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iDeCoの壁を撃破! 月7000円拡大どころか多くの人が実は倍増 へ 税制改正大綱最速解説

山崎俊輔フィナンシャル・ウィズダム代表/お金と幸せについて考えるFP
画像は筆者がAdobe Fireflyで作成した大改正のイメージ

YouTubeチャンネルでも動画解説しています。サムネは記事ラストにあります

令和7年度税制改正大綱示され、iDeCoも大幅拡充へ

岸田内閣の「資産所得倍増プラン」にはNISAに次ぐ第2の柱としてiDeCoの改革も含まれていました。拠出限度額の引き上げと70歳まで積立期間を延長する考えが示されていました。

これについて令和7年度の税制改正大綱がどう反映させるかが注目されていましたが先ほど公開された税制改正大綱(令和7年度自民党税制改正大綱へのリンク)において、iDeCoの拡充が示されましたのでポイント解説をします。

正直、「思った以上の大幅拡充」です。ニュースでは「月7000円の引き上げ」と先行情報が出ていましたが、正確に読み解くと全体の枠が7000円アップですが、iDeCoの利用枠が大幅に拡充されることになったからです。

全体として非課税枠が7000円拡充だが、iDeCo枠はそれ以上に大幅拡充

まず、基本的な理解としては「月7000円の枠拡大」ということになります。これは企業年金も含めた会社員の非課税枠合計を月55000円から月62000円にするというものです。

豊かな老後生活に向けて、公的年金を補完し、老後に向けた資産形成を支援するという私的年金の役割を踏まえ、賃金上昇の状況を勘案し、確定拠出年金の拠出限度額について7,000円の引上げを行う。(自民党 令和7年度税制改正大綱より)

しかし、もっと驚きだったのが「iDeCoの壁」を取り払うことです。そもそもの非課税枠が月55000円ありながら、iDeCoでは月20000円(企業年金あり会社員や公務員)、月23000円(企業年金なし会社員)のようにあえて小さくしていました。今回、この壁が払われることになります。

勤務先の企業が企業年金を設けているかどうか、企業年金の形態がどうであるかといった違いにかかわらず、継続的に、かつ、平等に資産形成をできる環境の整備を進めるため、iDeCoの拠出限度額について、「穴埋め型」による引上げを行う。(自民党 令和7年度税制改正大綱より)

実はこちらのほうが驚きの文言で、「7000円引上げ」以上のインパクトが生まれます。これを踏まえると以下のように枠が拡充されることになります。

※ ※ 税制改正大綱を初読した速報なので、私の誤解、あるいは法案作成時の変更がありえますことご承知ください ※ ※

会社員(企業年金あり)、公務員

 iDeCoの現状月20000円 →最大月62000円

 ※企業年金等がある場合、その枠が先に用いられ、残りがiDeCo枠となる。多くの場合月20000円より枠が広がる。公務員の場合は企業年金等の水準を月8000円と公示されているので、月54000円になると思われる。確定給付企業年金をもつ会社員も、ほとんどが同程度に拡充されると思われる。

会社員(企業年金なし) 

 iDeCoの現状月23000円 →月62000円

 ※こちらは企業年金がないので全員が枠の大幅拡充となり、倍増以上の規制緩和となる。ここでいう「企業年金なし」に退職一時金や中小企業退職金共済制度は含まれない。

自営業者等

 iDeCoの現状月68000円 →月75000円

 ※厚生年金に加入していない分もともと枠が大きいが、さらに7000円アップとなる。なお、国民年金基金、国民年金の付加年金保険料がある場合はそれらの掛金が枠を優先して用い、iDeCoは差額となる。

専業主婦等(第3号被保険者)

 iDeCoの現状月23000円 →現行まま?

 ※国民年金の第3号被保険者については税制改正大綱に指摘がなく、現状のままかもしれない。

全体の枠が広がったことはもちろん、iDeCoの上限規制が取り払われ、利用範囲が広がったことに大きな意義がある税制改正大綱です。

例えば企業年金のない会社員の場合、月55000円の枠があってもiDeCoでは月23000円しか使えないとしていました。企業年金がない分、自助で備えるべき枠が大きいと考えられますが、使い残し枠が月32000円もあったわけです。今回は総枠を引き上げるだけでなく、月62000円の枠をすべて使えることになります。まさに大幅拡充です。これはよい方向感でしょう。

少しややこしいのは企業年金ありの会社員です。「確定給付企業年金」もしくは「企業型の確定拠出年金」がある場合、それぞれの掛金額が先行して月62000円の非課税枠を用い、残りの差額をiDeCoが使える格好になります。とはいえ、ほとんどの人はiDeCo枠拡充(しかも大幅!)となるはずです。

企業年金制度にも拡充の影響及ぶ

もうひとつ指摘しておきたいのは、企業年金制度の設計にも好影響を及ぼすということです。現状では「月55000円」の総枠を(1)確定給付企業年金、(2)企業型の確定拠出年金、(3)iDeCoがシェアするという仕組みで、(1)と(2)が多い場合はiDeCo枠が縮小するという弊害もありました

また、「社員のために、と会社が思いやって、企業年金を2制度用意して水準を充実させると、上限に引っかかる」というのはちょっとおかしな話です。まず(1)の確定給付企業年金が手厚い場合には(2)の企業型の確定拠出年金の上限がしわよせとなります。しかも(1)は会社全体として1つの数字を使い、(2)は個人の掛金の数字を使うというちぐはぐなところもあります。

また、(1)と(2)が月35000円を超えると社員が利用できるiDeCoの枠が月20000円から縮小し始め、会社の制度が月50000円以上あるとiDeCoには入れなくなります(iDeCoは最低月5000円のため)。

会社の制度が充実しているなら、iDeCoに入れなくてもいいじゃないか、という考え方もありますが、これでは企業が自由な制度設計を行う制約となってしまいます。「物価も上がってるし、退職金の充実も考えようか」というような超ホワイト企業も手を止めてしまうでしょう。

これについて、総枠そのものが月62000円となることで、企業の制度設計の自由度が増し、またiDeCoの利用枠が20000円より減っていた人にも枠が復活することになります。これもいい改正の方向と考えられます。

法成立から施行準備を考えると早くても2026年あるいは2027年か

さて、法改正の実施時期ですが、そうすぐとはいかないでしょう。2025年の年初に法案提出、通常国会で改正法案が成立したとして、そこから施行の準備になります。

iDeCoは個人の所得税(1~12月で区切る)に関係することから、最短では2026年1月からということになります。しかし、法施行の準備期間、システム改修の対応としてはちょっと短く、施行が間に合うか疑問です。

私の予想では2027年1月からと考えます(もし2026年1月からとなったら、システム対応にがんばった現場を褒めてあげてください)。

最悪の場合は、2028年1月に遅れることになりますが、これはちょっと遅すぎます。企業年金ネットワークなどのシステムはある程度整っていますから、ここまで遅いことはたぶんないと思います。

仮に2026年としてもちょっと時間がかかります。しかし、長い目で見ればiDeCoの大幅拡充の実現であり、また資産所得倍増プランの積み残し懸案がしっかり形になったことになります。実現に向けて様子を見ていきたいところです。

フィナンシャル・ウィズダム代表/お金と幸せについて考えるFP

フィナンシャル・ウィズダム代表。お金と幸せについてまじめに考えるファイナンシャル・プランナー。「お金の知恵」を持つことが個人を守る力になると考え、投資教育家/年金教育家として執筆・講演を行っている。日経新聞電子版にて「人生を変えるマネーハック」を好評連載中のほかPRESIDENTオンライン、東洋経済オンラインなどWEB連載は14本。近著に「『もっと早く教えてくれよ』と叫ぶお金の増やし方」「共働き夫婦お金の教科書」がある。Youtube「シャープなこんにゃくチャンネル」 https://www.youtube.com/@FPyam

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