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日本が史上最多メダルも……東京五輪が飲食店を追い詰める4つの理由

東龍グルメジャーナリスト
(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

4度目の緊急事態宣言が延長に

2021年7月30日に菅義偉首相が、東京都や沖縄県に発出されていた緊急事態宣言の期間を8月22日から8月31日まで延長すると発表しました。あわせて埼玉県、千葉県、神奈川県、大阪府に対して、8月2日から31日まで緊急事態宣言を発出するとしています。

東京都に関していえば、2021年1月8日に2度目となる緊急事態宣言、4月12日からまん延防止等重点措置、4月25日から3度目の緊急事態宣言、6月21日からまん延防止等重点措置、7月12日から4回目の緊急事態宣言となりました。

これらの期間中、国や自治体が行う感染症対策は、飲食業界に対する施策が中心となっており、飲食店に対する時短営業、および、酒類提供の制限や禁止ばかり。東京都の飲食店は2020年11月28日からの時短営業要請からずっと非常事態のもとに置かれてきました。東京都の飲食店は実に8ヶ月以上もの長い間、営業を制限されてきたのです。

東京五輪が開幕

東京都に緊急事態宣言が発出され、飲食店の経営がより一層逼迫している一方で、大きな賑わいをみせているのが東京五輪。東京五輪の開会式は7月23日に開催されました。競技はそれよりも前の7月21日から開始されており、閉会式の当日8月8日まで続きます。

東京五輪は昨年の開催が1年延期となりましたが、新型コロナウイルスが猛威をふるう中で、本当に開催できるのかと危ぶまれていました。開催地の東京都は2020年末からずっと非常事態となっていたはずですが、気が付いてみれば、科学的な根拠や納得のいく説明もないまま、東京五輪が開始されています。

日本が史上最多のメダルを獲得しているのは非常に喜ばしいことです。ただ、飲食業界の関係者にとっては複雑な思いがあります。なぜならば、国や自治体は飲食店に理不尽なほど厳しい措置をとっていますが、東京五輪には呆れるくらい寛容で、納得いかないと感じているからです。

当記事では東京五輪が飲食店に及ぼしている好ましくない影響について述べていきます。

なお、アスリートを非難することは目的にしていません。私はアスリートをリスペクトしており、アスリートが真摯に打ち込む姿に感動や勇気をもらい、心を打たれることも多々あることを述べておきます。

ステイホームの呼びかけ

東京五輪中の人流が増加しているか、減少しているかについては、様々なデータや見方があるので、まだ判然としません。ただ、菅首相や小池百合子都知事がステイホームや外出自粛を呼びかけ、自宅での東京五輪観戦を強く勧めているのは紛れもない事実です。

菅首相 東京五輪「人流減っている。中止しない。テレビ観戦を」 | 毎日新聞

五輪中止の選択肢、首相「そうした心配はない」…東京の感染者増加受け : 政治 : ニュース : 読売新聞オンライン

令和3年7月27日 東京都の新規感染者数が過去最多となったこと等についての会見 | 令和3年 | 総理の演説・記者会見など | ニュース | 首相官邸ホームページ

五輪で人流減らず?小池知事「むしろ逆。ステイホーム率上げている」 東京のコロナ感染、過去最多3865人に:東京新聞 TOKYO Web

菅首相、五輪中止の選択肢「ない」 人流減を理由に - 東京オリンピック [新型コロナウイルス]:朝日新聞デジタル

ただでさえ飲食店は、酒類提供の制限やディナーの時短営業によって売上が減少しています。ここでさらに外出自粛が叫ばれてはたまりません。外食を控えようとする雰囲気が醸成されてしまい、飲食店に訪れる客がますます減る可能性があるからです。

協力金は、酒類提供の制限や時短営業を補償するものとして提供されています。これらに加えて外出しないようにもアナウンスするのであれば、協力金の金額を増額しなければ辻褄が合わないのではないでしょうか。

関係者の行動が悪い手本に

東京五輪関係者のマナーがよくないので、飲食店にも悪い影響を及ぼすのではないかと危惧しています。オリンピック委員会が開会式でマスクをしなかった人々を問題視しなかったり、関係者が選手村で路上飲みをして警察沙汰になったりと、プレイブックにも違反する行為が平然と行われています。

東京五輪という大きな舞台で、マスク着用を蔑ろにしたり、路上飲みを咎められなかったりすれば、飲食店に飛沫防止を求めたり、酒類提供を制限したりする正当性が失われてしまうでしょう。飲食店では推奨されている施策が、東京五輪では問題ないとされるのであれば、科学的な一貫性を失います。

国と自治体は、オリンピック委員会と同じではありません。しかし、東京五輪が行われているのは日本であり、東京都です。飲食店に求められていることが、東京五輪でも同じように求められないのであれば、政府や東京都の施策は自己矛盾をはらむことになります。

お祭りムードの弊害

東京五輪が開始されてから、テレビやインターネットでは東京五輪の話題で一色となっています。特に放送時間が決まっているテレビではその傾向が著しく、情報番組やワイドショー、さらには堅い報道番組でさえ、日本人アスリートの競技結果だけでは飽き足らず、東京五輪で起きた些末なことまでを面白おかしく取り上げ、無邪気に騒いでいます。

専門家ではないコメンテーターが一家言をもつことの是非はさておいて、テレビの出演者が視聴者に対して、国や自治体が行う新型コロナウイルスの対策について問題を喚起することは、問題が忘れ去られないという意味で非常に重要です。しかし、現在ではそれさえも機能していないように思います。

東京五輪の開始前であれば、テレビでは国や自治体の施策を精査したり、東京五輪の安全性を検証したりしていました。しかし東京五輪が始まった今では、アスリートのインタビューや密着取材に時間を割いており、新型コロナウイルスの施策について議論する時間がだいぶ減少したように思います。

本来であれば国や自治体の動きを監視するのが、メディアの責務。しかしそれが、東京五輪によるお祭りムードによってなおざりになるとすれば、東京五輪は感動よりも弊害をもたらすことになるのではないでしょうか。

そして、その弊害の主な対象となるのは施策のターゲットにされている飲食業界に他なりません。

2016年における全国の飲食店数は約45万店、飲食店の従事者数は約319万人にも上り(いずれとも総務省統計局から)、2019年における外食産業の市場規模は26兆円(日本フードサービス協会から)を誇ります。

日本の根幹産業のひとつである飲食業界が国や自治体の施策によって逼迫した状況に置かれていることを鑑みれば、メディアは、特に報道を自称するメディアであれば、飲食店に対する施策の効果について多くの時間を割くべきではないでしょうか。

東京五輪後のツケ

最も憂慮していることは東京五輪のツケを飲食店が支払わされることです。東京都における4度目の緊急事態宣言は7月12日から発出されているので、効果が現れるのは2週間後である7月26日くらいから。しかし、7月26日からはむしろ、新型コロナウイルスの感染が急拡大しています。

つまり、飲食店に対する時短営業や酒類提供の制限は効果がないことを意味しており、国や自治体による施策の無意味さを物語っているのです。

直近の8月2日における新規感染者数2195人のうち、感染経路が判明している795人の内訳は、家庭内が最も多くて468人、職場内が136人、施設内が48人、会食が43人。決して飲食店における会食が多いわけではありません。

新型コロナウイルスの新規感染者数は増加の一途を辿っており、菅首相が頼みとするワクチン接種も不確定要素に満たされています。

したがって、8月31日で終わりを迎える緊急事態宣言がさらに延長されたり、まん延防止等重点措置にスウィッチしたりする可能性は高いでしょう。そうなれば、引き続き飲食店に対する時短営業や酒類提供の制限が続くと考えられます。

帝国データバンクによれば、新型コロナウイルス関連による倒産で、業種別の最多は飲食店。

飲食店は苛烈な状況にさらされているだけに、東京五輪のツケまで負わされるのであれば、国や自治体はより手厚い協力金や補償を打ち出すべきです。

国や自治体への不信感

国や自体は東京五輪の開催に向けてアクセルを思い切り踏みしめながら、国民には自粛を呼びかけるというブレーキを同時に踏んでいます。これでは国民はどうすればよいのかわかりません。態度やメッセージに説得力や一貫性がないので、国民は国や自治体に対して信用や信頼がもてるはずがないでしょう。

菅首相は安全で安心の東京五輪を開催すると述べました。しかし、感染が爆発したり、飲食店に対する規制を強めたりすることが、安全で安心なのでしょうか。

全力を尽くし、感動を与えてくれているアスリートには何の罪もありません。それだけに、東京五輪にまつわる国や自治体の施策や態度には憤りすら覚えるところです。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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