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飲食店にとっては意味がない! 国による協力金の先払いが単なるパフォーマンスだという理由

東龍グルメジャーナリスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

全国各地が非常事態に

新型コロナウイルスの新規感染者数が増加の一途を辿っており、先行きが全くみえません。東京都、沖縄県、埼玉県、千葉県、神奈川県、大阪府は緊急事態宣言の期間が2021年8月31日まで。北海道、石川県、京都府、兵庫県、福岡県、福島県、茨城県、栃木県、群馬県、静岡県、愛知県、滋賀県、熊本県には、まん延防止等重点措置が8月31日まで発出されています。

東京都は今年に入ってからずっと厳しい状況に置かれており、1月8日に2度目となる緊急事態宣言、4月12日からまん延防止等重点措置、4月25日から3度目の緊急事態宣言、6月21日からまん延防止等重点措置、7月12日から4回目の緊急事態宣言となりました。4回目の緊急事態宣言は2度も延長となり、前述したように8月31日までとなっています。

飲食店に対して協力金の先払い

東京都の飲食店はこの間、時短営業や酒類提供の制限や禁止を要請されており、当然のことながら売上が大きく減少。帝国データバンクによれば、新型コロナウイルス関連による倒産で、業種別の最多は飲食店となっています。

国や自治体の要請に従う飲食店に対して支払われているのが協力金。しかし、長引く要請や宴会および会食の自粛から、飲食業界はますます厳しい経営状況に陥っています。そこで持ち上がったのが協力金の早期支給、つまり協力金の先払いでした。

協力金の支払い遅延への批判が多かったので、国が改善策を提示。過去に支給を受けた飲食店は審査を簡略化し、酒類を提供しないと誓約書を提出することを条件に、先行して協力金を支払うことになったのです。

協力金を早く支払ってもらうことは、飲食店にとって喜ばしいことです。しかし、私が見聞きしたところでは、飲食業界の早期支給に対する反応は思いのほか好ましくありません。本当に支援となるのかよくわからず、関心が高くないのです。

以前の記事でも指摘したように、この施策にはいくつか疑問が付されます。その理由について述べていきましょう。

東京都における協力金の状況について

始めに、東京都における協力金の状況について確認していきたいと思います。

8月5日時点でのデータをもとにすれば、次の通りです。処理の完了とは、対象外を含む書類審査の完了を意味しており、その後ほぼ1週間で協力金が支給される予定となっています。

緊急事態宣言の期間中における3月8日から3月31日実施分については、事業者数74,600の98%、店舗数104,500の97%が処理を完了し、支給額は1,222億円。計算すると1店舗あたり約120.5万円。申請受付期間は4月30日から5月31日。

緊急事態宣言の期間中における4月1日から4月11日実施分については、事業者数70,200の96%、店舗数97,400の89%が処理を完了し、支給額が368億円。計算すると1店舗あたり約42.5万円。申請受付期間は5月31日から6月30日。

緊急事態宣言とまん延防止等重点措置の期間中における4月12日から5月11日実施分については、事業者数70,300の61%、店舗数94,800の50%が処理を完了し、支給額が519億円。計算すると1店舗あたり約108.5万円。申請受付期間は6月30日から7月30日が、延長されて8月20日まで。

緊急事態宣言の期間中における5月12日から5月31日実施分については、事業者数33,800の50%、店舗数43,400の42%が処理を完了し、支給額は49億円。計算すると1店舗あたり約26.7万円。申請受付期間は7月26日から8月31日。

緊急事態宣言の期間中における6月1日から6月20日実施分については、事業者数32,600の24%、店舗数41,100の21%が処理を完了し、支給額が2億円。計算すると1店舗あたり約2.3万円。申請受付期間は7月26日から8月31日。処理完了から支給までには1週間のタイムラグがあるので支給額や1店舗あたりの金額が少なくなっているのでしょう。

まん延防止等重点措置の期間中における6月21日から7月11日実施分については、申請受付がまだ開始されていません。申請受付期間は8月18日から9月17日。

緊急事態宣言の期間中における7月12日から8月22日実施分の早期支給分については、事業者数28,200の96%が処理を完了し、支給額は228億円。計算すると1事業者数あたり約84.4万円。申請受付期間は7月19日から8月6日。事業者数はでていますが、店舗数は公表されていません。これまでの数字から推測するに、店舗数はおそらく36,000前後ではないでしょうか。

以上が記事執筆時点での状況ですが、いくつか補足も加えておきます。

緊急事態宣言とまん延防止等重点措置とでは協力金の金額に違いがあり、前者の方が多額です。申請は事業者単位で行われますが、全ての店舗に共通する申請者情報の他に、店舗ごとの書類も必要。

また、1事業者あたりの平均処理日数は、1月8日から2月7日実施分の24.6日から、4月1日から4月11日実施分の5.4日へとだいぶ改善されています。

早期支給分の対象が複雑

早期支給分の対象となっているのは、7月12日から8月22日実施分についてであり、支給対象は以下全てに該当する事業者のみ。

・中小事業者(中小企業及び個人事業主等)

・過去実施分の協力金について受給実績のある方

・本申請を売上高方式で申請される方

「営業時間短縮等に係る感染拡大防止協力金(7/12~8/22実施分)」早期支給分について(東京都産業労働局)

早期支給分は1日あたり4万円まで、かつ、実施期間の前半となる4週間28日分のみなので、総額112万円。残りの日数における支給分は、この後に開始される本申請を通して支給されます。

もしも売上高が1日10万円を超える場合には、協力金が1日あたり4万円を超えることになりますが、その場合も差額分は本申請で支給。

申請方式は売上高方式だけであり、売上高減少方式は適用できません。前者の上限額は10万円であり、後者の上限額は20万円。売上高減少方式は売上が激減した場合に用いられるものであり、そのため売上高方式よりも上限額が大きくなっています。

対象から大企業が除外されていたり、売上高方式に限定されていたり、早期支給金額が半端であったり、残り分は本申請で申請しなければならなかったりと非常に半端な印象。

しかも、本申請については申請受付開始日など、詳細がまだ公表されていません。さらには、8月23日から8月31日実施分はこれとは別になっています。

これだけややこしいとハードルが高く、気軽に申請できません。オペレーションも複雑になり、支給速度に影響が現れるのではないでしょうか。

申請期間が短い

申請受付期間7月19日から8月6日であり、既に終了しています。通常であれば申請期間は1ヶ月程度あることを考えれば、期間は10日間程度短いです。

これまでは実施期間の終了日から40日後くらいに申請が開始されています。したがって、早期支給の対象となる7月12日から8月22日実施分における本申請の開始は、おそらく9月末になるでしょう。

本申請の開始が2ヶ月後くらいになるのであれば、早期支給の申請期間はもっと長くてもよかったと思います。経営が大変な飲食店のために少しでも早く協力金を支給したいという割には、申請受付期間は短かった印象です。

期間の短さや先に述べた複雑さが影響してか、申請した事業者は多くありません。早期支給に申請した事業者数は28,200ですが、通常の申請であれば事業者数は70,000程度なので、これをもとにすれば6割も申請していないことになります。大企業は早期支給を申請できませんが、飲食業界では大企業はほんの一握りなので、この割合にほとんど影響を及ぼしません。

つまり、多くの飲食店は早期支給に申請していないのです。

過去の支給状況が芳しくない

早期支給は飲食店にとっては基本的には喜ばしい施策です。しかし、それはあくまでも、これまでの協力金の支給が順調であることが大前提。

なぜなら、もしもそうでなければ、先に支給するべき協力金を後回しにして、7月12日から8月22日実施分を先に支給しただけになるからです。協力金を支給する順番を入れ替えただけでは意味がありません。

過去の支給状況を改めて振り返ってみましょう。

処理が完了した店舗数を見ていくと、4月12日から5月11日実施分は50%、5月12日から5月31日実施分は42%、6月1日から6月20日実施分が21%。半分も処理が完了していません。

加えて気になっているのは、申請数が少ないこと。申請されている店舗数は、5月12日から5月31日実施分が43,400、6月1日から6月20日実施分が41,100と、それ以前の店舗数70,000程度に比べると少ないです。つまり、これから申請が増えていくということなので、現時点における処理完了の割合は実質的にもっと低いと考えてよいでしょう。

さらには、6月21日から7月11日実施分に至っては、まだ申請受付すら開始されていません。

4月12日以降実施分が処理完了に程遠い状況であるにもかかわらず、直近の7月12日から8月22日実施分が優先され、しかも、全42日のうちの28日だけを先に支給するのは、非常に妙な施策であると感じられます。

早期支給の意味

なぜ早期支給のようなあまり効果のなさそうな施策が行われるのでしょう。

それは、国や自治体が飲食業界のことを考えているというポーズをとるためだけのパフォーマンスだからではないでしょうか。

飲食店のことを思いやっているように見せながら、締め付けは厳しくさせる一方。

人的リソースに余裕があるのならば、経営が苦しく、要請に従えない飲食店を吊るし上げるのではなく、協力金の支給業務に人員を割いた方がよいのではないでしょうか。

申請をより手厚くサポートしたり、申請内容を早くチェックしたりして、1日でも早く、1事業者、1店舗でも多く、処理を完了させられるように尽力するべきです。

迅速に協力金が支給されるのであれば、要請に従う飲食店が増えるのは間違いありません。国や自治体には、パフォーマンスではなく、しっかりと効果がある施策を行ってもらいたいです。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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