美しい紅葉の裏に危険が潜む秋山登山 知っておきたい命を守る7つのルール
標高が高い中部山岳や北海道の山々の紅葉が始まるのは9月中旬以降です。出かける場所や天候で見頃は変わりますが、9月中旬から10月「体育の日」の連休頃までで計画する方が多いかと思います。毎日の生活場面では実感しにくい寒さなど、秋山登山を楽しく安全にするポイントを紹介します。
1:登山予定期間の低気圧の動きと気圧配置、日本列島上空に流れ込む寒気の動きを確認します。山の秋は突然、氷点下となる冬の気候に変わるものと考えてください。山岳気象情報が厳しい天気の到来と登山者への警告を発したならば、安全を確保できる山小屋から出て標高2500m以上の稜線を目指すのは自殺行為です。
⇒ 30年前の悲惨な秋山気象遭難の一例です。
2:ダウンジャケット、ニット帽、手袋などの防寒ウェア用品は必ず持っていきます。「使う出番がないだろう、私は寒さに強いから、荷物が重たくなるから」そのような理由でこれらの防寒対策を疎かにするのは絶対にやめてほしいと思います。命に関わる事態はこのような些細と思われることから進展してしまうものなのです。山では「出番がなかったね」くらいがちょうど良いと思ってください。
一般に紅葉が始まるのはその場所の最低気温が8℃を下回る必要があるといわれています。紅葉で有名な北アルプス涸沢は9月に入ると、平均気温でも10℃程度(推定値)です。
季節に関係なく、標高3000mまで登れば、気温は凡そ20℃低下します。(標高100m上げると気温は平均0.65℃低下)
何を持っていくか、どのように行動しようと個人の自由だと考える方もいると思いますが、私は先人が積み重ねてきた自然の中で遊ぶルールやマナー、山への畏敬と謙虚さを見失って計画してはいけないと考えています。
自らに問う ⇒ 「優れた装備と多くの情報に助けられているだけではないか。美味しい体験だけをつまみ食いしているだけではないか。山は全ての者に門戸を開いているが、私の体力技術経験は今回の登山に合致しているだろうか。」
3:汗や雨による濡れを想定した優れたアンダーウェアを準備します。体温が低下して起こる「低体温症」は非常に警戒すべき症状です。医療を受ける環境としては劣悪な山岳エリアでは平熱から2℃程度低下するだけ重篤な事態になり、登山者自身がなすすべなく死に至ってしまう危険があります。登山者ができることは低体温症を予防することなのです。
水は乾いた空気に比べて約25倍も熱を運ぶことができます。つまり、濡れてしまった原因は何であれ、濡れた服は瞬く間に体温を奪っていくのです。やむ得ない事情で濡れて震えが来るようであれば、すみやかに乾いた服に着替える必要があります。
最近では汗を吸わずに肌を乾いた状態に保つ素材でできた「超撥水メッシュ形状の肌着」を組み合わせたレイヤリング(服の重ね着)が主流になりつつあります。
着用してはいけない素材は綿(コットン)とそれの混紡素材です。 ⇒ 日常生活では優れている素材ですが、乾きが遅いことが難点です。
4:防風防水透湿機能を持つ素材からできたアウターウェア(レインウェア)、表面生地の撥水性を確認します。登山をしているなら必ず持っているレインウェア、実際に雨の中で使った時のこと思い出してください。撥水性(水滴を弾く性能)は問題なかったですか。機能が劣化しているようなら、この時期に新調することをおすすめします。今までのレインウェアは洗濯などの手入れをして、低山ハイクや穏やかな季節に使うとよいでしょう。
5:十分な行動食を用意します。体温を維持するためには既に述べたような不用意に体温を失わない為のウェアなどの工夫が必要ですが、熱の発生源である筋肉への栄養供給も欠かすことができません。最低でも一時間毎に行動食を食べるようにしましょう。行動食はリュックサックの一か所にまとめないようにします。アウタージャケットのポケットなど数か所に分散しておき、行動中でも手間をかけずすぐに食べることができる環境をつくっておくようにします。
6:温かい飲み物が入ったテルモスを用意します。寒さに震える時、温かく甘い糖質を含んだ飲み物があると大変うれしいものです。特に痩せて体重の軽い人は体格の大きく恰幅が良い人に比べて、寒さに対して不利なのです。身体の中から温める「加温」を積極的に取り入れることをおすすめします。
7:早朝出発で十分な行動時間を確保します。秋になると、徐々に日没時刻も早くなります。太陽が隠れてしまうとあっという間に暗くなるのが秋の特徴です。遅くとも15時までには登山口に戻るようにタイムスケジュールを組むようにしましょう。
暦のページ ⇒ こちら
登山を計画するとき、暦を確かめて日の出時間をチェックします。自分の手元がはっきりわかる日の出の30分ほど前からであれば、あまり不安なく歩きだせるはずです。初めて訪れる山であれば、登山口がはっきりわかる明るさになる日の出の時刻に合わせても良いかもしれません。
経験豊富なリーダーがいるのであれば、日の出時刻の1時間ほど前からヘッドランプを点けて歩くことも選択肢に入れても良いでしょう。これはルート状況とメンバーの力量などを加味して決めるものです。
なぜ、ヘッドランプを点けての早朝出発を経験しておくことをおすすめするのか? ⇒ ズバリ言うと暗い登山道を歩くことに慣れてほしいからです。早朝であれば30分ほどで明るくなるので精神的に楽な気分で体験できます。このような経験を持つことによってやむをえない事情が発生して下山が遅くなり、闇の迫る登山道を歩く事態になりそうな時も、慌てず転ばず歩くことができる余裕ができるのです。
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まだまだ、残暑厳しい時期です。山の厳しさが紅葉の美しさで隠されていることを想定して、楽しい秋山計画を立ててください。