ドラマ「フラジャイル」で病理医(長瀬智也や武井咲)を支える“臨床検査技師”(野村周平)とは?
病理医とは
2016年1月から3月までフジテレビ系列で放送され、
TOKIOの長瀬智也さんが主役を演じた「フラジャイル」で一気にその存在が世に知られることとなった病理医。
女優の芦田愛菜さんが将来の夢として挙げた職業であり、あの発表に病理の世界がどよめきたった。
病理医は、病理標本(細胞や組織片を貼りつけたプレパラート)を顕微鏡で観察して、組織や細胞の形態から、それが何の病気なのかを診断する。
病理医は頭の先から、足の先まで全ての臓器についての知識が必要であり、消化器、呼吸器、循環器、婦人科…など、全ての臨床科の患者の病理診断をおこなっているのだ。
ドラマでも描写されていたが、基本的に病理医は病理診断科と呼ばれる部屋で顕微鏡をのぞき、ひたすら診断しているのだ。
病理医は病理診断以外に、病死の原因をつきとめるための解剖(病理解剖)をおこなう。
病理医は直接患者に接する機会が他科の医師に比べると少ない。よく「縁の下の力持ち」と揶揄される。
だが、その病理医を支える、さらなる「縁の下の力持ち」をご存知だろうか?
フラジャイルで野村周平さんが演じていた職種である。
病理医を支える病理技師
病理医が顕微鏡で観察している病理標本を作る仕事を担っているのが、業界で「病理技師」と呼ばれる者たちだ。
エコーや心電図、血液検査や尿検査をおこなう臨床検査技師の中で、この病理検査に携わる技師のことである。
病理技師も、ほぼ患者の前には姿を現さないので、あまり認知されていない。
病理技師は医療の現場で生きる「職人」なのだ。
臨床医が内視鏡や手術の際に、患者の病変部を摘出。
その摘出された組織から病理医が診断に最も適した部位を切り出す。
病理技師は、その切り出された組織を、ロウソクのロウのようなもので固め、組織片に硬さをもたせる。
「ミクロトーム」と呼ばれる道具を使い、その組織片が固められたロウを薄く切っていく。
ミクロトームは大工道具のカンナに近い仕事をする道具だ。
病理技師のワザ
ヒトの髪の毛の直径が0.05〜0.15ミリメートル、つまり50〜150マイクロメートル。
一般的な細胞の大きさは直径10〜20マイクロメートル(1マイクロメートルは0.001ミリメートル)であり、細胞がいかに微小なのかがわかるだろう。
病理技師はその細胞を、ミクロトームを使って2〜6分割に薄くスライスする。
つまり3〜5マイクロメートルの厚さで、息をするだけでもフワリと飛んでいく薄さだ。
さらに、切る細胞の種類などによっても、厚さを意図的に調整して切り、病理医が最も診断しやすいように標本を作るのだ。
そのままでは細胞は透明であり、形態が観察しにくい。
そこで、細胞を染色し色をつけ、顕微鏡で観察できるように標本を作るのだ。
日本人の手先の器用さは世界の中でもトップクラスだが、この病理技師の持つ技術も間違いなくトップクラスだ。
これ以外にも、様々な内容の仕事があり、どれも専門の知識や技術が必要となる。
医療現場で生きる職人
刀鍛冶や陶芸家は作ったものが形として残り、人々の目に触れ、その美しさや機能性で人々を魅力し、その名は語り継がれていく。
寿司職人やシェフは作ったものが人々の前に置かれ、目で見て、舌で味わわれ、人々を喜ばせ、その名は広まっていく。
我々、医療現場の職人、病理技師が作ったものは病理医の目にのみうつり、その後は誰の目にもうつらない。
それどころか、標本を作った事実も、我々の存在すらも知られることはないのだ。
病理医、病理技師の人数が減り続ける?
臨床検査技師は国内に597594人、医療従事者の中では人数は多い方だ。
しかし病理検査の仕事は、患者と接することがない裏方の仕事であることや、
キツイ、汚い、臭いの“3K”と言われる仕事内容(かなり環境も改善されてきた)であることから、臨床検査技師の中でも病理技師になる人は少ない。
宮大工や伝統工芸の職人の後継者問題が深刻化しているが、病理医、病理技師も団塊の世代が定年を迎える頃、一気に人数が減るだろう。
今後、高齢化社会が進み、病院にかかる人口も増えるだろう。
病気を患い、病理検査が必要となる人口も増えるだろう。
今でも、地方の病院などでは常勤の病理が不在であることが多いのだが、このままでは病理医不足による影響が大きくなるのは必然だ。
患者に接することは少ないが、病理医、病理技師は患者が適切な治療を受けられ、一人でも多くの患者の命を救うべく、正確な診断、そのための標本作りを日々おこなっている。