食べる仕事から見た「外食に何が起きている?」 「個」と「地」の味の境界を行き交う今月の16店
先月の原稿では「個人店と(チェーン店に象徴される)大店」について考察しつつ、期間内に訪れた飲食店について書かせてもらいました。詳細は先月の「食べる仕事から見た【外食】に何が起きている? 個人店と大店の離散集合に見る今月の14店(画像32点)」を御覧いただきつつ、今回は「個」と「地」について考察をしてみます。ちょうど先月、知人の外川ゆいさんがこんな記事を「食べログマガジン」に書かれていました。
モダンフレンチの巨匠、ヤニック・アレノ氏が手掛ける寿司店が大阪に誕生!
https://magazine.tabelog.com/articles/422440
今年の8月、大阪・北新地近くの堂島に開業したフォーシーズンズホテル大阪内に10月に開業した「鮨 ラビス 大阪 ヤニック・アレノ(Sushi L’Abysse Osaka Yannick Alléno)」。フランスの三つ星シェフが和食の料理人とともに手掛ける、鮨料理レストランです。僕もこの原稿を書く数日前に伺ってきました。
特徴的はなんと言っても、鮨店なのにフランス人のシェフがディレクションをし、日本人の調理人が現場で提供する鮨料理に落とし込むというスタイルでしょう。
コースの仕立ては「エモーション」と名付けられた和洋の素材と手法を再構築した4品の前菜に始まり、刺身を経てにぎり鮨へ。そして最後に再び和洋の素材と手法をニュートラルに合わせたデザート4品へと展開されていきます。
ペアリング提案には、元ドンペリニヨンの醸造最高責任者、リシャール・ジェフロワが手掛ける日本酒「IWA5」も含まれています。ここで、今年のヴィンテージを初めていただきましたが、華やかかつ、渋みある奥行きはもはや完全にIWA5の味わいとして確立された感があり……というのは余談なので、また別の機会に取っておきましょう。
「鮨 ラビス 大阪 ヤニック・アレノ(Sushi L’Abysse Osaka Yannick Alléno)」で面白かったのは、前菜の「エモーション」はヤニック氏主導のディレクションで、つなぎの刺身と握りは料理長の安田至さんが主体となって構築し、またデザートでヤニック氏のディレクションが色濃くなるというたてつけです。
4品の前菜は主素材がフレンチで始まり、徐々に素材や手法に和が香っていくという形で展開。鮨とのつなぎの刺身で一気に和に振りつつ、にぎり鮨はあくまで鮨としての軸足は揺るがせにしない。そして最後のデザートは前菜と同様に和素材も活かしつつ、小菓子を含めた4品を提供し、フランス料理の骨格で終幕へ、という流れです。
大阪万博に向けて国内外から観光客が集まる大阪は、個としての飲食店が地域色を打ち出し、地域と共存していくかを判断する、ひとつのロールモデルと言えるでしょう。地域の伝統食をそのまま打ち出すか、アップデートするか、新しい型として提案するのか。そこにシェフの感性はどこまで前面に出すべきか……。
「鮨 ラビス 大阪 ヤニック・アレノ(Sushi L’Abysse Osaka Yannick Alléno)」は、今後日本の飲食店がどのような道に進むのか、その水先案内人になる鮨店なのかもしれません。
以下、計16店について約4000文字の原稿と25点の画像が含まれています。
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