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「バイデン氏は生ける屍のようだ」「悲劇だ。撤退の決断を」 米英の有力紙は大統領候補討論会をどう見たか

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
両候補がお互いに「米国史上最悪の大統領」と罵り合う場面も見られた。(写真:ロイター/アフロ)

 第一回目の米大統領候補討論会は、まさしく、ロバート・ケネディ・ジュニア候補が「バイデン氏がトランプ氏に勝つのは不可能」と予想した通りとなった。CNNの世論調査によると、67%がトランプ氏が討論会で勝ったと評価している。バイデン氏にとっては討論会は“大惨事”になったとの見方が優勢で、民主党側からもバイデン氏に大統領選撤退を求める“バイデン下ろし”の声が上がっている。

民主党側から懸念の声続々

 ところで、米英の有力紙は、この討論会をどのように評価しているのか?

 米紙ニューヨーク・タイムズは「不器用なパフォーマンスとパニックに陥る党」というタイトルと「バイデン大統領の不安定でたどたどしい討論会パフォーマンスにより、民主党は指名候補を代えることを検討している」というサブタイトルで、「バイデン大統領は、正式な指名を受ける約2か月前の討論会に応じることで、再選に向けた新たな勢いをつけたいと望んでいた。ところが、彼のたどたどしく支離滅裂な演説は民主党員の間でパニックを引き起こし、彼がそもそも候補者になるべきかどうかという議論が再燃した」、「かすれた声のバイデン氏は、極めて不誠実だがシャープなトランプ前大統領の発言に反論するのに苦労し、精力的で競争力のある選挙戦を展開できる能力があるのかという疑問が投げかけられた。81歳のバイデン氏は、自身の年齢に関する懸念を払拭するどころか、それを中心的な問題にしてしまった」として、以下のような民主党員の懸念の声を掲載している。

「バイデン氏は退くよう求める声が最高潮に達するだろう」(匿名)

「トランプ氏とともに壇上にいる男は勝てない。トランプ氏に対する恐怖がバイデン氏に対する批判を抑え込んでいた。今、同じ恐怖が彼の辞任を求める声を煽ることになるだろう」(匿名)

「民主党は手遅れになる前に別の人を指名すべきだ」(2020年の民主党候補指名争いでバイデン氏と対立したアンドリュー・ヤン氏)

「バイデン氏には成し遂げなければならないことが1つあった。それは、彼が高齢でも大統領職にふさわしいと米国民を安心させることだったが、今夜はそれができなかった」(ミズーリ州の元民主党上院議員クレア・マッカスキル氏)

自信とエネルギーで嘘を覆い隠したトランプ氏

 一方、同紙は、トランプ氏については、嘘を捲し立てたものの、自信とエネルギーで嘘を覆い隠し、攻撃に徹したとの見方をしている。

「トランプ氏は、効果的な反論をされることなく次々と嘘を並べ立て、ほとんど苦労せずに討論会を乗り切ったように見えた。2020年のバイデン氏との討論会で見せた過度に高圧的な態度を避けつつ、自信を見せ、対戦相手が困難に悩む様子を黙って見ているかのようだった。トランプ氏は時々とりとめのない話をしたり、複雑で理解しにくく、まったく真実ではない発言をしたりしたが、エネルギーと声量で誤った発言を覆い隠し、2021年1月6日の攻撃や中絶など、彼にとって弱点となる問題でも攻撃を続けた」

バイデン氏にとっては悲劇

 米紙ワシントン・ポストは「民主党はバイデン氏の討論会でのパフォーマンスにパニックを起こし、彼の将来に疑問を抱いている」というタイトルで、「バイデン氏が口を開けて何かをじっと見つめるような表情で登壇したことや、口調が途切れ途切れで、考えを言い終えるのに苦労しているように見えた」とその様子を懸念しつつ、民主党側の声を紹介している。

「バイデン氏は討論会に臨むにあたり、非常に低いハードルを課されていたが、そのハードルさえクリアできなかった。彼は準備不足で、迷っていて、常に嘘をつくトランプ氏と効果的にやり合うだけの力がないように見えた」(オバマ政権時代にサンアントニオ市長を務めたフリアン・カストロ氏)

「バイデン氏は、この討論会でのパフォーマンスを反省し、選挙から撤退する決断を発表して、民主党候補の選択を党大会に委ねてほしい」(ニューヨーク・タイムズ紙のコラムニスト、ニコラス・クリストフ氏)

「ジョーにとってひどい夜となった。年齢という選挙での最大の弱点に対する懸念を強めた。トランプカリプス II の可能性が大きくなった。(バイデン氏には)トランプ氏と国民に、トランプ氏が有罪判決を受けた重罪犯であることをじっくり考えさせるという選択肢もあったのに、これは悲劇だ」(リンクトインの共同創設者で民主党の寄付者でもあるリード・ホフマン氏の顧問)

利己的な嘘つきのトランプ氏の方が不安

 米紙USA Todayは、意見記事で、討論会ではバイデン氏とトランプ氏、それぞれの弱点が浮き彫りにされたとしつつも、トランプ氏が再び大統領になれば“絶対的な大惨事”が起きるとの懸念も示している。

「討論会で何かが起こったとすれば、それは各候補者の弱点を浮き彫りにしたことだ。バイデン氏の場合、それは彼の年齢と次の任期をこなす能力だ。トランプ氏の場合、それは事実をまったく無視し、狂気的なナルシシズムと自分を中心に回っている世界しか見ようとしない姿勢だ」

「トランプ氏の2期目が意味するものすべての方がずっと不安だ。復讐に燃える残酷な有罪判決を受けた犯罪者に絶大な権力が与えられることの方がずっと不安だ。アメリカが利己的な嘘つきを受け入れることの方がずっと不安だ」

生ける屍のようだった

 英紙テレグラフは「これは討論会ではなかった。医療上の緊急事態だった。当紙の記者たちは判決を与える」というタイトルで、「私は確信している。ドナルド・トランプが11月に勝つだろう」と明言し、バイデン氏の高齢ぶりを酷評している。

「バイデン氏は自身の老衰を披露した。これは討論会ではなく、医療上の緊急事態だった。大統領はまるで生ける屍のようで、その声はとても弱々しく、古代の墓の周りにある葉の囁きのように聞こえた。彼は4年間持つだろうか? 聴衆は彼が90分間もつかどうか確信が持てなかった」とし、さらにバイデン氏の最大の論点についても、「バイデン氏が、“トランプ氏は妻の妊娠中に、ポルノ女優とセックスした”と非難したことだろう」と揶揄、「民主党は候補交代を真剣に考えなければならない」と述べている。

バイデン氏は撤退を否定

 バイデン氏の後任候補としては、カリフォルニア州知事のギャビン・ニューサム氏の名前があがっていたが、同氏は「私はバイデン大統領の実績に背を向けることは決してない」と討論会後の記者会見で述べ、候補者変更の可能性を一蹴した。

 バイデン氏自身も、28日、ノースカロライナ州で行った演説の中で「私は以前ほどうまく討論はできない。しかし、事実のを伝え方はわかっている。11月にはこの州を勝ち取るつもりだ」と述べ、大統領選からの撤退を否定している。

嘘をついても強さを見せれば勝つ?

 第一回目の大統領候補討論会では、トランプ氏が勝ったとの見方が優勢だが、これは、弱々しくても事実を述べていたバイデン氏の実質よりも、嘘をついても力強さや自信を見せたトランプ氏の印象を、人々がより重視していることを表しているようにもとれる。米大統領選では、嘘をついても強さを見せつければ勝つ可能性があるということだろうか。

 大統領選の投票日まであと4ヶ月あまり。民主党側は、バイデン氏が引き起こした「大惨事」により生じた大火の火消しをどのように行い、どのように挽回していくのか?

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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