中国から送り付けられる「謎の種」の正体 忍び寄る「ブラッシング詐欺」
海外から「謎の種」が入った郵便物が米国の消費者に送り付けられる例が続出したことを受け、米アマゾン・ドット・コムが外国の業者による米国向け植物の販売を禁止したと、米ウォール・ストリート・ジャーナルが報じている。
「謎の種」、米国や日本、カナダ、英国で続出
アマゾンは外国の出品者に対し、植物や種子の米国への輸出販売を禁じると通知した。これに合わせて出品規約も改訂した。
この数カ月間、数万人の米国人が、注文してもいない種子を郵便で受け取ったという。これらの郵便物のほとんどは中国の消印が押されており、宝飾品や玩具といった品名が書かれていた。同様の例はカナダや英国でも起きているという。
この不審な種子入り郵便物は日本にも届けられているようだ。農林水産省植物防疫所は「注文をしていないのに海外から種子が郵便などで送られてくる事例がある」とし、「庭やプランターなどに植えないように」と注意を促している。
今回のアマゾンの規約改訂は、米農務省や米国土安全保障省の税関・国境警備局、米郵政公社、米各州の農務当局が調査を進める中で実施されたという。
農務省はこれまで2万件近くの報告を受けた。約9000個の郵便物を回収、約2500袋を調査し、有毒な雑草の種子や害虫などを特定した。当局はこうした外来生物や、植物につく病気が米国の農業に害を及ぼすと懸念しているという。
ブラッシング詐欺とは?
なぜ、何者かが「謎の種」を送り付けているのか、その目的はまだよく分かっていない。しかしEC(電子商取引)上の「ブラッシング詐欺」との見方が有力だとウォール・ストリート・ジャーナルは報じている。
業者は勝手に物品を送り付けて偽の販売実績を上げる。送付後は受取人に成り済ましてサイトで高評価をつける。こうすることで自社の露出を増やし、信用度を高めるのだという。ウォール・ストリート・ジャーナルの別の記事によると、具体的な手口は次のようなものだ。
(1)出品者は「ブラッシャー」と呼ばれる業者に商品の代金と報酬を渡す
(2)ブラッシャーが出品者の取扱商品をECサイトで購入する(宝飾品や玩具、家電、家具などのさまざまな商品)
(3)出品者は、ブラッシャーに指定された宛先に、それらの商品に代えて「種子」を発送(海外の見ず知らずの人に送る)
(4)ブラッシャーがECサイトで出品者に高評価をつける
つまり、アマゾンなどのEC企業に対し、偽の販売・評価実績を示し、サイト上で優位に表示されるように仕向けるのが目的だという。
悪質な出品者にとって、送付するものはできるだけ安価で送料がかからないものがよい。受け取った側も企業からの販促品と思い、大ごとにはしない。種子のような物品が最適なのだという。
出品者とブラッシャーはECサイトの詐欺防止の仕組みを回避する巧妙な手口を使うという。例えば、ブラッシャーはネットで集めた個人情報を使ってアマゾンなどで偽アカウントを作成するが、このとき宛先は必ず実在の住所にする。
理由はEC企業が宅配業者からの配達完了通知を通じ、実際に商品が届けられたかどうかを確認しているからだ。
つまり、ジュエリーなどの商品の売買取引があたかも存在しており、それが完了したかのように見せかけるには、何らかの物品を誰かに送る必要がある。また、ECサイトの評価は商品の購入者しかつけることができない。
アマゾンの対策、根本的問題解決にならない
今回、アマゾンが植物の取引に制限を設けたことは、生態系や農業に及ぼす被害の防止に一定の効果があるのかもしれない。こちらは、前述した各国の農務・動植物検疫当局が注目し始め、監視を強めている。
その一方で、アマゾンの対策はブラッシング詐欺の根本的な対策にはなっていない。悪質な出品者やブラッシャーにとって送り付けるものは安価で軽量なものであれば何でもよいからだ。ここは米連邦取引委員会(FTC)や日本の消費者庁のような機関の出番なのかもしれない。
偽の評価を表示したり、架空の販売実績を示したりすることは、アマゾンのみならず消費者をも欺く行為であり、大きな問題だとウォール・ストリート・ジャーナルは指摘している。
- (このコラムは「JBpress」2020年9月9日号に掲載された記事を基にその後の最新情報を加えて再編集したものです)