ICANと被爆者をノルウェー現地メディアはこう報じた ノーベル平和賞
授賞式前日からの4日間、ノルウェーでは現地メディアは授賞式や受賞者をどのように報道したかを追った。
ノルウェー国営放送局NRKは、最も幅広く期間中の出来事をカバーしていた。
記者会見や「被爆樹木」の種の寄贈式の様子は、夜に最も視聴されるニュース番組で紹介される(公式HPのリンク先、07分09秒頃から閲覧可能)。
日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)代表委員の田中熙巳さんの「絶対に忘れていません。本当に強烈な影響を私たちに与えてくれました。破壊された街には、何日間も、亡くなった人たちやケガした人たちが放置されていました」という言葉などが紹介された。
TV2ではニュース番組で、「被爆樹木」の種の寄贈式と、長崎の被爆者・田河豊子さんの被爆体験が紹介される。
番組の編集を筆者は多少手伝ったのだが、田河さんの話を直接聞いたノルウェー人記者は、「心に強く響いた話だった」と隣でつぶやいていた。
田河さんは、原爆投下後に亡くなった兄の話をした。「核に対しては、つくるのも、考えるのも、人間である。そう思えば、人の心を変える以外にないなと。そういう思いを、世界の人々に知って欲しいなという思いがあります」という言葉が番組内では紹介されていた。
授賞式当日
TV2では授賞式の夜に開催されたパレードに、多くの人々が参加したこと、行進する被爆者らと、その様子を報道する日本メディアの姿も放送された。
ノルウェー首相にとっては「政治的には難解な日だった」とも現地メディアは表現。
NATO加盟国だから核兵器禁止条約にノルウェーは署名しないと、首相はもう何回も以前から説明している。それでも現地記者たちは、同じ質問を何度も投げかけていた。
被爆者を代表して、サーロー節子さんの言葉が世界へと届く
「今日、私は皆さんに、この会場において、広島と長崎で非業の死を遂げたすべての人々の存在を感じていただきたいと思います」という、広島の被爆者でカナダ在住のサーロー節子さんの言葉は多くのメディアに紹介された。
サーローさんの話は、「とてもストレートでした。恐らく私たちが想像していた以上に、心にまっすぐに響く言葉だったのではないでしょうか」と、ノルウェー国営放送局NRKの記者は番組で解説する。
「責任ある指導者であるなら、必ずや、この条約に署名するでしょう」、「世界のすべての国の大統領や首相たちに懇願したい。核兵器禁止条約に参加し、核による絶滅の脅威を永遠に除去してください」というような言葉のシーンでは、ノルウェーのアーナ・ソールバルグ首相の姿がテレビ画面のスクリーンに大きく映し出される。
授賞式の様子は、NRKで生中継されていた。
田中熙巳さん、藤森俊希さんも何度も紹介される
田上富久 長崎市長、松井一実 広島市長、田中熙巳さん、藤森俊希さんも招待されており、ICANの川崎哲国際運営委員と共に、何度もスクリーンで顔が映し出されていた。
田中さんと藤森さんは、メディアからも連日取材を受ける。
被爆したピアノやかばんも紹介される
11日のノーベル平和賞コンサートもNRKで生放送されていた。
広島の「被爆ピアノ」も紹介される。
式の最後には、会場にベアトリス・フィン事務局長のほかに、ICANメンバーたちが登場。田中さんや藤森さんの姿もあった。
「ICANとは何者か?誰か?」と問う事務局長。会場にいなかった人も含めて、ICANは核廃絶に向けて取り組んできた「みんな」であり、平和賞はみんなで受賞したのだということが強調されていた。
ノーベル平和センターでは、広島と長崎の被爆したかばんや腕時計が展示されることもNRKで報道されていた。
各地では日本メディアの多さに、ノルウェーのメディアが驚いていたことも印象的だった。
ノルウェー首相の「拍手」を、現地メディアは大きく報道
今でも大きく話題となっているのは、受賞者の演説中に時に拍手をしようとしなかったノルウェー首相の反応だ。
地元紙では、なぜノルウェーは条約に否定的なのか、ロシアからの脅威の可能性がゼロとはいえないこと、NATO加盟などを説明する記事が連日続いた。
同時に、ノルウェーは条約に署名すべきとする専門家などからは、「核兵器が守ってくれるという思い込みこそが、幻想だ」というような議論が展開されている。
ノルウェーでは授賞式直前までは、ノーベル委員会メンバーにポピュリスト議員が入るかどうかが注目を集めていた。
今後は、ノルウェーでのNATO加盟と核抑止力の議論、ノルウェー政府が地元のICANノルウェー支部を経済的に支援するつもりがあるのかどうか、また委員会メンバーについての議論が続くとみられる。
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Photo&Text: Asaki Abumi