もう若くはないヒロインの「生」と「性」を体現して。メールからの男女の出会いで考えたこと
突然の夫との死別からまだ立ち直れないでいる淳子と、職人気質といえば聞こえはいいが何事も生真面目すぎて融通のきかない家具職人の裕司。
いまはパートナーが不在。でも、まだ未練がないわけではない。
もう若くはない、でも、枯れるにはまだ早い。
もう人生の折り返し地点は過ぎている。でも、まだまだその先の人生は続く。
いまおかしんじ監督の「あいたくて あいたくて あいたくて」は、そんな大人の男女の運命とまではいわないが、なにかの始まりを予感させるめぐり逢いを見つめている。
メインキャストのひとり淳子を演じているのは、いまおか監督作品に欠かせない女優の丸純子。
これはご本人に失礼に当たるかもしれないが、彼女は、ありふれた日常の中にいる中高年層のヒロインを変に若く見せない、着飾らない、あくまでも普段着で演じることができる数少ないこの年代の女優といっていい。
淳子というヒロインを「性」と「生」を体現してみせた丸に訊く。(全六回)
メールのやりとりでも気の合う人、気の合わない人がいると思う
前回(第三回はこちら)、触れたように、淳子が直面する現実はひとつひとつをよくみるとけっこうシビア。でも、彼女はそれを持前の明るさで乗り越えていこうとする。
その中で、彼女は顔をみたことのないひとりの男性とメールのやりとりでつながる。
彼とやりとりをはじめるきっかけは店に置くハンドメイドのテーブルを通信販売で購入したこと。
送られてきたテーブルに、オマケで人形がついてきたのだが、その首が取れていた。
一応の報告と淳子がメールすると、メールの相手である家具職人の裕司から送り直すとの返事が。
あくまでおまけなのだから送り直してもらおうと思ったわけではない淳子は「親切の押し売りはやめて、あなたは宮沢賢治の『ツェねずみ』のねずみにそっくりです」と返信するという、最悪なメールのやりとりから二人のメールでの文通ははじまる。
これはどう受けとめただろうか?
「メールって知り合いではない場合、相手の顔が見えない。
なので、とくに知り合いでもない場合、普段ならばちょっと言葉を選ぶところも、ストレートに言ってしまうことがあってちょっと揉めたりする。
一方で、顔は見えないけど、なんとなくその文面からその人の人柄みたいなのも感じるところがあると思うんです。
淳子と裕司のやりとりはまさにこの2つの面が絡んで始まっている。
淳子はおまけで送られてものを再び送ってもらおうとはまったく思っていない。
想像ですけど配送中に壊れた可能性とか含めて、今後同じことが起きないように業務連絡的に裕司に報告したに過ぎない。
でも、送り主の裕司の方はその報告を受けて律儀な性格なので送り直すという。その気持ちは裕司のまっすぐすぎる性格ゆえで。単なるクレーム対応でと問題が起きないようにとか考えていなくて、単純にちゃんとしたものを送り直したいと思っている。
ただ、それを受けた方の淳子としてはなにか自分がねだっているように受け取られたような気分になってちょっと腹立たしい。
こうやって二人のやりとりははじめ険悪になりかけるのだけれど、続けていくうちになんとなく『悪い人じゃないな』と感じ取って楽しくなってくる。
淳子はなんとなく裕司が融通はきかないけど決して悪い人ではないことを文面から感じとっている。だから、メールでの交流が続くことになった。
メールのやりとりでも気の合う人、気の合わない人がいると思うんです。
淳子と裕司も気が合わなかったら、たぶん『もう分からない人だな』で終わってしまったと思うんです。
でも、そうならなかったのはどこか通じるところがあった。
変な話ですけど、『この人、なんでこんなに飲み込みが悪いかな』という人ってたまにいるじゃないですか。
でも、そういう人でもこちらが『もうダメだ』とあきらめてしまう人と、どうにかしてわかってもらおうと何度でも説明してしまう人がいると思うんです。
淳子にとって裕司は後者で。突き放すのではなく、ちょっとこのメールのやりとりを続けてみようと思う人だったような気がします。
ただ、それはこの時点では恋愛とかではまったくなくて。恋愛対象として意識していない。
自然な流れでなんとなくメールでやりとりしていて、気づいたら距離が縮まっていた。嫌だったらまた離れればいいじゃんぐらいの付き合いだったと思います」
わたしから見ると、裕司と浜田さんは地続きで見えた
ここからしばらく二人はすれ違うことはあっても、出会うことなく時間を過ごすことになる。
浜田学が演じた裕司をどう感じただろうか?
「これは演じていて実際に感じたことなんですけど……。
ラストシーンに関することなので詳しくは避けますけど、あそこの場面で、わたしが淳子を演じていて感じたのは、『そのまんまの人がいる』っていうことだったんです。
どういうことかと言うと、淳子と裕司はメールでしかやりとりをしていないわけです。
淳子はメールの文章から裕司はどんな人があれこれ想像するしかない。
あのラストシーンは、想像していた通りの人が現れたと、淳子を演じていてわたしは感じていました。イメージ通りの裕司がいた。
そうしたらみなさんどうですかね?やっぱりドキドキするし、ワクワクもするのではないでしょうか?
そういう淳子の素直なリアクションがそのままあのシーンには出ているんですけど、演じているわたし自身もそういう気持ちになっていました。
それぐらい理想の裕司があそこにいたんですよね。
それは演じた浜田学さんの力でもあって。ほんとうに裕司役に誠実に向き合っていらっしゃった。
ご本人には失礼なのかもしれないんですけど、わたしから見ると、裕司と浜田さんは地続きで見えて。浜田さんも不器用で愛想笑いとかできない感じなんですけど、ものすごく心には温かさを感じる。そういう人で、それがそのまま裕司役に出ている印象で。
お互い主演なのに、一瞬しか絡むシーンがなかったわけですけど、浜田さんが裕司を、わたしのなかにスッと入る人物にしてくださっていました」
(※第五回に続く)
「あいたくて あいたくて あいたくて」
監督:いまおかしんじ
出演:丸 純子 浜田 学
川上なな実 柴田明良 青山フォール勝ち 山本愛香
足立 英 青木将彦 松浦祐也 川瀬陽太
広島・横川シネマにて12/24(土)から公開
場面写真およびポスタービジュアルは(C)2022レジェンド・ピクチャーズ