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ユニクロはまだ自らを知らない ユニクロとジーユーが約束するもの

遠藤司皇學館大学特別招聘教授 SPEC&Company パートナー
(写真:アフロ)

 18日、東洋経済オンラインに「ユニクロ顔負け、急成長するジーユーの秘訣」という記事が掲載された。GUはユニクロを展開する、ファーストリテイリングの子会社であるが、いまやユニクロに次ぐ第二のブランドまで成長したといえよう。

 GUの目指すものは「いま欲しいスタイルを、驚きの価格で」である。旬のファッションを、より気軽に楽しんでもらおうというのが、GUのコンセプトである。よって、ユニクロよりも価格が安い。GUとしては、同ブランドを「すべての人に届けたい」ようだが、現状のところGUの主なターゲット顧客は、10代から20代の若者である。ユニクロはファミリー全般が顧客であるから、そのあたりに差異がある。

 ところで、今後の展開として、本当にGUが「すべての人」に届けることを目指すのであれば、ユニクロと顧客の「層」がかち合うことになる。そのためもあってだろう、ユニクロは商品の値上げを試みた。GUよりも高級志向のユニクロとしての立場を明確にしたかったのである。結果はみてのとおりである。GUが好調なのに対して、ユニクロは振るわず、ファーストリテイリング全体としては減益となった。売上が上がっているのは、海外での出店を拡大したためである。しかし、GUとユニクロはそもそもコンセプトが異なるのだから、値上げなどは行う必要がなかった。

 ユニクロが行うべきは、高価格化ではない。柳井会長は同記事のなかで「顧客は生活防衛(意識)になっていて、値上げをすべき時期ではなかった」と述べているが、時期は関係ない。少なくともユニクロは、商品全般の値上げを行ってはならないのである。ユニクロは、自らを知らなければならない。

ブランドの約束

 ブランドには「ブランドの約束」というものがある。ブランドの約束とは、あるブランドが顧客に保証する機能や便益、あるいは価値のことである。この約束から外れないことが、ブランドを保つためには必要である。

 実は、ブランドの約束するところを決めるのは消費者である。企業ではない。ゆえに企業は、ブランドが消費者にどのように受け入れられているのかを察する必要がある。すなわち、ユニクロの価値は何であるか、である。

 恋愛を考えれば分かりやすい。いくらユニクロが「私の魅力はこれですよ」と消費者に言っても、相手が「それはキャラに合わない」と感じるのであれば、それは受け入れられない。消費者に「あなたの魅力はこれですね」と言われたものが、ブランドとなる。そうしたら、異性と付き合える。

 非常に荒っぽくいえば、ユニクロは顧客から「コスパの高い商品を届けてくれるブランド」として受け入れられている。安さや高さではない。コスパである。それを実現したのが、企画・デザイン、調達と生産、販売といった全プロセスを一貫して行う、SPAというビジネスモデルである。これをグローバルに展開しているから、コスパが抑えられる。それゆえ切り捨てたのは、サイジングに合わない顧客層である。筆者にはユニクロのシャツは、丈と身幅が合わないため、着ることができない。戦略とは選択と集中なのである。

 単純にユニクロを値上げしようというのは、消費者にとって「キャラに合わない」行為なのである。消費者の目からは、約束を破ったように映る。そうすると顧客はそのブランドから離れていく。自身の求めるものを実現することを約束してくれるブランドを求めて、どこかにいってしまうのである。

ユニクロはどうしたらよいのか

 ブランディングの第一のステップは、「約束することは何か」を定めることである。次に「そのために提供するものは何か」を明確にし、それを「顧客の求めるものと結びつける」ことが必要である。よって商品は、ブランドメッセージを内に含んでいる必要がある。商品は、メッセージが具現化したものなのである。展開しているのは商品ではなく、メッセージである。

 すでにユニクロは、ブランドの約束が定着している。それゆえに安定的に売れてきた。これはよいことである。いまになって壊してはならない。ゆえにユニクロは、まずもって既定路線を守ることを第一に置かなければならない。変化は一部の変更によって、全体においては徐々になされる。

 戦略は二つある。一つは、ユニクロの、ユニクロたる上位ブランドを作ることである。すなわち、新たな約束を定めることである。それが何なのかは筆者が決めることではない。ユニクロが「実現したいこと」、「顧客に約束したいこと」が、それを定める。その上で、現状のユニクロブランドに併合するかどうかは後で決めたらよい。うまくいくかどうかは、その約束が顧客に認められるかどうかである。試行錯誤されたい。

 かつての「+J」がそれに近かった。ジルサンダーとのコラボには驚いたものである。最初の戦略としては、それは正解であった。そしてたしかに、このラインは売れた。ジルの名声を用いて、一時的にではあったが、新たな顧客にメッセージを伝えることができたのである。

 惜しむらくは、出店戦略の誤りである。商品がメッセージであれば、店舗はメディアである。メッセージを届けるためには、最適なメディアを選択しなければならない。したがって、現在のユニクロのメッセージを伝えるための店舗では、展開してはいけない。ユニクロの店舗の端っこで「+J」を売るなどということは、してはならないのである。やるなら別の店舗をつくるか、あるいはセレクトショップなどで販売しなければならない。そうすれば、単なるコラボ商品から、安定してメッセージを伝えられるブランドへと成長するだろう。

 同一のブランドで行うための、もう一つの戦略がある。すなわち、規定ラインの商品価格帯とは異なる、もう一段上の価格帯の商品ラインを作ることである。すなわち、ブランドの約束であるコスパの高いもの、既存ラインよりももっと高い性能、価値をもつものを、それに見合うコストで生産し、展開することである。それはユニクロの約束と合致する。したがって、ここで考えるべきは価格帯の統一ではなく、価格帯の拡充である。消費者にわかるような形で、それを行わなければならないのである。

 2017年8月期、ユニクロは過去最高益を更新する見通しだ。しかし、顧客を裏切る戦略では、それは達成することができない。ブランドは、ブレてはならないのである。ブランドは、継続させることでブランドになる。約束を守り続けることでブランドになるのである。ユニクロの今後の展開に注目したい。

皇學館大学特別招聘教授 SPEC&Company パートナー

1981年、山梨県生まれ。MITテクノロジーレビューのアンバサダー歴任。富士ゼロックス、ガートナー、皇學館大学准教授、経営コンサル会社の執行役員を経て、現在。複数の団体の理事や役員等を務めつつ、実践的な経営手法の開発に勤しむ。また、複数回に渡り政府機関等に政策提言を実施。主な専門は事業創造、経営思想。著書に『正統のドラッカー イノベーションと保守主義』『正統のドラッカー 古来の自由とマネジメント』『創造力はこうやって鍛える』『ビビリ改善ハンドブック』『「日本的経営」の誤解』など。同志社大学大学院法学研究科博士前期課程修了。

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