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選挙速報はネットで百花繚乱。池上彰氏の向こうを張ったのは、北海道文化放送だった。

境治コピーライター/メディアコンサルタント
UHB北海道文化放送のネット配信ページより

選挙速報は、ネットでも百花繚乱

7月10日の参議院選挙では、午後8時以降、各テレビ局が速報番組で趣向を凝らした。ここ数年は、テレビ東京で池上彰氏が切っ先するどい質問を政治家に浴びせる手法が話題と人気を呼んでいた。

今回の選挙では、テレビ局、もしくはネットの映像配信サービスがそれぞれ、ネット上で独自の速報番組を送信した。その有り様はまさに百花繚乱。それぞれのサービスが様々に展開していた。

このところ何かと話題のテレビ朝日とサイバーエージェントのAbemaTVは『みのもんたの よるバズ』を選挙特番として配信した。テレビでは『秘密のケンミンSHOW』以外で見かけなくなったみの氏が、久々に『あさズバ』調のトークで番組を進行した。

⇒AbemaTV

フジテレビのネット専門メディア「ホウドウキョク」では『みんなの選挙×ホウドウキョク』の冠で、地上波の選挙速報番組とも時折交錯しながら古市憲寿氏と大島由香里氏をキャスターに番組を進行。津田大介氏や佐々木俊尚氏も参加し熱いディスカッションも展開した。

⇒ホウドウキョク

TBSはCSのニュースチャンネル・ニュースバードによるネット専用LIVE特番を配信した。地上波放送とは別に、JNN各局からの情報を収集し活用していた。

⇒選挙スタジアムネット専用特番

NHKは同時再送信、つまり地上波テレビで放送しているのと同じ内容をネットで配信した。これは首都圏で放送している内容だ。NHKのテレビ放送は時間により各地で独自の速報番組を流すのだが、ローカル版をテレビで見ながら全国版をネットで見ることもでき、多面的な視聴が楽しめた。

⇒NHK NEWS WEB 

ネット独自の映像配信サービスも速報番組に取り組んだ。LINE LIVEとニコニコ生放送が共同で開票特番を配信。角谷浩一氏をキャスターに、夏野剛氏やひろゆき氏などを配し、ネットらしい選挙速報を繰り広げた。

⇒niconico×LINE LIVE【参院選2016】開票特番

UHB北海道文化放送が配信した、驚くべきネット速報

こうした多彩な選挙速報をネット上で見ていくうち、独自にネット専用特番を配信するローカル局があることに気づいた。UHB北海道文化放送、フジテレビ系列の北海道ローカル局だ。なんとなく見はじめたら、思いもよらない切り込んだ内容に驚かされた。

⇒UHB北海道文化放送のネットLIVE配信ページ

UHBのアナウンサーや解説委員に加えて、北海道のアイドル・フルーティの二人もスタジオにいて若者の意見を代弁した。そして途中で様々なコーナーが織り込まれるのだが、それがすごい。

例えば、諸派候補・佐藤和夫氏の自宅にアポなしで訪問し、選挙運動の苦労や落選の感想を聞くのだ。どこか、盲点を突かれたような気分だ。これまで選挙報道で、大きな政党に属さず著名人でもない候補にちゃんと話を聞いたものはなかったのではないだろうか。佐藤氏が、組織の助けなしで広い北海道で運動する苦労を切々と語る様子は、惹きつけられるものがあった。それにそれを突然自宅に押しかけて半ば強引に取材する。『電波少年』以来のハラハラ感を久しぶりに感じた。

また、選挙演説がうるさいと感じたことは誰しもあるだろう。そこで主要候補の演説を騒音測定器で測り、誰がいちばんうるさいかをレポートしていた。選挙速報としてはほぼ意味がないが、面白い。

こうした型破りなコーナーが次々に展開される。先述の佐藤氏のレポートなどを現場から届けたのは、UHBの名物ディレクターだという、こいで昌範氏。番組が終わる頃には、こいで氏はすっかり視聴者の人気者になり、twitter上では「こいでさん面白すぎる」「こいでさん無双」などとはやし立てられていた。

地上波テレビでは今回も、テレビ東京での池上彰氏の遠慮会釈のない切り込み方がするどかったが、UHBネット特番の”こいでさん”も、それと並びうる無双ぶりだった。

テレビとネットの錯綜が、映像文化を豊かにする可能性

地上波テレビ局はいま、ネットの活用に足を踏み入れている。一方ネット生まれの映像配信サービスもいよいよ活発になり番組の質も高めてきている。テレビとネットの境目がなくなることで、互いに刺激しあい、映像文化全体が新しい価値を持とうとしている。そのことが、今回の参議院選挙でも際立っていたと思う。

そしてそこで大事なのは、自由な表現を楽しみ、何がどこまでやれるか挑むことだ。UHBの”こいでさん”が、小さな画面の中でのびのびふるまうことで視聴者達に親しまれたのも、彼がネット配信の中に”自由”を見出したからではないかと思う。長年テレビの枠の中で自分をしばってきた表現者としてのタガを、ネットならはずしていいことに気づいたのかもしれない。テレビはネットに入り込むことで自由になれるのだ。それによって、テレビが再び生き生きし、ネットが活性化するのなら、視聴者にとっても楽しいはずだ。今後の選挙でも、こうしたテレビとネットが交錯する取組みに注目したい。

コピーライター/メディアコンサルタント

1962年福岡市生まれ。東京大学卒業後、広告会社I&Sに入社しコピーライターになり、93年からフリーランスとして活動。その後、映像制作会社ロボット、ビデオプロモーションに勤務したのち、2013年から再びフリーランスとなり、メディアコンサルタントとして活動中。有料マガジン「テレビとネットの横断業界誌 MediaBorder」発行。著書「拡張するテレビ-広告と動画とコンテンツビジネスの未来」宣伝会議社刊 「爆発的ヒットは”想い”から生まれる」大和書房刊 新著「嫌われモノの広告は再生するか」イーストプレス刊 TVメタデータを作成する株式会社エム・データ顧問研究員

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