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派遣、シングル女性、兄弟ありの老後が危うい

山崎俊輔フィナンシャル・ウィズダム代表/お金と幸せについて考えるFP
「派遣独身女性兄あり」の老後に不安あり(写真:アフロ)

老後が危ないキーワード「派遣独身女性兄あり」?

年金破産とか下流老人というキーワードが市民権を得つつありますが、実は結婚していて普通に厚生年金をもらえる今の年金生活者(現役時代は会社員だった)は、家計の見直しをすれば破産リスクはそれほど高くありません。

これからやってくる老後を見据えても、共働き正社員夫婦や、どちらかが正社員で働いている夫婦については破産リスクがあるほど危機的ではありません。

むしろ、老後がきわめて危ういと考えているのは

「派遣×独身女性×兄あり」

だと思っています。私はできるだけ余裕のある老後を迎えてもらうために、今何をして欲しいかを話したり書く仕事ですが、言い換えれば「老後が危うくなるキーワード」も知っているということです。

雑誌の取材やネット記事の取材で、老後不安を解消するためのいろんな対策を紹介しているのですが、実はなかなか解消困難なケースである「派遣×独身女性×兄あり」についてはなかなか触れる機会がありませんでした。

NHKの「クローズアップ現代」がなかなか取材に来てくれないので、今回はYahoo!ニュース(個人)でこのテーマを取り上げてみたいと思います。

老後が危なくなる大きな条件、それは「厚生年金適用なし、退職金なし、親の家の相続チャンスなし」

老後の家計が苦しくなる条件をいくつかあげてみます。以下の項目の半分以上が該当する場合、老後のマネープランには赤信号がついていることになります。

厚生年金適用なし……あなたの働き方が、厚生年金を適用されているかいないかは、将来の年金受取額を決定的に変えます。国民年金だけだと月6万円程度のものが、厚生年金にも加入していると月12~16万円くらいにはなるからです。最近では派遣社員は厚生年金適用をすることも増えていますが、非正規の働き方には注意が必要です。

昇格昇給の余地がない……なかなか給料が増えない世の中であるといっても、正社員とそれ以外の雇用形態ではじわじわその差が開いていきます。アルバイトやパートは年齢と年収の関係がほとんどなく、年を取ったからといって時給は増えません。派遣も数年ごとに違う会社に移り続けて同じ仕事をしている限り、なかなか年収は増えません。正社員だと年齢給の仕組みがあればじりじり年収が増えていくことになりますし、昇格があるとさらに年収が増えていくことになります。

ボーナスがない……ボーナスの有無は長い目でみて大きな経済格差を生み出します。ボーナスは一般に正社員にのみ支給されますが、給料は違いがないと思っていても、2カ月分の給与を年2回もらうだけで正社員は年収ベースで33%も年収が多いことになります。長い目で見ればさらに大きな違いになります。

退職金がない……正社員のメリットはまだあって、退職金制度があることもそのひとつです。退職金制度も一般には正社員にのみ適用される仕組みです。会社にもよりますが、シンプルな制度設計では1年働くごとに1月分の給料分くらいをもらう仕組みとイメージしてみてください。60歳のとき、500~1000万円くらいもらえる金額が違ってくる(派遣や非正規だともらえない)としたらどうでしょうか。

シングルである……共働きである、ということは目の前の家計のやりくりをふたつの収入でやりくりできることです。一人暮らしより二人の生活のほうが生活コストは割安(2倍にはならないという意味で)です。また退職金をふたつ、厚生年金をふたつもらえるとこれだけで老後のお金の準備もかなりはかどっていることになります。シングルの場合そうはいきません。

親の家が相続でもらえない……「家」をどうするかという問題も深刻です。死ぬまで賃貸で行こうとするとこれは老後の必要予算が大きく膨らみます。しかし兄弟姉妹(特に兄と弟)がいて、実家に暮らし結婚もしている場合、老後に親の家に転がり込むという選択肢が使えなくなります。つまり家を買わなければならないということです。派遣だからと家を買わないでいると老後に困ることになります。

○首都圏暮らしである……同じお金があっても物価が高いエリアに生きていくことで貯金する余裕もなくなり、また老後の生活費も高くなります。その点では首都圏暮らしは地方に暮らすことと比べてリスクの高い環境といえます。

このピンチについて対策はあるのか

この問題は働き方と家族環境(兄弟)などが実は老後に大きな影響を与えることを示しています。実は老後の破たんリスクは国の年金の破たんではなく、自分自身の環境にあるのです。

そこでいくつかの対策は提示してみたいと思います。

対策1:正社員登用はあきらめない……もっとも効果的な対策は「厚生年金適用」「退職金の権利獲得」を手に入れる方法です。つまり正社員として働くことになります。今、正社員の有効求人倍率は過去にないほど高まっており、チャンスが増えています。今まで諦めていた人ほど再チャレンジしてみるべきです。あなたと同じ仕事をしていて正社員の人ってたくさんいるはずです。次はあなたも正社員になるのです。

対策2:結婚を考える(してもいいと思うなら)……結婚をしたくない人はしなければいい、というのが私の考えの基本ですが、本当はしたい人、してもいいと思っている人はシングルでいるより誰かと共同生活をすることでマネープランは大きく改善します。無理に自分をつくろわず、身の丈にあったパートナーを探してみてください。

対策3:首都圏から離れて生活コストを下げる(少なくとも東京なら23区外に出る)……収支のうち支出を減らすこともマネープランを大きく改善する方法のひとつですが、その点では生活コストの低いところに住み替えることは効果的です。家賃に始まり、食費やその他の支出が下がるほど貯蓄余力が増えることになるからです。東京なら23区内から飛び出してみると、案外落ち着いた環境が低コストで確保できたりします。

対策4:仲の良い友人がいるなら老後はハウスシェアも視野に入れる……もしあなたに親友があって、ふたりともお一人様なら将来のシェアハウスを本気で考えてみてもいいかもしれません。生活コストが大きく下がるチャンスだからです(ちなみにこの対策は男性にはなかなかお勧めできません。女性だと60歳ふたりのシェアハウスは「仲良し」という感じがするのに60歳の男性友人ふたりのシェアハウスはなかなか周囲に理解されにくいからです)。

対策5:相続のときはしっかり財産を分与してもらう……親の住んでいた不動産は物理的に分割できませんが、そこに長男夫婦が暮らしている場合、相続時には金銭的に財産を分けてもらうことで、自分の家を買う予算確保になります。ただし親の介護等の面倒を任せていた場合、相続額が下がることがありますし、親と死別するのが自分が65歳以降もよくある時代には遅すぎる財産になってしまいます。

――ここにあげたすべての対策をクリアする必要はありません。しかしふたつでも実現できれば、老後の不安はずいぶん解消されることになるはずです。

フィナンシャル・ウィズダム代表/お金と幸せについて考えるFP

フィナンシャル・ウィズダム代表。お金と幸せについてまじめに考えるファイナンシャル・プランナー。「お金の知恵」を持つことが個人を守る力になると考え、投資教育家/年金教育家として執筆・講演を行っている。日経新聞電子版にて「人生を変えるマネーハック」を好評連載中のほかPRESIDENTオンライン、東洋経済オンラインなどWEB連載は14本。近著に「『もっと早く教えてくれよ』と叫ぶお金の増やし方」「共働き夫婦お金の教科書」がある。Youtube「シャープなこんにゃくチャンネル」 https://www.youtube.com/@FPyam

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