小保方晴子氏反論記者会見:論文捏造の真偽は?天才かペテン師か?
小保方晴子さんの会見は見事でした。しかし、論文捏造の問題は別問題。STAP論文問題の可能性は? ケアレスミス? 部分的改ざん? 本人も誤解? 論文捏造?
■小保方晴子氏「STAPある」と反論記者会見
会見会場に現れた小保方晴子さんは、呼吸が浅く、不安と緊張が読み取れました。
小保方さんの様子は、やつれている、ふるえている、涙ぐんでいるとも表現できるでしょう。しかし、「STAP細胞はある」と明言し、2時間半の記者会見を見事に乗り切ったとも言えるでしょう。
■小保方晴子さんの落ち着き、冷静さと、頭の良さ
会見冒頭の小保方さんからの最初のコメントは、会見前に文書で発表されていた内容と同じでした。けっこうな分量です。手元に原稿は置いてあるように見えましたが、あの雰囲気の中で、きちんと前を向き、よどみなく、まちがいなく、コメントを発表しました。芸能人でもなく、アナウンサーでもないのに。驚きです。
2時間半の記者会見の中で、小保方さんを強く責めるような質問も数えるほどしかありませんでしたが、雰囲気は厳しいものです。かなりの緊張をして当然です。しかし、小保方さんは、質問に次々と答えていきます。
質問者はしばしば、いくつか質問をします。答える人は、最初の質問に答えているうちに2つめの質問を忘れます。良くあることです。今回の会見でも、弁護士さんが、「もう一つの質問は何だったか」と確認するシーンがありました。
それなのに、小保方さんは、質問内容をメモもせず、ほぼ完璧に答えていました。この雰囲気で、2時間を越える会見です。並の人なら、緊張と疲れで、頭がぼんやりするでしょう。回答が混乱することもあるでしょう。しかし、彼女には、最後までそんな様子は見られませんでした。
■小保方晴子さんの配慮と魅力
質問されているときに、メモを取れば、当然目線は下に落ちます。しかし、小保方さんは、質問者の目を見つめ続けます。これだけでも、好感度アップです。とても誠実に見えます。嘘をついているようには、見えません。
小保方さんは、他の人の悪口を言いませんでした(佐村河内守氏記者会見とはずいぶん違います)。
今回の会見は、理化学研究所の調査が不十分であるとの不服申し立てに関するものだったのですが、理研にも、調査のメンバーに対しても、とても配慮が見られました。見事なコメントといえるでしょう。
研究に対しても真摯な態度が見られました。
「未熟な私にまだチャンスが与えられるなら、研究を続けたい(涙ぐむ)」。
「たくさんの先生に支えられてきた。未熟な点はあったが、だからこそSTAP細胞にたどり着いたと考えたいが、今そう言うのは謙虚さにかけると思います。」(自分流も良かったのではと質問され)。
「(言葉を選びながら)私自身のミスなので、他の人のことをコメントできない。いろんな人に助けられたが、私の力不足。」(理研はトカゲの尻尾切りではと質問され)。
*他のコメントはこちら→
小保方晴子氏反論記者会見全質疑応答のコンパクトなまとめ(心理学でお散歩)
■科学論文の問題として
小保方晴子さんは、やはり聡明でとても魅力的です。「STAP細胞の小保方晴子さんから学ぶ「やる気の心理学」:負けず嫌いとおばあちゃんのかっぽう着」で表現したように。
今日の会見を見れば、多くの人が小保方晴子さんを応援したくなったことでしょう。
しかし、STAP細胞論文捏造疑惑は、まったく解決していません。小保方さんが、どれほど魅力的にそして強く明言したとしても、科学的には意味がありません(科学の「知」:科学者は、どうやって何かを「知る」のか)。
今回の会見は、そもそも目的が違います。理研の調査が不十分だったというのは、たしかに調査期間も短かったので理解できます。
しかし科学の問題は、会見や法律によって、決められる問題ではありません。小保方さんが、「200回成功した」と言ってもだめです。素人も含めて、誰が見ても、はっきりと実在が示せれば、一番わかりやすいのですが、科学の世界には科学の世界のルールがあります。様々な科学論文を通して、「仮説」とか「理論」とか「定説」といったものが、認められていきます(科学とは何か、科学者とは何か)。
注目を集める研究が発表されれば、関連の研究が世界中で行われます。追試(再現実験)が行われ、類似の研究が行われ、理論ができ、さらに応用研究、臨床実践がなされていくことでしょう。
しかし小保方晴子氏によるSTAP細胞論文の現状は違います。今のところ、多くのお金と時間をかけて積極的に追試を行おうという研究者はほとんどいないようです。
それは、今回の会見で行われた細かい話のせいではありません。仮に小さなミスがあったとしても、研究内容自体がすばらしければ、他の研究者が放ってはおかないでしょう。
■研究者小保方晴子氏は、天才か、ペテン師か、おっちょこちょいか、犠牲者か。
まだわかりません。可能性はいくつかあります。
その1:ケアレスミス
疑惑が報じられたとき私が最初に思ったのは、まず単純なケアレスミスをしたのだろうということです。これなら、訂正すればすむことです。小保方さんは、おっちょこちょいですが、最初の報道どおり、大発見をした天才的な科学者です。
その2:データ改ざん
しかし、疑惑が深まる中で思ったのは、小保方さんはすばらしい発見をしたが、すこしデータに不十分な部分があり、その部分を出来心で「見栄えを良くした」のだろうということです。これは、謝って簡単に済む話ではありません。信用を失うとんでもない行為です(ただ残念ながらこういうことはあるとは思います)。それでも、STAP細胞は実在し、今後のさらなる研究と応用が期待されます。
(データ改ざんについてさらに詳しく:STAP細胞論文不正ねつ造疑惑5つの可能性。)
その3:誤解
あるいは、小保方さん自身も誤解をしていた可能性もあります。光より速い物質の存在や、常温核融合も、大きく報道されましたが、後に誤りだとわかりました。これは、研究者に悪意(故意)はなく、研究者のミス、失敗、誤解によるものでした。
この場合は、大発見は夢と消えますが、道義的には責められません。
その4:陰謀の犠牲者
陰謀。大きな力が働いて、小保方さんがわなにはめられた可能性(私はそんなことは考えていませんが、言う人はいますね)。
その5:論文偽造
STAP細胞は、存在していない。小保方さんが意図的にウソをつき、研究論文もデータも捏造した可能性もあります。
動機がない、いつかばれるのに、そんなことするわけがない。小保方さんのように良い人が、ペテン師のわけがない。こんな大掛かりな論文捏造を彼女一人でできるはずがない。今日の会見でも「STAP細胞は存在する」とはっきり言っている。
なるほど、その通りです。私もそう思いたいです。
しかし、科学の世界では、以前もそんなことが起きています。
大きなウソは、実はなかなか見破れないのです。
アメリカの超一流研究所に所属していた、とても優秀で、魅力的で、誠実な若い物理学者の男性がいました。彼は、超伝導の分野で次々と画期的な発見をします。有名な大先生が共著者となり、矢継ぎ早にネイチャーなどに論文を発表しました。世界中が注目し、研究者らにとって、彼の論文は「バイブル」になりました。
しかし、世界中の追試(再現実験)は失敗します。
すべては、彼一人の捏造でした。
<論文捏造:超伝導論文捏造とSTAP細胞論文から考える科学と私たちの根本的問題>
世界中の研究者らが、今では彼の研究を完全に否定しています。しかし、彼はその時も今も研究は真実だと言い続け、そして彼の友人は、昔も今も、彼は誠実な人物だと語っています。
なぜ彼がこんなことをしたのか、その理由は今もわかりません。
研究者小保方晴子さんとSTAP細胞の未来がどうなっていくのか、それはまだ霧の中です。
補足(2014.4.17)→
STAP論文共著者・副センター長笹井芳樹氏会見「STAP現象は合理的で有力な仮説」
STAP細胞論文不正ねつ造疑惑5つの可能性:小保方晴子氏は何をしたのか:Yahoo!ニュース個人「心理学でお散歩」
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論文捏造:超伝導論文偽造と小保方晴子氏STAP細胞論文から考える科学と私たちが抱える根本的問題:Yahoo!ニュース個人「心理学でお散歩」
科学の「知」:科学者は、どうやって何かを「知る」のか:Yahoo!ニュース個人「心理学でお散歩」
小保方晴子氏反論記者会見全質疑応答のコンパクトなまとめ:Yahoo!ニュース個人「心理学でお散歩」
科学とは何か、科学者とは何か:小保方氏STAP細胞問題を理解するために。現代人の教養としても。:Yahoo!ニュース個人「心理学でお散歩」
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佐村河内守氏記者会見から考える「ウソ」と「疑う技術」:私達はいつもだまされてきた:Yahoo!ニュース個人「心理学でお散歩」
ウソの心理学:上手なウソの見抜き方、つきあい方:人はどこでしっぽを出すか:Yahoo!ニュース個人「心理学であなたをアシスト」
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『論文捏造 (中公新書ラクレ)』(超伝導論文捏造) 村松 秀 著
『背信の科学者たち:論文捏造データ改ざんはなぜ繰り返されるのか (ブルーバックス) 』