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黒木華『ゴシップ』が問いかける、「ニュース」とは何か?

碓井広義メディア文化評論家
「カンフルNEWS」のメンバー(番組サイトより)

大学生に「紙の新聞を日常的に読んでいる人?」と訊(き)いたことがあります。

約100人中、手を挙げたのは5人ほど。多くの学生が「ニュースはネットで読みます」と当然のように答えていました。

確かに、それが現状かもしれません。

舞台はニュースサイト編集部

黒木華さん主演のドラマ『ゴシップ #彼女が知りたい本当の○○』(フジテレビ系)。

舞台は、ゴシップ系といわれるニュースサイト「カンフルNEWS」の編集部です。

ヒロインの瀬古凛々子(黒木)が編集長になるまで、掲載されるのはネットなどで流通している情報に手を加えただけの、いわゆる「コタツ記事」ばかりでした。

就任早々、凛々子は部員たちの企画を「新鮮味なし」「プレスリリースからのコピペ」と一蹴。

「取材・検証・実体験のない情報を収集して書いた、凡庸かつ内容の薄い記事」と容赦しません。

「プロセス」もニュースに

そのうえで、凛々子がとった方針は、ネットで話題となっている話を「本当はどうなのか?」と検証していくことでした。

たとえば、パワハラ企業だという評判を否定した、ゲームアプリ会社の人気キャラクターが、実は盗作だったことを突きとめる。

また、報じられた有名俳優の「円満離婚」の真相を明らかにし、ネットで人気の覆面女子高生シンガーの正体にも迫っていました。

実は、凛々子たちがしているのは、「記者」なら当たり前の「取材」という行為です。

時間と手間をかけた取材は新聞が存在する意義の一つですが、それをネットニュースでもしっかりやっている。

しかも、取材の「結果」だけを書くのではなく、その結果にたどり着くまでの「プロセス」も含めて記事にしていく。

時には、自分たちの間違いや失敗も記事に入れ込んでいく。

このドラマの面白さも、そこにあります。

事実をどう伝えるか

先日の第8話でも、有名企業経営者の「不倫問題」を取材するうち、彼の息子をめぐる「裏口入学疑惑」というネタにぶつかります。

ところが、この疑惑は大学の女性派遣職員によるニセ情報だったことが判明。背景には、家庭の事情で経済的に苦労してきた過去がありました。

凛々子は彼女に言います。

「あなたの話を書くことは出来る。怒りや悲しみをなかったことにはしません!」

派遣女性の心情も取り込んだ記事は、生まれた家や環境で人生が決まってしまうかのような社会の構造に、小さな一石を投じることになったのです。

以前、ドラマの中で凛々子はこんなことも言っていました。

「事実をどう受けとめるかは相手次第。ただ、事実をどう伝えるかは私たち次第です」

名言かもしれません。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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