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『ユニコーンに乗って』の西島秀俊は、ロバート・デ・ニ―ロ級!

碓井広義メディア文化評論家
「スタディポニー」のメンバーたち(番組サイトより)

火曜ドラマ『ユニコーンに乗って』(TBS系)で、西島秀俊さんが演じている「おじさん社員」小鳥智志(ことり さとし)が、その存在感を増しています。

23日の第8話では、小鳥たちの会社「スタディポニー」が、技術の流出問題で揺れました。

しかも、疑われたのは、一緒に仕事をしてきた森本海斗(坂東龍汰)です。

会社や事業の存続に関わる危機でもあり、CEOの成川佐奈(永野芽郁)をはじめ、ポニーのメンバーたちは動揺します。

しかし、小鳥は常に落ち着ていました。

正しいことは迷わずする

皆が一定方向へと流れそうになった時、事態を冷静に見つめた上で、「正しいことは迷わずする」ことが大事だと身をもって示していた、小鳥。

今回の場合は、海斗を信じ切ることであり、彼を仲間として大切に思う気持ちを、粘り強く伝えることでした。

やがて海斗への疑念も晴れ、彼はポニーに復帰しました。

こういう時、ポニーの若者たちから見て、年齢もキャリアも考え方も異なる小鳥がいてくれたことが、大きな助けになったのです。

事態が収まった後、小鳥が佐奈に訊きました。なぜ、異質の自分を採用してくれたのか。

「素直」に生きること

佐奈は「ネットを通じて誰もが平等に学べる場を作りたい」という理念に共感してくれたからだと説明します。

そして、もう1つ大事なことがあり、それは小鳥が「素直だったから」だと明かすのです。

大人になると、人は素直でいることが難しい。見栄を張ったり、自分をよく見せようとしたりする。

でも、小鳥は違った。素直な自分の思いを、真っ直ぐにぶつけてくれたのだと。

48歳の元銀行マンである小鳥ですが、入社後も、他者に自分の経験や知識を披歴したり、ましてや価値観を押し付けたりしません。

まさに「素直」な心で、新しい仕事や仲間と向き合ってきました。

また積極的にIT系の知識を取り込み、自分に出来ることを少しずつ広げ、若者たちの中にも自然に溶け込んできています。

それは、小鳥にとってのポニーが、単に生活のためのセカンドキャリアの場ではなく、かつて教員になりたかったという夢を、形を変えて実現できる場だからでしょう。

西島秀俊は、ロバート・デ・ニーロ級!

以前もこのコラムで少し書いたのですが、このドラマを見ていると、米映画『マイ・インターン』(2015年)を思い出します。

若き女性経営者と、転職してきて彼女の部下となった、年上の男性の物語。

ジュールス・オースティン(アン・ハサウェイ)が社長を務める通販会社に採用されたのが、初老のベン・ウィテカー(ロバート・デ・ニーロ)でした。

当初は異質だったおじさんが、徐々に存在感を増し、ビジネスへの貢献と共に女性社長との信頼関係も生まれます。

単に年長者ということではなく、その人柄と経験が若手社員たちにとっても刺激となり、仕事仲間として認められるようになっていきました。

小鳥もまた、これまでに、いい意味で周囲を変えてきています。

ちなみに、「正しい行いは迷わずやれ」は、映画の中のデ・ニ―ロ、いえベン・ウィテカーが、自分の好きな名言として挙げていたものです。

小鳥は、そのことを若者たちに、口ではなく、自身の行動で伝えているように思います。

新たな章へ

ドラマは新たな章へと向かっています。

より強く結束を固めたポニーのメンバーたちが、事業をさらに進める上で直面する、いくつもの壁。

その取り組みに、「おじさん社員」小鳥がどんな寄与の仕方をしていくのか、楽しみです。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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