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STAP細胞の小保方晴子さんから学ぶ「やる気の心理学」:負けず嫌いとおばあちゃんのかっぽう着

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

■大発見STAP細胞、小保方晴子さん

ユニットリーダー小保方晴子(おぼかたはるこ)さん。30歳。生物学の世界に驚きを与えるSTAP細胞に関する大発見で、世界が注目です。発見自体もちろん素晴らしのですが、この若き女性研究者自身にも注目が集まっています。

早稲田大学からハーバード大学留学。研究ユニットのリーダー。優秀なのは言うまでもありませんが、頭が良いだけでは成功はつかめません。その秘密を、「やる気」の心理学の観点から探ります。

■努力家、がんばり屋、そして人間関係の良さ

「小保方さんなしでは成功はなかった」「最も努力する研究者で、いつも研究室にこもって最良の研究方法を考え出し細心の注意を払う人でした。ハルコがいなかったら、この研究は達成できませんでした」(ハーバード大学 ヴァカンティ教授)~

「とにかく頑張り屋だったので 非常にうれしい。みんなが言うことは、彼女の優秀さはもちろん、真摯な態度と周りといかにうまくやっていけるかということ」(指導教官だったハーバード大学 小島宏司医学博士)

出典:STAP細胞、共同研究の米教授「ハルコなしでは成功なし」TBSニュースY!(1月30日)

やる気は、心の中で思っているだけでは意味がありません。「もっとも努力する研究者」ということから、小保方さんのやる気の高さがわかります。ただし、ただやみくもに活動すれば良いわけではないでしょう。

小保方さんは「頑張り屋」とも言われています。頑張り屋とは、負けず嫌いということでしょう。研究者でもスポーツマンでも、「負けず嫌い」は大切です。

人は成功したり、報酬がもらえれば、やる気(動機づけ)が高まります。失敗したり、罰を受ければ、やる気が下がります。報酬と罰はやる気に大きな影響を与えます。しかし、難しいことにチャレンジするほど、失敗は多くなります。私たちは失敗を恐れます。やる気を失いそうになります。

そのとき、負けず嫌いの頑張り屋は、失敗や罰の意味を変えてしまうのかもしれません。イチロー選手は、4千本安打を達成したとき、誇りに思うのは8千回の悔しさと向き合ってきたことだと語っています。

発明王エジソンは言っています。「わたしは、今までに、一度も失敗をしたことがない。電球が光らないという発見を、今まで二万回したのだ。」

何とも負けず嫌いの発言ですね。失敗ですら、次のチャレンジへのバネにするやる気があるのでしょう。

頑張り屋も負けず嫌いも、悪口ではありません。その人への愛情を感じる呼び名です。小保方さんも、みんなに愛される魅力的な人なのでしょうし、がんばる様子は、応援する人を増やしたのでしょう。彼女自身の真摯な態度と思いやりが、人間関係を良くしたのでしょう。

■泣くこと、そして今日一日がんばろう

研究室をかっぽう着姿で立ち回る「行動派」は、負けず嫌いで、とことんやり抜くのが信条だ。~

「やめてやると思った日も、泣き明かした夜も数知れないですが、今日一日、明日一日だけ頑張ろうと思ってやっていたら、5年が過ぎていました」

出典:STAP細胞―どんな細胞にもなれる万能細胞の作成に成功 理研・小保方晴子さんら朝日新聞デジタル2014年01月30日

行動派で、負けず嫌い。それでも力を失うことはあります。そんなときは、感情を表すことも必要です。泣く事は、ストレス発散です(多くの男性は、弱さを出せないという弱さを持っています)。

それでも、いつまでも泣いてはいられません。悲しさ悔しさに負けず、逆境を乗り越え、やる気を保つために必要なのは、目の前のゴールです。これから先、何十年と苦労しなくてはならないと思うと、気力が下がります。今日一日、明日一日がんばろうと思えることが、やる気を生みます。

小保方晴子さんも、そうして研究を続けてきました。

マラソンランナーも、もう走れないと思うとき、ゴールまでがんばろうではなく、とりあえずあの先のカーブまでがんばろうなどと、目の前の目標を持つそうです。そこまで走れば、また次の目標が見えてきます。

うつ病で自殺を考えている人も、ともかく今日一日は生きていこうと思うことによって、自殺の危機を乗り越えることができます。

■誰も信じてくれない、でも信じてくれる人もいる

「誰も信じてくれなかったことが、何よりも大変だった」

出典:新型万能細胞 5年越しの立証…小保方さん「誰も信じてくれなかった」 産経新聞 1月30日

権威ある科学誌ネイチャーに論文を投稿したが、掲載は却下され、審査した研究者からは「細胞生物学の歴史を愚弄している」という趣旨のメールも届いた。肩を落とす小保方さんを、幹細胞研究の第一人者である笹井芳樹・副センター長(51)らが支援。

出典:論文一時は却下…かっぽう着の「リケジョ」快挙 読売新聞 1月30日

小保方さんは「あきらめようと思ったときに、助けてくれる先生たちに出会ったことが幸運だった」と話す。

理研の笹井芳樹・副センター長は「化学系の出身で、生物学の先入観がなく、データを信じて独自の考えをもっていた。真実に近づく力と、やり抜く力を持っていた」と分析する。

出典:泣き明かした夜も STAP細胞作製、理研の小保方さん apital 1月30日

形のあるものを作るのであれば、少しずつ完成に近づくのがわかります。でも、研究のように形のないものは、進んでいるのかどうかわかりません。

きっと発見できる、きっと完成できるという強い信念が必要です。やる気が出るためには、努力はきっと報われるという信念が必要なのです。でも、みんなからだめだといわれたら、その信念も揺らぎそうです。

そんなとき、支援してくれた人がいたことは、幸運でした。いえ、小保方さんが「信じてくれる人」という幸運を作り出したとも言えるでしょう。

みんなが信じてくれないとき、自分まで意見がふらついたらだれもついてきません。信じているといっても行動が伴わなければ、やはり応援者はでません(少数派が多数派を動かす「革新」に関する社会心理学の研究成果)。

小保方晴子さんは、信じ続け、行動し続けました。その頑張り屋の彼女の姿を見て(もちろん研究のすばらしさも理解して)、支持者が現れ、小保方さんのやる気と研究活動が続いていったのでしょう。

■遠くの大目標

「STAP細胞は必ず人の役に立つ技術だ」との信念を貫いて膨大なデータを集め、今回は掲載にこぎつけた。

出典:新型万能細胞 5年越しの立証…小保方さん「誰も信じてくれなかった」 産経新聞 1月30日

「プレッシャーを感じるが、10年後、100年後の人類社会への貢献を意識して、一歩一歩進みたい」

出典:論文一時は却下…かっぽう着の「リケジョ」快挙 読売新聞 1月30日

やる気を持続させるためには、近くの小目標だけではなく、遠くの大目標が必要です。人は、自分の行動に意味を感じることができれば、苦しいときにも、がんばってやる気が出せます。

大きな夢や目標があるからこそ、筋トレに励み、登山の一歩一歩を踏み出すことができます。ケプラーは、「の作った宇宙にはきっとすばらしい調和があるはずだ」という信念をもって、膨大な天文観察データの分析を続けます。その結果、複雑な地動説ではなく、太陽を中心に惑星が回っている美しい太陽系の姿を描き出します(現代の科学者も、きっと法則性があると信じて大量のデータ分析を行ったりします)。

ノーベル賞を受賞した女性科学者キュリー夫人も、信念を持って、みすばらしい倉庫の中で、毎日毎日実験用小皿を並べ続け、ついに放射性元素を発見しました。

こんなこと、大目標、信念がなければできません。小保方晴子さんは、必ず人の役に立つ技術だ、人の役に立てたいと信じて、データを集め続けました。そして今も、100年先の人類への貢献という大目標を持ち続けています。

■おばあちゃんのかっぽう着:家族の役割

仕事着は白衣ではなく、大学院時代に祖母からもらったかっぽう着。「これを着ると家族に応援してもらっているように感じる」という。

「発生生物学は多くの女性研究者が活躍してきた分野。若手が見つけた小さな芽を、周囲のサポートで結実させた点もすばらしい」と喜んだ。

出典:論文一時は却下…かっぽう着の「リケジョ」快挙 読売新聞 1月30日

「研究者の仕事は世の人のため。一生懸命に頑張っていれば、いつかきっと誰かが評価してくれる」。

今回の研究の中心となった同センター研究ユニットリーダー、小保方(おぼかた)晴子さんは、祖母の教えを忘れない。2009年、世界的に有名な科学誌に掲載を断られ、ひどく落ち込んだ。その時、励ましてくれたのが祖母だった。「とにかく一日一日、頑張りなさい」。その言葉を胸に、祖母からもらったかっぽう着に必ず袖を通して毎日、実験に取り組んでいる。

出典:<万能細胞>祖母のかっぽう着姿で実験 主導の小保方さん 毎日新聞 1月29日

私も最初に映像を見たとき、驚きました。「え? 何を着てるの!?」。その後で、この割ぽう着の由来をニュースで読みました。

内発的動機づけなど、やる気に関する心理学の研究によれば、やる気を出すためには、両親や、家族、先生、上司など、重要な人から受け入れられているという感覚が必要です。

愛され、信頼され、守られていると感じるとき、人はのびのびとしたやる気を発揮するのです。小保方晴子さんは、おばあちゃんや家族、両親から、努力は必ず報われるという教えを受けてきたのでしょう。それは、彼女の信念になっていきます。

でも、努力がいつもすぐに報われるわけではありません。どんなときも、おばあちゃんやご家族は、結果だけを見てがっかりすることなく、愛し続け、支え続けたのでしょう。その愛が、晴子さんのやる気につながります。

すぐに成果が出なくても、「とにかく一日一日、頑張りなさい」。その教えを信じて、やる気を失わなかったその土台には、努力を認めてくれる存在であり、たとえ成果が出なかったとしても愛し受け入れてくれる家族の存在があったことでしょう。

キュリー夫人も家族に支えられてきましたし、子供のころからユニークだったエジソンも両親(特に母親)に支えられてきました。

動機づけ関する心理学の研究によれば、人はみんなやる気を出したいと望んでいます。若き研究者小保方晴子さんの活躍を通して、子供若者も大人も高齢者も、新しい目標とやる気をつかみたいと思います。そうなれる環境と支援を、両親として教師として上司として、みんなで作っていきましょう。

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■補足(20140402)

とても残念なことに、この論文への大きな疑問が出されています。

論文捏造:小保方晴子氏STAP細胞論文から考える科学と私たちが抱える根本的問題

補足(20140409)

小保方晴子氏反論記者会見:論文捏造の真偽は?天才かペテン師か?:Yahoo!ニュース個人「心理学でお散歩

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私たちの人生は運命で決まっているのか、努力はきっと報われのか。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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