もう若くはないヒロインの「生」と「性」を表現。彼女を演じる上でセックスだけないものにはできない
突然の夫との死別からまだ立ち直れないでいる淳子と、職人気質といえば聞こえはいいが何事も生真面目すぎて融通のきかない家具職人の裕司。
いまはパートナーが不在。でも、まだ未練がないわけではない。
もう若くはない、でも、枯れるにはまだ早い。
もう人生の折り返し地点は過ぎている。でも、まだまだその先の人生は続く。
いまおかしんじ監督の「あいたくて あいたくて あいたくて」は、そんな大人の男女の運命とまではいわないが、なにかの始まりを予感させるめぐり逢いを見つめている。
メインキャストのひとり淳子を演じているのは、いまおか監督作品に欠かせない女優の丸純子。
これはご本人に失礼に当たるかもしれないが、彼女は、ありふれた日常の中にいる中高年層のヒロインを変に若く見せない、着飾らない、あくまでも普段着で演じることができる数少ないこの年代の女優といっていい。
淳子というヒロインを「性」と「生」を体現してみせた丸に訊く。（全六回）
たとえフィクションで架空の人物だとしても、
その人物になりかわって演じるというのはけっこうおこがましいこと
ここまで五回にわたっていろいろと訊いてきたが、今回の淳子に限らず、ミドルエイジの女性を変に若ぶることもなければ、老け込む感じにもしない、どこかすぐそばにいそうな存在として演じている印象がある。そして、そういった女性の「性」もまた自然な形で体現している印象がある。
そのあたりを含めて、どのようなことを意識して役に臨んでいるのだろうか？
「わたしたち俳優というのは、たとえそれが役ではあっても、一人の人間の人生というものを演じ切らなければならない。
よく考えたら、大それたことというか。たとえフィクションで架空の人物だとしても、その人物になりかわって演じるというのはけっこうおこがましいことだなと思うんです。
だからこそ、その役と真摯に向き合って、どんな突飛なキャラクター性のある役でもあっても、その人のリアルになるべく近づかなくてはならない。
そうでないと、その人物が生きているように見えない。
その人物の性格だったり、日常の過ごし方であったり、どんな好みがあるかなど、ひとつひとつを大切にする。そこをきちんと演じれば、リアルが生まれてくる気がするんです。
ある意味、役者は、ひとりの人間のストーリーを任されている。その役の人生を背負わないといけない。責任重大なんです。
だから、嘘はつけない。
たとえば、今回演じた淳子であったら、彼女の日常には子育て、お店の切り盛りなどいろいろあって、その中にセックスもある。
だったら、演じる上でセックスの場面は避けられない。彼女の人生の中にある重要な要素ですから、そこだけないものにはできない。
人の人生を背負うわけですから、そこは必要であれば演じるのが当たり前という意識があります。
なので、『裸になることを厭わない』と言ったことをよくいわれて、なんだか裸のシーンは特別視されるんですけど、わたしの意識はちょっと違って。
わたしの中ではそんなに特別なものではない。ベッドシーンもほかの場面とほぼ同じというか。
もちろんいろいろと気をつかうところはありますけど、臨む意識としてはあまり変わりはない。
人間の営みの中で、セックスはあるもの。ご飯を食べることと差はない。
特別なことではないといった意識がある。
役者という仕事をする以上、その役の人生を背負う以上、求められれば性もきちんと表現しないとと思っています」
母親の気持ちを十分に味わいました
改めて今回の淳子役を振り返ると思い出深い役になったという。
とりわけ、母としての役を通していろいろと感じるところがあったという。
「わたし自身は母親ではないので、淳子を通して、『こんな気持ちになるんだ』とか、いろいろと気づかされることが多かったです。淳子はちょっと変わったあまりいないタイプの母親かもしれないですけどね（苦笑）。
娘のことをまだまだ子どもと思ってたら、意外と成長していて、ひとりの立派な女性に成長したことを感じたときの、『ここまで成長してくれたか』といった喜びと、その逆の『大人になっちゃったか』といったちょっとした寂しさとか、演じていて胸にグッと来るんです。
昔と変わらないちっちゃいころの面影を感じることもあれば、一人前の女性にも見えてる。
でも、いずれにしても愛おしい。
淳子では、母親の気持ちを十分に味わいました」
ちょっとホッと和んでもらえたらうれしいです
この「あいたくて あいたくて あいたくて」という作品にはこんなことを感じているという。
「なにかとみなさん忙しいと思うんです。
気づくと時間に追われていて、なんかわからないけどいつの間にか神経がピリピリしていて周囲といざこざを起こしてしまったりしてしまう。
そういう中で、『もうちょっとのんびりしてもいいのかな』とか『もう少し余裕をもって生きてもいいのでは？』とか、ちょっと思える映画だと思うんです。
淳子のドジっぷりをみていると（笑）、少し安心するというか。
『ああ、彼女のような感じでもなんとかやっていけるのね』とか、『多少のミス、いちいち気にしていても仕方ないか』とか、『そんなに頑張らなくてもいっか』とか思ってくれる人がけっこういる気がしていて。
肩に力が入っている人は、ちょっとほぐれてくる、ちょっと心が疲れている人は、少し癒される、頑張りすぎている人は、ちょっと一息つける、そんな感じになれるところがこの作品にはあると思うんです。
みなさんにちょっとホッと和んでもらえたらうれしいです。そういう作品になったのではないかと思っています」
（※本編インタビュー終了。次回、作品を離れてこれまでのことや今後についてきたインタビューを番外編として続けます）
「あいたくて あいたくて あいたくて」
監督：いまおかしんじ
出演：丸 純子 浜田 学
川上なな実 柴田明良 青山フォール勝ち 山本愛香
足立 英 青木将彦 松浦祐也 川瀬陽太
広島・横川シネマにて12/24（土）～公開
場面写真およびポスタービジュアルは（C）2022レジェンド・ピクチャーズ
