アマゾンの自営ドライバーが新たに労組を結成! 労働問題の背景を詳しく解説
今、社員・労働者ではなく「個人事業主」という形でフリーランサーが増加している。フリーランサーの活用が急激に拡大する業種の一つが、配送ドライバーの世界である。中でも、オンラインショッピングサイト最大手のアマゾンは、「アマゾンフレックス」というアプリのもとで、アマゾンの商品を顧客に配送する個人事業主ドライバーと直接契約している。
この仕組みのもとで、基本的には軽バン(場合によっては軽自動車でも可能)があれば、いつでも誰でもアマゾンの商品を配送するドライバーとして「自分のペースで、自由に働ける」(アマゾンフレックスのホームページより)。しかし、アマゾンの宅配ドライバーをめぐっては、後述するように、さまざまな労働問題が指摘されていることも事実である。
そうした中で、今月16日、労災や最低時給保証などを求めて、宮城県の配送ドライバーが中心となって「Amazon Flexユニオン(アマゾンフレックスユニオン)」という名の労働組合を発足させ、契約先のアマゾン・ジャパン合同会社に団体交渉を申し入れた。
世界でも、アマゾンやウーバーなどプラットフォームによる「ギグ・ワーク」が広がっているなかで、ギグワーカーの労働組合が次々と発足している。本記事では、今回労働組合が発足したことがギグワーカーに与える影響やその意義について考えていきたい。
アプリに従い配送するアマゾンフレックスの配送ドライバー
そもそも、アマゾンフレックスとは、個人がアマゾンと直接業務委託契約を締結して、ドライバーとしてアマゾンの倉庫などから顧客宅まで商品を配送する仕組みである。軽バンや軽自動車を用意して事業用の「黒ナンバー」を取得したドライバーは、アプリで登録してすぐに働き始めることができる。
そして実際の勤務は、アプリ上に並べられた、稼働時間、報酬、配送拠点が明記されたオファー(仕事)を選択することで行う。例えば、東北地方で働くあるドライバーのオファーをみてみると、2024年1月14日に選択しうる仕事は、16時30分から22時までの5時間30分、報酬は10,351円、荷物の受け取りは福島県にある「Fukushima (OMG2)」という場所、といった具合だ。
オファーを選択して仕事を引き受けると、倉庫で荷物を受け取って、アプリのマップ上にあるピンの住所まで荷物を届ける。どのような荷物をいくつ届けるかや、どの地域に届けるかは予めわからない。場合によっては、8時間で200個が割り当てられることもあるという。
参考:アマゾン・フレックス配送員の過酷な労働…休みなしで200個配り日給1万円台
労災もなく、低賃金かつ不安定なギグワーカー
アマゾンフレックスでは、配達個数が多くなるかもしれない一方で時給は最低賃金の二倍近くになり、好きな時間に働くこともできる。これだけを聞くと、「悪くない仕事」だと思われるだろう。ただ、個人事業主としてアマゾンフレックスのドライバーをする際には、以下に見るような様々な問題が生じていると、現役ドライバーは話している。
まず、報酬については、確かに上のオファーをみると時給は1882円(1月14日福島の場合)や1637円(1月16日盛岡の場合)と地域の最低賃金よりは高く設定されているものの、配達に必要な車両の購入費用や車両保険料、自動車税、駐車場代、ガソリン代は自己負担であるため、経費を差し引いた実際の手取りは最低賃金を若干上回る程度になることも珍しくないという。
また、オファーの数や場所、その時間の報酬はアマゾンが一方的に決めているため、そもそも働きたくてもオファーがない場合や報酬が勝手に引き下げられることがある。上記オファーの写真をみても、1月14日は時給1886円だが、同じ場所で同じ曜日の同じ時間枠であるにも関わらず翌21日の時給は1637円(9004円割る5.5時間)と、1時間あたりあたり200円も引き下げられている。
17日から19日までの3日間はそもそもオファーすらなく働こうにも働くことができない。表面上の時給は低くないものの、一ヶ月で何日働くことができるかも、仮に働けてもその時間枠の報酬がいくらになるのかもわからないという極めて不安定な環境で働いているといえる。
さらには、個人事業主扱いにされ労働法が適用されず、最低賃金や労災などから除外されている。仮にオファーの1時間あたりの報酬が最低賃金を下回っていても法的な問題は生じない。また、ドライバーが配達中に怪我をしても労災と扱われずに、自分の保険から医療費を支払わないといけない状態におかれている。
その上、時間内での配達ができない場合などには、実質的な「解雇」を意味する「アカバン」と呼ばれるアカウント停止になってしまう。アマゾンフレックスの規約には、どのような場合にアマゾンフレックスの「参加資格」を失うのか、つまりアカウント停止になるのかについての記述があり、例えば「遅配が繰り返された場合、本プログラムへの参加資格は失われます」と書かれている。
そのため、遅配を恐れてドライバーはできるだけ急いで、ときには運転中は法定速度を上回っても届けている。そもそも、遅配が何回続いたらアカウント停止になるのか、またどのような場合にアカウント停止になるのかなどの基準がはっきりしておらず、極めて不透明な評価システムが用いられている。
参考:岩本菜々「アマゾンの「当日配送」を支える人々を追って」(『POSSE』55号)
このような様々な危険やリスクを背負いながら、アマゾンフレックスのドライバーは働いているのである。
過重労働によって多発する交通事故
実は「自分のペースで、自由に働ける」とアマゾンフレックスが謳うのと裏腹に、個人事業主として働くドライバーの多くは毎日働き、しかも労働時間も長いことが国土交通省の調査で明らかになっている。
「大手通販サイト事業者」(アマゾンに限定されない)などと契約を結んでいる個人事業主ドライバーの1週間あたりの労働日数は、「4~5日」が45%、「6日」が37%で「7日」も5%おり、1日あたりの平均労働時間は11時間以上が全体の42%を占め、総じて長時間労働になっている。
また、配達個数は、通常時でも100個以上が全体の47%、繁忙期では56%と多くの荷物を運んでいることが調査からわかっている(「貨物軽自動車運送事業の実態調査結果について」)。
さらにこの調査ではドライバー自身の声も紹介している。
個人事業主でありながら、仕事に対する決定権もなく、いつクビになるかわからない不安定な状況で働いていることがわかる。また、仕事を減らされることを恐れてスピード違反になる可能性にも言及している。
このように、ほとんど裁量がない中でひたすら働かせられている個人事業主ドライバーの間では、事故が多発している。国土交通省「貨物軽自動車運送事業者に対する今後の安全対策」によれば、軽バンなどを含めた軽貨物車の死亡・重傷事故件数は2016年の199件から2022年には403件と103%も増加しているという。その間、軽貨物車以外の死亡・重症事故件数は27%減っているにもかかわらず、だ。
いま広がっている個人事業主による軽バンでの配送のあり方は、社会全体にとっても問題だということがわかるだろう。
「透明性」を求めて団体交渉を要求
このような状況の中で、アマゾンフレックスに登録するドライバーが「Amazon Flex ユニオン」を発足させ、状況改善のためにアマゾン・ジャパン合同会社に対して団体交渉を申し入れた。組合によると要求は主に3点だという。
1つ目は、1時間あたりの報酬の引き上げだ。組合発足に関わった宮城県内のあるアマゾンフレックスドライバーの場合、オファーされる時給は平均1600円程度となるという。ただ上記の通りガソリン代などの経費を差し引くと、ほとんど最低賃金と変わらない金額になるという。そこで労働組合では、オファー時点での1時間あたりの最低保証金額を2500円にするよう求めている。そうすれば経費などを差し引いても2000円弱は手元に残るからだ。
2つ目は、労災保険への加入だ。個人事業主はいわば「経営者」と扱われるため、労災保険に加入することができなかった。しかし個人事業主という契約であっても、実態が労働者であれば労働法が適用され、労災保険も適用される。事実、アマゾンの下請け配送企業と業務請負契約を結んでいた神奈川県の60歳代のドライバーが配達中に怪我をした際、管轄の横須賀労働基準監督署長は、勤務実態から労働者と扱われるべきだと判断し、労災を認めている。
参考:アマゾン配達員がついに「労災認定」 世界中で「同時ストライキ」の計画も浮上
また、下記の厚生労働省の資料ではケースごとに労災保険の適用について例示しているが、始業・終業時間が決まっていないものの12時間かけて配送することが前提の配達個数を割り当てられており、実際の配達先はアプリで指定され、さらに顧客対応の仕方が指示されているある個人事業主ドライバーのケースについて、「業務遂行上の指揮監督関係や時間的拘束性があり、報酬も業務に必要な時間の対価としての労務対償性が強いと認められる」として労働基準法第9条の労働者にあたるとされている。
参考:「労働基準法上の労働者に該当すると判断された事例(貨物軽自動車運送事業の自動車運転者」
この厚労省の例示にしたがえば、アマゾンフレックスのドライバーも(また、その他の個人事業主ドライバーも)基本的には労働法上の「労働者」に該当し、会社が労災保険に加入させなければならないはずだ。極めて多くの荷物を時間的余裕がないなかで運びきらないといけないドライバーにとっては、交通事故や怪我のリスクは極めて高く、労災保険に加入できるかどうかは切実な問題だ。
なお、個人事業主ドライバーも建設業の一人親方と同じく「特別加入」という形で労働者自身が保険料を支払えば労災保険に入ることはできるが、月数千円の保険料を収めなければならない。通常の労働者であればそもそも加入が義務付けられているだけでなく、その労災保険料は全額が会社負担であるため、Amazon Flexユニオンは会社負担での労災加入を求めている。
そして3点目は、報酬決定やアカウント停止などに関わるアルゴリズムの開示だ。ドライバーはいわゆる個人評価システムのもとで「契約履行状況」を評価されている。「とても良い」から「要改善」まで4段階あり、この評価システムによってアカウント停止などの処分につながると考えられている。しかしこの決定方式が明かされていないため、どうすれば「とても良い」になるかや、そもそもどのような評価を得た場合にアカウント停止になるのかもドライバーにはわからない。
また、報酬や稼働時間などオファーの内容が同じ地域でもドライバーや時期によって異なるようだが、それがどのような基準に基づいているのかドライバー側には明かされない。突然時給が下がっても、それがその時間枠だけなのか、今後はずっとその時給になるのかもわからない。
つまり、アマゾン側が非公開の評価システムに基づいて一方的にドライバーの業務量や報酬を決定し評価しているのであるが、個人評価はまさに労働条件の根幹に関わる部分である。そこで、業務量や報酬決定やアカウント停止などに使われているアルゴリズムを開示して、配達個数に制限をかけるとともに、評価方法について明らかにするよう労働組合は求めている。
なお、アマゾンジャパン合同会社に今回の申し入れについて回答を求めたが、期限までに回答を得られなかった。
ギグワーカーの権利をもとめて
上記の申し入れを経て、Amazon Flexユニオンには全国の現役ドライバーや過去にアカウント停止になった配送員からすでに数十件の問い合わせが来ているという。ユニオンは今後、アマゾン・ジャパン社への要求や実態についての情報発信、組合員同士の情報共有などを行っていくとのことだ。
参考:Amazon Flex ユニオン(総合サポートユニオン物流支部 Amazon Flex 分会)の基本方針について
今回のAmazon Flexユニオンによる要求は、アマゾンの個人事業主ドライバーだけでなく、プラットフォームによる指示により働くギグワーカー全体にとっても影響があるといえる。例えば、ウーバーイーツの配送員の労働組合「ウーバーイーツユニオン」が類似の要求を会社に行っている。
また海外でも、フードデリバリーの配達員からウーバーなどのライドシェアドライバーが労働組合を発足させ、最低保証額の設定やアカウント停止の基準開示などを求めて、ドライバーがアプリから一斉にログオフするというストライキなどを行って、労働条件の改善を求めている。
日本でもますますギグワーカーが増えていくなかで、このような取り組みは重要だろう。
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