消えたシウマイ弁当4000食どこへ?積み込み当日の昼、英国人男性がふ頭で発見
横浜市のふ頭に停泊中のダイヤモンド・プリンセス。2月12日午前11時までに積み込まれた崎陽軒シウマイ弁当4000食について、ダイヤモンド・プリンセスに積み込まれた崎陽軒のシウマイ弁当4000食はどこへ?という記事を書いた(2020年2月14日13:55)。
8名に取材したが、結局、シウマイ弁当4000食が、船内のどこへ消えたのか、突き止めることはできなかった。
2月12日昼過ぎ、ふ頭にあるのを英国人男性が撮影していた
しかしその記事を書いた後、ダイヤモンド・プリンセスに乗船している「だぁ」さんが、「乗客のDavid AlanさんがFacebook(フェイスブック)に崎陽軒のシウマイ弁当の搬入形態が分かる画像をアップされています」と投稿した(2月14日16:08)。
「David Alan」さんというお名前で検索したが、うまくヒットしなかった。その日の夜、mieko_yさんという方が、該当する方のアカウントを見つけてツイートして下さっていた(2月14日22:40)。
乗船者のお名前は、David Abel(デイビッド・アベル)さん。英国を拠点に、ご夫婦で世界各国を旅行されているようだ。写真家の肩書もお持ちで、公式サイトからのお問い合わせを試みようとしたが、アクセスが制限されており、メールアドレスでアクセスを申し込んだものの、2月16日12時現在、返信が届いていない。おそらく多くのメッセージが来ているだろう。
Facebookのメッセンジャー機能を使って、写真掲載の許諾をいただこうと思ったが、デイビッドさんの動画は膨大なアクセス数だ。毎日、夫婦でアップしている動画は、世界各国で2万2千回以上も再生されており、そこに書き込まれるコメントは、ライブ(生中継)で見ていると、追えないくらい、見る見るうちに増えていく。たとえば2月15日夜の場合、3195件ものコメントが書き込まれた。このような状況でデイビッドさんが全て目を通すのは不可能だ。何かをお願いするような個別対応も、近親者でもないのに、ご負担をおかけするだろう。
デイビッドさんは、動画も写真も全て公開に設定し、誰でもアクセスできるようにしていらっしゃる。写真にもご自身の名前を入れているので、撮影者としてお名前を明記した上で、紹介させて頂くことにした。
デイビッドさんが2020年2月12日の昼12:39に投稿したFacebookには、ふ頭に搬入される、いくつかの食品がアップされている。崎陽軒のシウマイ弁当の写真も撮影されていた。
食品業界で日常的に運搬に使われる、正方形のパレットが使われている。そしてその上に、崎陽軒のシウマイ弁当が茶色い紙で25食ずつ梱包された上で、125パック納品されているようだ。上に割り箸も載っている。
写真を拡大してみると、A4程度の白い紙に、次のような情報が印刷されている。
お客様名:ダイヤモンドプリンセス御中
内訳:1 乗客・乗務員
品物:シウマイ弁当
総本数:3800本
在中数:25本在中
152個口の内 No.
確かに、ふ頭から船に積み込まれたのだろう。
ただ、ここには、消費期限が積み込まれた当日(2020年2月12日)の16時で切れてしまうことが書かれていない。弁当の保存方法として、直射日光や高温多湿を避けた方が望ましいと思われるが、その情報やシールなどもない。側面にあるのかもしれないが、少なくとも写真に写っている部分からはわからない。パッと見た外観だけだと、日本人にすら、何だかわからないかもしれない。
ダイヤモンド・プリンセスには外国籍のスタッフが乗っているが、英語で書かれてもいない。したがって、外国籍の人に対しては、詳しくわかる人が英語で説明を加えなければ、外観からは何が入っているかわからない。
デイビッドさんは、同時に積み込まれた他の食材の写真も撮影されていた。
たとえば、株式会社明治の、ブルガリアヨーグルト。これは、日本語を読めない人でも、外観から、冷蔵保存品だとわかるだろう。
レタスは、段ボール箱は日本語だが、英語で「Lettuce(レタス)」と書かれた紙が貼り付けられている。
じゃがいもやズッキーニも搬入されており、やはり横に英語の説明が貼り付けてあるようだ。
ふ頭で発見された後は「消えたシウマイ」
結局、ふ頭での、パレットに積まれたこの姿までは把握できたが、その先は、船内のことなので、どうなったのかを追跡することは難しい。今のところ、この後は、誰もシウマイ弁当を見たという人がいない。
まさに「消えたシウマイ」。
外国人スタッフに、長期間保存可能な食品かと思われて、パレットに積まれたまま、船の中の食料倉庫にあるのだろうか…。
ダイヤモンド・プリンセスの乗船者の国籍内訳
ダイヤモンド・プリンセスに乗船している乗客の国籍内訳を、台湾のテレビ番組が報じていたことを、何人かの方が画像付きでTwitterで紹介している。公式ではないのと、テレビ番組の著作権があるので引用は控えるが、何人かの情報を総合すると、次のような内訳とのこと。
日本 1285人
香港 470人
米国 425人
カナダ 215人
英国 40人
ロシア 25人
台湾 20人
イスラエル 15人
韓国 14人
ニュージーランド 13人
合計すると2522人。ダイヤモンド・プリンセスの乗客定員は2706人と公式サイトにある。その他、乗組員が1100人。
乗客だけ見ると、半数は日本人だが、残りの半数は外国籍の方々だ。一概に断定できないが、わたしたちが海外に行ったとき、その国の食事が必ずしも口に合うとは限らないように、日本の食事が合わない人もゼロではないと予想される。
3.11の時、異国からの支援食料には困惑したものもあった
2月14日付のシウマイ弁当の記事でも3.11の経験に触れたが、当時、外国からの支援食料で、必ずしも日本で広く好まれないものもあった。
たとえば韓国の、とても辛いカップラーメンは、震災から時を経ても、被災地の倉庫に段ボール箱が積まれていた。
筆者は3.11の震災から何度も被災地へ食料支援に通った。震災から5ヶ月経つ2011年8月、被災地の支援物資の倉庫を訪問した。そこには、外国産の乳児用液体ミルクも放置されていた。パッと見た感じ、洗剤に見えるので、洗剤だと誤解されたのかもしれない。被災地にいる全員が、英語表示のパッケージを読めたわけではなかっただろう。
お湯で溶かすとおかゆになる?という、同じく韓国の、粉末のようなものや、タイ語で書かれた缶詰などもあった。タイ語の缶詰などは、説明書きが添えられていないと、日本人のほとんどには読めない。3.11からしばらく経って、筆者が広報を務めていたフードバンクへ「これ、食べないですけどフードバンクで要りませんか」と、そのような、外国産で日本人になじみがないものや、パッケージの言語が読めない食品などのサンプルが送られてきた。本来、フードバンクが被災地に食品を提供するのに、逆に被災地からフードバンクに食品が寄贈されるという笑えない話もあった。
食文化は国によって違うので、せっかく善意で送られてきたものであっても、善意として受け止められるとは限らない。
筆者が3.11の年(2011年)まで勤めていた食品メーカーは、180カ国で展開するグローバル食品企業だった。当時、海外から支援食料の申し出があったものの、いろいろ動いて断念したのは、先の記事に書いた通りだ。
食料を支援するのは美談として語られるが、食べ物の支援、特に国をまたいだ支援というのは本当に難しいものだと、経験から思う。日本の中では称賛された行為も、立場を変えると評価が違うこともある。
ダイヤモンド・プリンセスの船員の仕事ぶりを称賛するデイビッドさん
デイビッドさんは、2月16日、Facebookにアップした動画で、ダイヤモンド・プリンセスのスタッフの仕事ぶりがいかに素晴らしいかを、次のように、数々の表現で褒め称えていた。
amazing(驚くほど素晴らしい)
incredible(信じられない)
good work(いい仕事)
doing well(よくやっている)
wonderful job (素晴らしい)
デイビッドさんは、「長期間の仕事で疲弊しているだろうから家族の元へ帰してあげたい」とも語っていた。
非常時に多国籍の人を対象とした食料支援はどうあるべきか
シウマイ弁当の件では、当初の報道で、「なんでせっかくの善意が届かないんだ!」と、船や、その他の関係者を責める声が多く聞かれた。
一貫した指揮系統が整っていれば、結果は違っていたかもしれない。でも、われわれ外野は安全地帯からなんとでも好きに言えるだろう。実際、自分がその立場だったら完璧にできたかどうか。
前回の記事を読んだ人から、「コロナウィルスで大騒ぎの時期に、シウマイ弁当なんかのことを調べている場合なのか」という声も聞いた。ダイヤモンド・プリンセスに乗船している「だぁ」さんは、「たかが弁当の次元の問題ではなく、どういう経緯で好意が無駄になったのかを知りたい」とおっしゃっていた。
非常事態に陥り、そこに様々な国籍の人がいて食料などの支援をしなければならない場面は、これからも発生するだろう。熊本地震の後も、現地からは「イスラム教徒の人が食べられるハラルフードの支援食料が全くなくて困っている」という声を聞いた。
2018年の西日本豪雨や北海道地震など、ここ数年、自然災害が増えている。日本だけでなく、地球のどこかで毎年、自然災害は起こっている。今回のコロナウィルスは、自然災害ではないが、非常事態であることに変わりはない。そのような事態が発生したとき、そこに多国籍の人がいる場合、食料は必須だ。食べ物や水がなければ命や健康に関わる。食べ物は、精神的にストレスのかかったときに、楽しみや満足感にもつながる。
どう支援するのが、そこにいる人たちにとって、最も負荷をかけず、助けになるのだろう。それをみんなで考えるきっかけにするために、この記事を書いた。デイビッドさんの切なる思いを日本の人たちにも広く伝えたいと思ったことも理由だ。
食料支援では、善意が善意として届かない場合もある。今回のことを教訓にし、非常時の食料支援では、当事者(今回の場合は乗船者)のニーズと負荷を軽減することを最優先にして考え、行動することが大切だと考える。
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(注:「ダイヤモンド・プリンセス」が正式の表記ですが、ふ頭に積んであった弁当には「ダイヤモンドプリンセス」となかぐろ(・)抜きで表記されていたため、記事中でもそのままの表記にしました)