高齢者は「配送がニーズ」が高い 被災地でアマゾンドライバー労組が配達ボランティア
先月16日、アマゾン自営ドライバーの労働組合であるAmazon Flexユニオン(総合サポートユニオン物流支部Amazon Flex 分会)の結成を発表する記者会見が行われた。労組結成の背景には、時間内に配り切れないほどの荷量、配り切らないと契約解除になる恐れ、急いで仕事をすることによる事故リスクの増大など、労働環境の過酷さがある。同ユニオンには、この間でアマゾン配達員から20件以上の問い合わせがあるなど、反響は大きいという。
参考:アマゾンの自営ドライバーが新たに労組を結成! 労働問題の背景を詳しく解説(今野晴貴) - エキスパート - Yahoo!ニュース
そうしたなか、Amazon Flex ユニオンの結成に関わったドライバーら5名が能登半島地震の被災地支援に参加している。自営ドライバーとしての経験・能力を活かして被災地の復興に貢献したいという組合員らの意向があって、被災地入りを決めたという。
配達ドライバーが被災地で担うのは、移動困難や生活困難を抱える人たちへの物資の配達や震災の甚大な被害を受けた奥能登地域への物資の配送である。食糧品や日用品など必要不可欠な物資のニーズが満たされない人が出ないよう、物資の配達・配送のボランティア活動を始めたのだ。
配達員労組、被災地へと向かう
ユニオンは、現地の支援団体(のとルネ及び熊本支援チーム)と連絡をとり、軽バン等での配達の需要があることとボランティアの受け入れが可能であることを確認し、先月30日に石川県七尾市へと向かった。
車2台、計3名で、車に食糧(水、米、缶詰、生鮮野菜など)や日用品(生理用品など)を満載して仙台と神奈川から出発した。さらに後日、Amazon Flex のドライバーのみならず、ヤマト運輸で働く運転手ら2名もボランティアに合流したという。職業ドライバーたちが力を合わせて被災地支援を行う形だ。
被災地での配達ドライバーの支援活動の様子
Amazon Flex ユニオンのブログから支援の様子を見ていこう。
まず31日の午前は、積み込んできた支援物資の荷下ろしと、七尾にある支援拠点(パトリア)での物資の配布会でのボランティアを行った。食糧配布会には、100名を超える方々が来場していて、被災地での食料や日用品のニーズの高さがうかがわれたという。
また、午後は、配布会に自力で来ることが難しい人に向けては、Amazon Flex ユニオンの組合員が車で食料や日用品の個別配達にも行っている。被災地では、断水が続いているため、今もペットボトルの水などへの需要がとても高い。だが、高齢者など移動が難しい人にとっては、遠くまで買い物に行くことも、食料配布会に参加することもできないため、被災地での配達・配送のニーズがとても高いのだそうだ。実際、個別配達をしたある世帯では、食料や水が十分に届いておらず、生活に困っている旨を相談されたという。
翌日も、七尾市内での食料配達を担当したという。大きなところでは、福祉施設への食糧(水、米、卵、生鮮野菜など)や車椅子の配達をした。その施設では25人の入居者のケアを、水道が止まっているなかで行っており、とても苦労されていることが見て取れたという。さらに、施設の職員側も多くの人が被災しており、なかには避難所から福祉施設に通って働いているという話もあったそうだ。
施設からユニオン宛に後日、お礼のメールが届き、以下の写真のような食事となって施設の利用者へ提供されたという。
この日はさらに4件の戸別訪問をし、主に断水地域の高齢者など移動困難な方への水の配達をしている。
配達活動のなかでは、地域の福祉関係者の方との繫がりもできているという。福祉関係者の方から、水や食糧の配達ニーズを抱える方を繋いでもらって、必要な人に届けることができているそうだ。
地域の福祉関係者によれば、高齢者や障害者など移動や生活に困難の抱えている方ほど「助けて」と言えない、「助けて」の声が届かない状況にあり、被災地のあちこちでニーズが埋もれてしまっているという。
とても大変な状況にある人ほど、支援に繋がりづらい現状があるのだ。そのため、そうした方々と普段から繋がりをもってきた福祉関係者の方と協力して、必要な食料や日用品を届けていきたいとユニオンは考えているという。
奥能登(輪島市)にも物資を輸送
さらに、その翌日は、七尾市の支援拠点(のとルネ/熊本支援チーム)から石川県輪島市への物資の輸送を行ったという。
輪島市は、死者数が103名にものぼり最大規模の被害を受けた場所である。いまだ、道路は一部寸断されており、通行可能とされている道路も亀裂や凹凸があちこちにあり、物流は制限されている。
そうしたなか、プロのドライバーが細心の注意を払いながら、輪島へ食糧や日用品を届けることになった。
輪島では、営業再開できていないお店も多く、また再開したお店でも商品が揃っていないため、入手しづらいものが多くあり、ボランティアによる物資の輸送が重宝されるそうだ。
自営ドライバーの労組が被災地支援に取り組む背景
今回、Amazon Flexの配達員の労働組合が被災地支援を行った背景には、組合員が自営業者だということがある。もちろん、自営業者といっても、現状ではアマゾンジャパンと対等且つ公正な取引をしているとはいえない労働条件・就労環境にあるものの、雇用労働者とは異なり、いつ・どれくらい働くかについてはドライバーの側に裁量(自由)がある。それゆえ、雇用労働者と比べると、身軽に志一つで行動できるという特性がある。
それと関連して、Amazon Flexの配達員の中には、他に本職ややりたいことがあって、それと両立するように働きたいから、自営ドライバーを選んだという人も多い。自分が本当にやりたいことのために、自由に使える時間を確保しておきたいということだ。こうした自由や自発性を重んじる傾向の強い自営ドライバーの労働組合だからこそ、労組結成間もないなかで被災地支援に行くことができたのではないか。
また、同ユニオンが配達ドライバーという職業能力を持った集団であることも大きい。配達・配送需要という具体的なニーズを満たす力があるからだ。それも、自営ドライバーであるため、車も自己所有(一部のドライバーはリースだがいずれにしても自分で好きに使える)であり、自力で配達車両を用意することができる。業務と関係なく被災地支援のために車両を使うことに全く問題がないのだ。配達スキルも、配達のための手段(車や台車など)も併せて持っている自営ドライバーは、被災地支援においてとても力強い存在なのだ。
Amazon Flexユニオンの被災地支援は、今回は1週間程度の予定だが、今後も全国各地のドライバー・配達員の有志とともに被災地支援を続けていきたいとしている。被災地の移動困難者や生活困窮者への物資の配達のためには、車とドライバーの力が必要なのは確かであろう。是非、このような動きが広がり、被災地の復興の一助となってほしい。