、世界ランカーのマイク・プラニア(フィリピン)をボディー打ちで沈めて3回KO勝ち。最新の4月の試合ではナバレッテの世界王座に挑戦歴があるエドゥアルド・バエス(メキシコ)に10回判定勝ちとフェザー級進出後3連勝と勢いに乗っている。ホームアドバンテージもあり、レオには好試合が期待できる。

3年前のフルトンvs.レオ戦(写真:SHOWTIME)
3年前のフルトンvs.レオ戦(写真:SHOWTIME)

 それでも馬力があるロペスに予想が傾くのは当然だろう。その後の“モンスター争奪戦”でロペスが勝ち抜くと仮定して果たして大舞台の井上戦ではどんな結末が待っているだろうか。

 先週末、ナバレッテvs.デニス・ベリンチュク(ウクライナ)のWBO世界ライト級王座決定戦(ベリンチュクの2-1判定勝ち)を取材した際に旧知のメキシコ人記者、「ラ・フロンテラ」紙のダニエル・アントゥーナ氏にロペスvs.井上の予想を聞いてみた。今月初旬のサウル“カネロ”アルバレスvs.ハイメ・ムンギア(ともにメキシコ)のスーパーミドル級4冠統一戦などラスベガスへも頻繫に出かける同氏は断言した。「序盤は手に汗にぎる好ファイトが楽しめる。でも……。ベナドも(井上には)敵わないだろう」と。

 私はフェザー級の壁は高いと信じている。その先鋒的存在のロペスでも「敵わない」と言わしめるところがモンスターの現在地を鮮明に映し出す。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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