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「古くなったコメ?外食産業にまわす」スーパーからの返品米を受け取る業者

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
米(写真:アフロ)

「スーパーでは精米して1ヶ月のコメを捨てる」という記事(1)には多くの反響をいただいた。精米して1ヶ月経ったコメは、スーパーでは商品棚から撤去して処分する、というものだ。

スーパーや店舗によって、商品棚から撤去した後の扱いは違っており、

  • 捨てる
  • 従業員に安く売る
  • フードバンクなどに寄付する

といったことを、複数のスーパーの社員から伺った。

スーパーで販売されるさまざまなコメ(筆者撮影)
スーパーで販売されるさまざまなコメ(筆者撮影)

ちなみに前回の記事を書いたあと「捨てるのは個人でやっているような小さいスーパーじゃないのか」「名の知れたスーパーは捨てないはず」というコメントもいただいた。が、前述のスーパーはどちらも複数の店舗を経営している企業である。

筆者が食品ロス問題に関わった2008年から16年経とうとしている。さまざまな食品が捨てられる中でも、コメ(米)を捨てるのは許し難い、という感情を人々が持っているのを感じている。

スーパーで販売されているコメの精米時期を見てみると、だいたい1ヶ月弱前のものが多い。たとえば5月初旬の店頭であれば、精米時期は「4月下旬」などと表示したものが商品棚に積まれている。

筆者が配信しているニュースレター「パル通信」のサポートメンバー(有料読者)(2)に、近所のスーパーを見てもらったところ、ほとんどすべてが精米して1ヶ月以内だったとのことだった。1ヶ月を過ぎているものは一つだけだったとのこと(コシヒカリ)。

「返品で引き取ったコメ?外食産業にまわす」

そんな中、新たな情報が、前述とは別のスーパーの社員の方から寄せられた。

精米から5週間経ってから、お米の取引先に返品しているとのこと。

取引先に、この返品したコメはどうするのかを確認したところ、「外食産業にまわす」とのことだった。

ただ、外食産業に売るものの、その販売先には「スーパーから返品したもの」とは言っていないとのこと。もちろん、どの企業に売っているかまではわからなかった。

ただ、この事実を聞いて、腑に落ちたことがある。

よくある「ライス無料」というのがなぜ実現できるのか、ということだ。

高い価格でコメを買っていたのではできないことだろう。

ラーメン店の前に掲げられた「ライス無料」の文字(筆者撮影)
ラーメン店の前に掲げられた「ライス無料」の文字(筆者撮影)

捨てないで食べてもらえるのはいいかもしれないが、義父母が毎年、苦労してコメを作っているのを知っている身としては複雑な気持ちだ。

長野県の田んぼ(筆者撮影)
長野県の田んぼ(筆者撮影)

先日5月9日、TV東京系の『カンブリア宮殿』に明治26年創業、130年お酢を作り続けている老舗、飯尾醸造が登場した。飯尾醸造では、昭和39年(1964年)から、京都府宮津の棚田で、農薬を使わずにお米を作り、その新米だけを原料にしてお酢を作っているそうだ(4)。製品ができるまでに100日から200日かけて、丁寧に作っている。

飯尾醸造の公式サイトによれば、日本に400社余りある食酢メーカーのうち、自社で製造設備を持つのは3分の1以下に過ぎない。設備のないメーカーは、高い酸度の酢を仕入れ、水で薄めて販売しているそうだ。一方、飯尾醸造は、時間と手間を惜しまずに、酸味だけでなく、うまみの豊かなお酢を作っている。

食べ物を捨てるのは自分のたましいを捨てること

「食べ物を捨てるのは自分のたましいを捨てること」と語ったのは、食品ロスのドキュメンタリー映画を撮影したオーストリア人監督、ダーヴィド・グロス氏だ(5)。

米国でレストラン「シェ・パニース」を経営してきたアリス・ウォータース氏は、著書で

安さが一番大事になると、商品の品質が気にならなくなります。お得感がすべてになってしまい、それが自分や地球にとっていいものかどうかなど、誰も語らなくなります

と語っている(6)。

日本にとって、最も重要な食料といっても過言ではないコメ(米)。精米して1ヶ月経ったら、スーパーは「古い」とみなし、あとは野となれ山となれ。こんな状況を野放しにしていていいとは思わない。

参考情報

1)なぜスーパーでは精米して1ヶ月のコメを捨てるのか 米菓業界ではコメ不足で仕入れ値2倍になっているのに(井出留美、Yahoo!ニュースエキスパート、2024/4/26)

2)井出留美の「パル通信」

3)削除

4)飯尾醸造はこんなお酢やです。(飯尾醸造)

5)食べ物を捨てることは自分のたましいを捨てること(井出留美、朝日新聞SDGsACTION!、2023/7/4)

6)『スローフード宣言 食べることは生きること』(アリス・ウォータース著、ボブ・キャロウ、クリスティーナ・ミューラー、小野寺愛訳、海士の風)

追記(2024年5月22日16:03):外食産業で「終日食べ放題」と謳っている企業より、古くなったお米を使用しているからキャンペーンができているような誤解を招く表現とのご指摘があったため、記事中の文章および参考資料3)を削除しました。お詫び申し上げます。

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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