東アジアのコロナ感染、iPhoneやEVの部品に影響か「電子産業のコメ」供給不足リスク
米調査会社のIDCによると、2021年の世界スマートフォン出荷台数は前年比で7.4%増加する見通し。この成長率は、新型コロナの影響で販売が落ち込んだ20年の反動によるものだが、コロナ前の19年と比較しても若干の成長が見込めるという。
米・中・欧スマホ市場は依然低迷
サプライチェーン(供給網)の混乱は収まったわけではない。だが、過去数四半期のデータを見ると、市場は好調に推移しているという。
IDCが予測するOS(基本ソフト)別出荷台数の前年比伸び率は、米アップルの「iOS」が13.8%、米グーグルの「Android」が6.2%。
依然、中国や米国、西欧といった巨大市場は不振で、19年の水準を下回る見通し。これに対しインドや日本、中東、アフリカは回復しており、21年の世界市場をけん引するとIDCはみている。
スマホやEVに不可欠、積層セラミックコンデンサー
一方、米ウォール・ストリート・ジャーナルは、東アジアにおける新型コロナの感染拡大がスマートフォンや電気自動車(EV)に使用される積層セラミックコンデンサー(MLCC)の供給不安を高めていると報じている。
MLCCは電気を一時的に蓄えたり放出したりすることで、ノイズを除去し半導体回路内の電流を一定に保つ基幹部品。MLCC最大手の村田製作所は98人のクラスター(感染者集団)が発生したことを受け、福井県の主力工場の操業を8月下旬に停止した(発表資料)。同じく大手の太陽誘電も8月に従業員の感染を受けてマレーシア工場で生産を一部停止したと明らかにした。
「世界は今年、これまでほとんど知られていなかった部品がサプライチェーンに打撃を与えたことを目の当たりにした」と、ウォール・ストリート・ジャーナルは報じている。半導体不足の影響で工場の操業停止を余儀なくされたグローバルメーカーは販売機会を逸したという。
「電子産業のコメ」、スマホに1000個超、EVに1万個超
同紙によると、MLCCを巡る状況は半導体のそれとは若干異なる。まず、MLCCには幅広い供給基板があるという。また、MLCCの需要は半導体の供給量に連動する。今の半導体品薄状態に伴い、MLCCの需要は抑制されているという。
ただ、これが不足すると、サプライチェーンは大混乱を引き起こす。MLCCは、1個の大きさが米粒よりも小さく、スマートフォン「iPhone」やゲーム機「プレイステーション」、最先端自動車に不可欠な部品。「電子産業のコメ」とも呼ばれている。
初期のスマートフォンに使われていたMLCCの数は数百個程度だった。現在の高速通信規格「5G」対応スマートフォンには1000個以上が使われているという。
自動車も同様にMLCCの搭載数が増えている。村田製作所によると、ADAS(先進運転支援システム)や自動運転など自動車の高機能化によって、1台当たりに搭載される半導体の数が増加している。これに伴いそれらを正しく作動させるためのMLCCも増えている。電装化が進むEVにはガソリン車の2倍以上に当たる1万個以上が搭載されているという。
- (このコラムは「JBpress Digital Innovation Review」2021年9月1日号に掲載された記事を基にその後の最新情報を加えて再編集したものです)