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生きている姿を知る牛を食べるという食の価値と「いただきます」の意味を体感すること

松浦達也編集者、ライター、フードアクティビスト

たぶんこんな機会は二度とないと思います。自分のニックネームがついた生体としても何度も会った牛を全5回にわたって、しかも日が進むにつれて熟成の加減が少しずつ違う肉を、すべて違うシェフが調理する。そんなお肉を食べる機会なんていままでありませんでしたし、これから先もないと思います。

果たして「自分の名前がついた牛の肉を食べ続ける」と味覚は、心はどう動くのか。ジビーフ「レラ」を食べるレポートの最終回です。

帯広のフレンチ「マリヨンヌ」から始まり、中華を経て3夜連続の3回目、「コルツ」(函館)の会から9日後(と畜後44日)に行われた第4回の「メログラーノ」(東京・広尾)と10日後(と畜後45日)に行われた「メッシタ・パーネ・エ・ヴィーノ」(京都・四条烏丸)での第5回でどんな味わいのメニューが提供されて、どんな人々がどういう心情で食べたかを記しておきます。

第4回「メログラーノ」(東京・広尾)編

第4回のメログラーノは今回唯一の東京開催でした。集まったのはこれまでにジビーフを一番食べてきたであろう、東京の食関連の方々。マッキー牧元さん、小石原はるかさん、佐藤貴子さん、小寺慶子さんなどメディアまわりの方々のほか、普段から扱っているシェフの宮木康彦さん(モンド)、奥野義幸さん(ブリアンツァ)、北村和人さん(雲蓉(ユンロン))、藤田承紀さんに料理家の山脇りこさんに……と数え上げたらきりがありません。もちろんサカエヤの新保吉伸さんも、主宰としてご参加され、ぶっちゃけ客席だけでもお金が取れそうなメンバーばかりが大集結。

開催前には「先週はまだ肉としては仕上がり切っていなかった。(熟成加減としては)今日がベスト。あとはシェフのせい」と笑いながらシェフにプレッシャーをかける新保さんを見て、「おそろしい」と思ったのは僕だけではなかったはずです(笑)。

そしてこの日はレラと一緒にと畜されたアンガスのジビーフ「カエ」との肉食材コラボディナー。ちなみに「カエ」はフードプロデューサー(という肩書きでよいのかはわかりませんが)寺脇加恵さんの名前にちなんでいます。

さて第4回の東京ステージの品書きはこちら。

まずは一皿目「ウデ肉の塩漬け スパイスとハーブマリネ」はこちら。

ざっくり言うと牛肉生ハムのブレザオラですが、硬いはずのウデ肉が塩漬けにするとねっとりとやわらかく口内にまとわりつきます。確かにジャージーのレラは人懐っこく、気兼ねなく触らせてくれる。サービスもしてくれるけど口内にぬめぬめと吸い付くようないやらしさ。ちょっとレラ、いつからこんな子に! と叱りたい気持ちになるおいしさです。

ねっとりとキメ細かくやわらかな凝縮感。この一週間で肉質が大きく変化しています。繊維がほどけ、その繊維自体もやわらかい。北海道で食べたレラは生体の余韻としての力強い弾力が残っていましたが、この日のレラはただただおいしい。あらためてレラは肉になったんだなあ……。そう思わせられる一皿目でした。

2皿目は、センマイのドライトマト和えとハツのローストの合盛りです。

驚いたことに、センマイは9日前の中華の会より明らかに食感が柔らかい。もっとも先週はカットが大きく、今日はカットが細い。新保さんは「内蔵は同じプロトン凍結でまったく同じ厚さ、同じ状態のものを送っている」というので食感の違いは調理の違い。その場にいた北村シェフと後藤シェフに調理法の違いを聞くと……。

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編集者、ライター、フードアクティビスト

東京都武蔵野市生まれ。食専門誌から新聞、雑誌、Webなどで「調理の仕組みと科学」「大衆食文化」「食から見た地方論/メディア論」などをテーマに広く執筆・編集業務に携わる。テレビ、ラジオで食トレンドやニュースの解説なども。新刊は『教養としての「焼肉」大全』(扶桑社)。他『大人の肉ドリル』『新しい卵ドリル』(マガジンハウス)ほか。共著のレストラン年鑑『東京最高のレストラン』(ぴあ)審査員、『マンガ大賞』の選考員もつとめる。経営者や政治家、アーティストなど多様な分野のコンテンツを手がけ、近年は「生産者と消費者の分断」、「高齢者の食事情」などにも関心を向ける。日本BBQ協会公認BBQ上級インストラクター

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