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もう若くはない男女のラブストーリーでヒロインの「生」と「性」を体現。「役を楽しんでいる自分がいます」

水上賢治映画ライター

 突然の夫との死別からまだ立ち直れないでいる淳子と、職人気質といえば聞こえはいいが何事も生真面目すぎて融通のきかない家具職人の裕司。

 いまはパートナーが不在。でも、まだ未練がないわけではない。

 もう若くはない、でも、枯れるにはまだ早い。

 もう人生の折り返し地点は過ぎている。でも、まだまだその先の人生は続く。

 いまおかしんじ監督の「あいたくて あいたくて あいたくて」は、そんな大人の男女の運命とまではいわないが、なにかの始まりを予感させるめぐり逢いを見つめている。

 メインキャストのひとり淳子を演じているのは、いまおか監督作品に欠かせない女優の丸純子。

 これはご本人に失礼に当たるかもしれないが、彼女は、ありふれた日常の中にいる中高年層のヒロインを変に若く見せない、着飾らない、あくまでも普段着で演じることができる数少ないこの年代の女優といっていい。

 淳子というヒロインを「性」と「生」を体現してみせた丸に訊く。(全六回)

いまおか監督はいままであまり出会ったことのないタイプ

 丸の出演作を振り返ると近年、いまおか監督作品への出演が続く。

 はじめにいまおか監督との出会いをこう語る。

「いまおか監督と一番最初にご一緒した作品は、2016年公開の映画『誘惑は嵐の夜に』でした。

 だから、もうかれこれ6年前ぐらいになるんですけど、そのときはその後、これほど(作品に)呼んでいただけるようになるとは思っていませんでした。

 正直、そのときはあくまで監督と俳優といった感じで終わっていました。

 監督と俳優という枠組みを取っ払って、よく知る仲みたいな関係になったのはその後のこと。

 『丸純子のおいしいひとり酒』というドラマでわたしは主演を務めたのですが、その脚本を手掛けられた佐藤稔さんが実はいまおかさんと仲良しで。

 その流れで一度、三人で『飲みに行きましょうか』となったんです。たしか、いまおか監督の『こえをきかせて』に出演したときぐらいだったと記憶するんですけど。

 で、飲みに行ったら意気投合じゃないですけど、なんか気が合って急速に距離が縮まったんです(笑)

 わたしもいろいろな監督さんとお仕事をさせていただいてますけど、いまおか監督はいままであまり出会ったことのないタイプというか。

 普段も飲んでいるときもあまり変わらない。どこか飄々としている。一緒にいて疲れない。だからか、現場もすごく心地いいんです。

 変な話かもしれないですけど、一緒にのんでいるときも、映画の現場でご一緒しているときも、あまりかわらないというか。わたしという人間をまるっと受けとめてくれるところがある。

 ですから、いい意味でその役に気負わずに自然体で臨める。自分のすべてを役に『投影しちゃていい』みたいな気分になって、思いきり臨むことができる。

 すべてを受けとめてくれる安心感があるので、ためらわずに自分のやれることすべてを出して、恐れずにいろいろとチャレンジもできる。

 いまおか監督とのお仕事は、すごく役を楽しんでいる自分がいます。もちろんいろいろと悩むことはあるんですけどね」

「あいたくて あいたくて あいたくて」より
「あいたくて あいたくて あいたくて」より

変にデフォルメされた丸純子が、普通の通常の丸純子になってきている

 ただ、最近、ちょっと困ったことがあるのだとか。

「そういうすべてを受けとめてくれるところがあるので、いろいろとチャレンジができる。

 それはそれで自分でも気づかなかった一面を引き出してくれたりする。また、もう自分で恥かしくなるぐらい、わたしという人間が出ちゃっているときもある。

 その一方で、おもしろがってかなにかわからないですけど、演じているわたしが『こんなことやって大丈夫?成立する?』というぐらい演出がエスカレートしていったりするんですよ(笑)。

 それで、ものすごくデフォルメされた形の役として存在する瞬間がある。

 すると、それがいまおか監督の中で=丸純子とインプットされてしまうようで。

 一緒に飲んだりしたときに『なんかすごい澄ましていない?そんな気をつかわないで、いつものようにしてよ』とか言われるんです。

 こちらとしては『えっ、これいつもの私なんですけど』といった感じなんですけど(苦笑)。

 なんか、いまおか監督の中で、変にデフォルメされた丸純子が、普通の通常の丸純子になってきているんですよ。

 そこは違いますから、ちょっと認識を改めてもらえればなと(笑)」

市井の人々に注ぐ眼差しが優しさにあふれているいまおか監督作品

 そんないまおか監督の生み出す作品についてはこんな印象を常に抱いている。

「いまおか監督のほんとうに肩ひじ張らない人間性が出ていると思うのですが、どの作品も人への優しさが根底にある。

 とりわけ市井の人々に注ぐ眼差しが優しさにあふれている。

 『頑張れ、頑張れ』といった他者を鼓舞するような力強いメッセージはない。

 でも、いま苦境にいる人や、困難に直面している人、悲しみから立ち直れない人などに、上から目線ではなく、同じ地点に立って『こんなやつもこんな感じで元気に頑張れている。だから大丈夫だよ』とそっと声をかけてくれるような優しさが作品にある。

 みているとじんわりと心が温かくなって、自然と力が出てきて、前を向くことができる。

 いまおか監督作品にはそういう魅力がある。わたしはそこがとても好きです」

(※第二回に続く)

「あいたくて あいたくて あいたくて」ポスタービジュアル
「あいたくて あいたくて あいたくて」ポスタービジュアル

「あいたくて あいたくて あいたくて」

監督:いまおかしんじ

出演:丸 純子 浜田 学

川上なな実 柴田明良 青山フォール勝ち 山本愛香

足立 英 青木将彦 松浦祐也 川瀬陽太

栃木・小山シネマロブレにて11/4~、兵庫・元町映画館にて11/5~公開

場面写真およびポスタービジュアルは(C)2022レジェンド・ピクチャーズ

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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