ダイヤモンド・プリンセスに積み込まれた崎陽軒のシウマイ弁当4000食はどこへ?
乗客が新型コロナウィルスに感染したため、神奈川県横浜市の大黒ふ頭に接岸しているダイヤモンド・プリンセス。この乗客や働く人たちに崎陽軒(きようけん)が寄付したシウマイ弁当4000食が、船に積み込まれたものの、乗客らに配られなかったことがわかった。
崎陽軒のシウマイ弁当は、税込860円。4000食は344万円分となる。
筆者も、この件を伝える記事にオーサーコメントを書いた。
ダイヤモンド・プリンセスに乗船中の「だぁ」さんに伺った。船会社に連絡を取った方によると、「横浜税関での検疫に時間がかかってしまった」とのこと。
真相はどうなのか、取材した。
Q、弁当の検疫はされたのか?
横浜税関は「検疫は担当していない」
横浜税関に電話取材した。メディア担当部署の責任者の方によれば、「船への荷物の積み下ろしの際、確認は行うが、検疫となると、横浜検疫所が担当になる」。
横浜検疫所は「輸入の検疫を担当」
横浜検疫所の食品監視課に電話取材した。「(日本への)輸入の検疫を担当しているので、今回の件は、港湾局さんだと思う」。
横浜市港湾局は「外国へ持っていくもののチェックは税関」
横浜市港湾(こうわん)局の客船事業推進課に電話取材した。
とても丁寧に細かく回答してくださった。
検疫するかどうかは、われわれ港湾局ではなく、検疫所の判断。検疫所が「輸入の検疫のみ行っている」とおっしゃったのだったら、おそらく「(シウマイ弁当は)国内のものだから、検疫する(対象の)ものではない」という判断なのだろう。
港湾局では、危険物のチェックはしているが、虫が入っているかどうかや、疫病に関することは、管轄外。
今回の件は、外国船なので、一般論で言うと、外国(船)へ持っていくもののチェックは税関が担当となる。
今回、崎陽軒さんからシウマイ弁当の寄付に関する連絡を受けたので、「船へ積み込みを行う代理店さんに相談してはどうですか」と、代理店をご紹介した。
三者の話を総合すると「確認はしたが検疫はしていない」
以上、三者の話を総合すると、「船に積む荷物(弁当)の確認は積み込み時に行ったが、検疫はしていない」ということになる。ダイヤモンド・プリンセスは外国船なので、本来、外国に持っていくものは検疫を通すのだが、確認のみ行い、検疫はしなかったとのことになる。
Q、船が沖に出ていて弁当の積み込みができなかった?
前出の乗船中のだぁさんによれば、「船会社に連絡をとった方によれば、船が沖に出ている間に期限が切れてしまったため、弁当の積み込みができなかった」とのこと。
しかし、だぁさんは、「2月12日は、船は沖に出ていない」と指摘している。
横浜市港湾局の客船事業推進課でも同様で、「2月12日は沖には出ていない」との回答だった。
崎陽軒の横浜第一営業部外商課に連絡し、船にシウマイ弁当を積み込みした代理店の社名を伺ったが、教えていただくことがかなわなかったため、別ルートで連絡先を伺った。その代理店によれば、「2月12日の午前11時までに積み込んだ」との回答だった。
三者の情報を総合すると、2月12日午前11時までには弁当は船に積み込みができていて、「船が沖に出ていて弁当の積み込みが期限内にできなかった」というのは事実に反することになる。
代理店の方は「ツイッターなどで風評被害を受けている」とのことだった。
Q 同じ食品のヤクルトはなぜ乗客に届いているのか?
今回、乳酸菌飲料のヤクルトは、乗船者に届いており、ツイッターでは乗客が公開している食事の写真にたびたび登場している。
シウマイ弁当は、乗客の食卓まで届けられなかったが、なぜヤクルトは、乗客の食卓に届けられているのだろうか。
ヤクルト本社の広報ご担当者に電話取材した。
とても詳しく、丁寧に教えて頂いた。
船の運営会社と、もともと面識があった。そこで、今回、ご提供のお話をし、それが受け入れられたという流れ。
基本的にはクルーの方々におまかせしている。
提供しているのは、ヤクルト400LTという商品。
国外で提供する商品についてはハラル認証を受けているが、ヤクルト400LTについては、ハラル認証は受けていない。
アレルギー表示もしており、アレルゲンは乳と大豆のみ。
崎陽軒と違う点は、船舶運営会社に直接、依頼をされていることだろうか。しかも、その会社とは、もともと関係性が構築されていたので、コミュニケーションもスムーズだったと予想される。
広報担当者にお伺いした後、ヤクルト400LTの賞味期間の詳細について伺うため、ヤクルトお客様相談室にお問い合わせした。
ヤクルト400LTは、製造から17日間が賞味期限です。製造してから工場出荷するまで、だいたい2日から3日かかりますので、およそ2週間が賞味期限です。
2月12日の午前11時ごろに船に積み込まれたシウマイ弁当の消費期限は「2月12日16時」だった。ヤクルトは、シウマイ弁当に比べて、かなり余裕のある賞味期限があったことになる。
ここでポイントなのは、シウマイ弁当は、日持ちが5日以内で劣化のスピードがはやいものにつけられる「消費期限」表示であり、一方のヤクルトは、美味しさの目安である「賞味期限」表示だ。印字してある日付を過ぎたとしても、「消費期限」と違って、即座に飲食できなくなるわけではない。
Q 船に積み込まれたシウマイ弁当はどこへ?
各所への取材から、2月12日の午前11時ごろまでには、船に弁当は積み込まれたという結論になった。
では、船に積み込まれたシウマイ弁当4000食は、どこへ行ったのだろう。
最初にこの件を報じた日刊スポーツは、2月13日21:38付でシウマイはどこへ、船内担当者も「食べたかった」という記事を書いている。
船には積み込まれた。だが、船の担当者が把握していないとのこと。
この記事の情報だけでなく、できれば船の担当者に直接、確認したいところだ。
前述の代理店に電話取材をした際、担当の女性に「この件について、もうお話しすることはないので、日本支社に・・・船に直接お聞き頂いていいですか?」と言われた。「船の番号を教えていただいてもいいでしょうか?」と伺ったところ、「わかってても教えませんよ、そんなこと」との回答だった。たくさんの問い合わせや憶測のコメントで、きっと疲弊されているのだろう。「マスコミは無知。代理店のこと、船のこと、もっと勉強してから聞いてください」とのこと。申し訳ございません。
代理店に言われた通り、船の会社に連絡すると・・・
ダイヤモンド・プリンセスを管理する会社の公式サイトには、電話番号が掲載されていなかったため、電話取材は諦めていた。
が、改めて、いろいろ調べてみると、電話番号がわかった。
船の会社の、日本のメディア対応をしている方に電話取材した。
崎陽軒の件は、我々のオフィスで動いていた(関わっていた)ものではないので、こちらではわからない。
(どなたに伺えばよいですか?と筆者が聞いたところ)それもわからない。
弁当が積み込まれたかどうかの情報も、我々のところにはない。
(代理店に聞いた積み込み時間の回答を伝えたところ)初めて聞いた。積み込んだ時間の件もわかっていない状況だったので・・・。
皆様からよくお問い合わせをいただくのだが、情報がなく、お問い合わせいただいても、回答ができない。申し訳ない。
以上、代理店にご指示を受けた通りに船の会社に連絡したのだが、「関わっていなかったのでわからない」という回答だった。
さて、船内の方も含めて8人の方に電話取材をさせて頂いた。それでも、4000食の弁当の行方がわからない。あと、どなたに聞けばわかるのだろう・・・。
東日本大震災でも食品ロスは発生していた
筆者は、東日本大震災の時、勤めていた食品メーカーの広報責任者として、被災地への食料支援を担当した。2011年3月には、農林水産省の助けを得て、支援食料を運ぶ先を見出した。東京都福生(ふっさ)市の米軍横田基地へ、10トントラック2台で、22万800食を運び、その後、ヘリコプターで、岩手県花巻市と宮城県仙台市へ運んでもらった。
2011年4月に「宮城県の避難所で栄養不足発生」という報道を知り、今度は自分もフードバンクのトラックに乗り、支援食料23万9700食を積んでもらい、宮城県石巻市まで行った。当時、食料の倉庫となっていた、石巻専修大学のキャンパスや、石巻運動公園など、土がぬかるむ中、届けた。
そのような食料支援の中で、他の会社が支援した食料が、必ずしも被災者の元に届いていない場面を見た。
消費期限が短いため、届くまでにだめになってしまったもの。
避難所の人数にわずかながら足らないため「平等に配れない」という理由で放置されてだめになったもの。
市町村合併で市の中心地から端までが遠く、市も被災して混乱し、交通手段も満足にないため、要請があっても隅々まで運べないもの。
さまざまな理由で、食べ物は食品ロスとしてだめになっていった。
その経験から、食品ロスを減らすための活動に携わるようになった。
善意が必ずしも善意として届くわけではない
「善意が必ずしも善意として届くわけではない」と言うと、「せっかくの善意なのに!」と怒りを買うかもしれない。
だが、震災の食料支援に限って言えば、善意は必ずしも善意として被災地に届いていなかった。このことは、食料支援に携わり、被災地に入った方なら、ある程度、目にしているはずだ。
震災から日が経ち、すでに復興しているところに、たくさんの食料や飲料を持ち込み、無料の食事会を企画していたケースがあった。そこに食べ物がないなら別だが、被災地の商店などが復興して商売しているすぐ近くに食料品を無償で持っていってしまうと、地元の商売を邪魔してしまうことになる。このようなケースは「自己満足の支援」と言わざるを得ない。
今回は、船内にいる方が多国籍であり、宗教上の問題やアレルギーのことも、食料配布の上では懸案事項かもしれない。消費期限の短い食品を、限られた時間(11時の納品から昼食の12時まで1時間)で4,000食も配りきる、というのは、想像しただけで圧倒される仕事量だ。混乱を極める中、日常業務だけでも精一杯で、船内の方も疲弊しておられると推察する。
憶測で責めないで
この記事を書こうと思ったのは、ソーシャルメディア上で、4000食のシウマイ弁当が届かなかったことで、事実を確認せず、憶測だけで関係者を責める声が多数見られたからだ。
食べ物も物も、提供したら、それが自動的に瞬時に配られるわけがない。4000食を提供したら、それを配る人も、配る人の労力も時間も必要だ。日常の仕事に加えて、追加の業務が生じる。それを想像しないで、関係者を責める声を聞くのはせつない。
今回、明確にできなかった、「何が要因で船の担当者に弁当の寄付が伝わらなかったのか」は、今後のために知ることができればありがたい。食べ物が届くまでには様々な方の手をわたっていく。それを、一貫して確認する人がいればよいのだろうが、そういうわけにもいかないだろう。
今回のことを今後に活かし、食べ物が無駄になることが今より少なくなればと願っている。なにしろ、「643万トン(東京都民1300万人の年間食事量に相当)」の食品が、日本では食品ロスとして、毎年、捨てられているのだから。