「消えたシウマイ弁当」2020年最も読まれた記事に見る食の支援のあり方とは?
年が変わり2021年となったが、コロナ禍は続いている。2020年に筆者の記事で最も読まれたのが「消えたシウマイ弁当」関連の記事で、2020年2月14日付の「ダイヤモンド・プリンセスに積み込まれた崎陽軒のシウマイ弁当4000食はどこへ?」と、その続報である2020年2月16日付の「消えたシウマイ弁当4000食どこへ?積み込み当日の昼、英国人男性がふ頭で発見」の2つが、最もよく読まれた記事だった。続報についてはYahoo!ニュース 個人、2020年2月度の「月間MVA(Most Valuable Article)」にも選んでいただいた。読まれた理由の一つは「4000食ものシウマイ弁当、いったいどこへ消えてしまったの?」という疑問を解き明かしたいという好奇心だったかもしれない。この記事は、毎年のように自然災害が発生し、食の支援が頻繁に必要とされる昨今、重要な問題をはらんでいる。それはいったい何だろうか。
船内では1日3食十分に摂ることができていた
筆者は、この2本の取材記事を書くにあたって、当時、ダイヤモンド・プリンセス号に乗船していた、だぁさん(@daxa_tw)に、船内の情報を逐次教えていただいていた。だぁさんは、船内アナウンスの音声や、提供される朝・昼・晩の食事を、ツイッターを通して公開していた。
朝食の一例
昼食の一例
夕食の一例
船内に滞在している人の運動量が制限されていたことを考えると、1日3食の食事は、摂取エネルギーとしては十分と思われる。写真を見ると野菜が少なく見えるが、乗船者に配られたメニューを見ると、昼食にはダイコン・キャベツ・玉ねぎ、夕食にはブロッコリー・茄子・カリフラワーなど、色の濃い緑黄色野菜と色の薄い淡色野菜がバランスよく使われている。加えて、朝食に生の果物やジュースを提供し、体を整える微量栄養素(ビタミンやミネラル)を摂取できるように心がけている、船内の料理人やスタッフの方たちの努力が伝わってくる。
相手の状況を考慮しない食料寄付は善意が迷惑になってしまう
筆者は食品メーカー勤務時代の2004年、新潟中越沖地震の被災者へ自社商品を寄付した経験がある。被災した方から「電気もガスも水道も止まってしまった中で、開けてすぐ食べられ、栄養バランスが整っていて、本当に助かった」と、わざわざお礼の電話をいただいたことは今でも忘れられない。2008年からは、賞味期限は十分あるのに箱つぶれなどで販売できない自社商品のフードバンクへの寄付を開始した。誕生日に起きた2011年の東日本大震災では、NPOのフードバンクのトラックに自社商品を積んでもらい、自分も乗って被災地へ持っていった。支援活動を通し、理不尽な食の廃棄を目の当たりにして退職した後、フードバンクの広報を3年間務める中で、自然災害時や経済的に困窮している人への食の支援の現場を見てきた。
つたない経験から言えることは、相手の状況を考慮しない食の寄付は、たとえ善意でおこなったとしても迷惑になってしまうことがある、ということだ。具体的には、たとえば、すでに復興した被災地で、飲食店やスーパーや個人商店が営業している、その近くで、食料の無償配布や炊き出しやバーベキューなどを不特定多数に行うことや、食料や衛生用品などを段ボール箱に一緒くたにして送りつける、などだ。無償の食料配布や炊き出しは、経済的に困窮している人を対象に行うならともかく、場所や対象者に気を配らないと、せっかく復興している現地の経済活動の邪魔をすることにもなってしまう。また、種類の違う支援物資を同じ段ボール箱に入れてしまうと、被災地の人が仕分け作業をしなければならないし、状況が刻一刻と変わる被災地に少量の物資を送っても、届くころにはもう必要なかったりする。「メサイア(救世主)コンプレックス」の人は、自己肯定感が低く、他人を助けることで自分の存在意義を確認するので、時に相手のためではなく自分のために支援をすることや、相手の状況がどうなのかを見ていない場合もある。寄付したことで自己満足感を得る。
2020年2月のダイヤモンド・プリンセス号の状況は、食べ物が十分ある状態だった。そこへ、消費期限が1日しかないような弁当を4,000食も寄付したら、ただでさえ忙殺されている現場のスタッフの仕事はどうなるか。アジア以外の外国籍の乗船者も多い中で、中華料理の点心である焼売は、日本人以外の人にも喜んで食べていただけるのか。梱包の外装には、消費期限が1日しかないことは書かれていなかったが、その状態で、外国籍のスタッフはこれが何だかわかるのか。さまざまな点まで想像力を働かせれば、せっかく丹精込めて作った4,000食の弁当が無駄になることはなかったと思う。
改善しつつあるものの、緊急時に足枷となる商慣習
緊急時の食料支援で足枷となるのが食品業界の商慣習だ。3分の1ルールといって、賞味期間全体を3分割し、最初の3分の1でメーカーが小売に納品し(納品期限)、次の3分の1で小売が販売を終える(販売期限)決まりなどは、道路が寸断されてコンビニの食料の到着が遅れてしまった西日本豪雨で、大量の食料廃棄を生み出した。食の支援では、このような商慣習を杓子定規に守るのではなく、臨機応変に柔軟に対応したい。
2018年の西日本豪雨や北海道地震など、ここ数年、異常気象が一因となった自然災害が増えている。もはや頻繁すぎて異常気象とは言えないぐらいだ。
自然災害や感染症などによる緊急事態が発生した場合、食料と水は必須だ。そこに多国籍の人がいる場合、どう食料を支援するのが、そこにいる人たちにとって、最も負荷をかけず、助けになるかを考えることは重要だ。コロナ禍に加えてこれだけ自然災害が発生している昨今、いつ何どき、緊急事態が発生し、食料支援が必要になってもおかしくない。2020年7月の豪雨で被災した熊本県では、2021年1月4日現在も、4200人以上が仮設住宅などでの生活を続けている(2021年1月3日付、時事通信)。折しも、菅総理大臣は、1都3県の「緊急事態宣言」を2021年1月4日の週に発出する方向で検討しており、施行は2021年1月9日の午前0時からで調整しているという(2021年1月4日付、Abema Times)。1都3県の人口は3,300万人を超える。食料の入手が平常時とは違った状態に置かれる人が、日本の人口の4分の1以上発生する、ということだ。
結論
食料支援では、せっかくの善意が善意として届かない場合もある。このことを教訓にし、非常時の食料支援では、対象者である当事者のニーズと負担の軽減を最優先にして考え、行動することが大切だと、改めて考える。
参考情報
ダイヤモンド・プリンセスに積み込まれた崎陽軒のシウマイ弁当4000食はどこへ?(井出留美, 2020.2.14)
消えたシウマイ弁当4000食どこへ?積み込み当日の昼、英国人男性がふ頭で発見(井出留美, 2020.2.16)
【Yahoo!ニュース 個人】2020年2月の月間MVAとMVCが決定
「廃棄1時間前に入ってきたパン、ほとんど捨てた」食料が運ばれても西日本豪雨被災地のコンビニが嘆く理由(井出留美, 2018.7.18)