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大阪府が訪日外客のみを狙い撃ちした「徴収金」を検討してるが本当に大丈夫か?

木曽崇国際カジノ研究所・所長

さて、連日のように報じられるオーバーツーリズムですが、以下のような記事が産経新聞によって報じられました。以下引用。

「救急車使えない」観光客搬送で地元住民困惑…観光名所で模索されるオーバーツーリズム対策
https://news.yahoo.co.jp/articles/4aa1dd9b9c6e46ffe6d2ee9bc3f7977c55eac167?source=sns&dv=pc&mid=other&date=20240516&ctg=dom&bt=tw_up
大阪府でも、インバウンド(訪日外国人客)を対象にした「徴収金」制度の創設を検討。国籍を問わず1泊7千円以上の宿泊客に課税している最大300円の宿泊税に上乗せし観光公害対策などに活用する方向で、導入されれば全国初となる。

当初は来年4月の2025年大阪・関西万博開幕に合わせた導入も視野に入れていたが、先月、吉村洋文知事と意見交換した博覧会国際事務局(BIE)のケルケンツェス事務局長が、万博閉幕後の導入を要望。検討会議では、有識者から「外国人への不平等な扱いは許されていない」といった意見も出た。

大阪府が、域内に宿泊する訪日外客に対して追徴金の賦課を検討しているという内容。大阪の場合は、既に訪日外客に関わらず域内すべての宿泊客に課す宿泊税を制度化していますから、そこに外国人に限定をした追徴金を課す検討の様です。

ここ連日、この種の施策に対して疑義を呈する記事を書き続けている私でありますが、大阪府の皆さんには改めて以下を問いたいです。大阪の皆さんはひょっとしたらもう忘れてしまっているかもしれませんが、我が国ではホンの数年前まで観光産業にぺんぺん草も生えない様な大惨事が発生しました、我々はそれを「コロナ禍」って呼んでいたんですけどね。

コロナ禍に限らず、世の中の観光需要というのは「ミズモノ」です。例えば大きな震災が発生し世間に自粛ムードが広がれば観光産業は打撃を受けますし、2013年に発生した尖閣諸島問題のように外交上の問題が発生すると特定カテゴリの観光客が一気にすっ飛んだりします。何なら今でこそ円安で日本観光フィーバーとなっていますが、これから為替が一気に円高へと降り戻した場合、訪日外国人客は引いて行きます。

今でこそ「喉元過ぎれば何とやら」でオーバーツーリズムがどうだこうだと言っていますが、例えば数年前に我々観光業界が経験したように、何らかの外的要因によってまた「冬の時代」が発生した場合、その時には寧ろ観光需要そのものを改めて再喚起しなければいけない状況になってしまうのがこの産業の特徴。今、大阪府が計画している訪日外国人客に対する追徴金は、そのような外的な環境の変化に対して動的に対処できるような制度になっていますでしょうか?

大阪府は訪日外国人からの追徴金を観光公害対策に充てると主張しています。しかし、外的環境が変わり大阪のインバウンド観光が激減してしまった場合、「観光公害対策が必要」と主張している立法事実自体が不存在となります。その際には当然、この立法(条例制定)で実現された訪日外客に対する追徴金も停止されなければなりませんが、その様な前提で制度導入を検討していますか?

私自身は、そのような市場の変化に応じた動的な対応を大阪府のみならず、全ての行政機関が出来るとは思っていません。「宿泊税ではなく地元割の導入を」と私が唱え続けているのは、オーバーツーリズム、すなわち観光需要の行きすぎた超過は価格による調整で抑制されるべきである。そして、その様な市場による需要調整は行政による徴税と違い、あらゆる外的要因に動的に対応できるからに他なりません。ぜひ詳細に関しては、以下の記事も合わせてご覧頂ければ幸いです。

観光税よりも「観光二重価格」を採用すべきこれだけの理由

https://twitter.com/takashikiso/status/1787241395138461905

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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