「台風並み」という言葉について
むかし、冬の猛烈に発達した低気圧に「冬台風」という言い方をしたら、小倉義光先生から、台風と低気圧は違うものだから、その形容の仕方はおかしいとの、ご丁寧な手紙をいただきました。
たしかにその通りで、気象を学んだものとしては、むしろ低気圧と台風の違いを正確に発信しなければなりません。その意味では、「台風並み」などという言い方に違和感を持つべきでしょう。
しかし、ことはそう単純ではありません。
フィリピンを襲った台風30号 伝わらなかった「高潮」の危険性
いまから4年ほど前の2013年11月、フィリピンに台風30号(海燕、HAIYAN)が上陸しました。
台風30号はフィリピン中部のレイテ島、セブ島、パナイ島を横断し、死者6,201人、行方不明者1,785人という大災害を引き起こしました。
被害の大部分は暴風と高潮によるものです。現地調査によると、高潮は沿岸部で5m〜6mに達し、津波のように段波状になって、沿岸部を襲ったものと考えられています。
当時、フィリピンの気象キャスターに直接聞いた話ですが、レイテ島をはじめとするフィリピン中部は台風の接近・上陸が少なく、高潮という気象現象があまり知られていませんでした。
高潮を示す地元の言葉もなかったため、その危険性を伝えるにあたり、現地の防災関係者は「storm surge(ストームサージ)」という言い方で注意を呼びかけました。
ところが、現地では多くの人には何が起こるのか分からなかったのです。
もし、この時、ストームサージという言葉ではなく「ツナミ」という言葉で注意喚起していたら、多くの人はスマトラ島沖地震で津波の恐ろしさを知っていたので、避難しただろうと言われています。
気象学的には、高潮を津波と言い換えるのは抵抗がありますが、それでも防災の事を考えたら、躊躇なく「ツナミがくる」と言ったほうがいいし、言うべきだと私は思います。
「台風並み」にもどりますが、マスコミが発達する低気圧に、定義付けすることもなく「台風並み」と言うのは、耳目を集めるためには仕方がないかもしれません。
ただ、気象解説を生業とする我々は、緊急時以外は出来るだけ気象の基本に則った解説を心がけないといけません。その積み重ねによって、解説者としての信用が培われていくのだろうと思います。
【参考資料】
国土交通省 第4回 事業評価小委員会(平成26年3月12日)「台風30号(フィリピン)の被害概要について」