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アンバー・ハード、公共広告でDVを語る。このせいでジョニーからもらえるお金はどうなるのか?

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
アンバー・ハードは、公共広告でDVに苦しむ女性たちに語りかけた(写真:REX FEATURES/アフロ)

せっかく落ち着いたジョニー・デップとアンバー・ハードの離婚騒動が、ハードのせいで、また蒸し返されるかもしれない。米西海岸時間25日(金)、ハードは、公共広告ビデオに出演し、DVに苦しむ女性たちに「立ち上がろう」と訴えたのだ。

自宅で撮影されたと思われるこの2分ほどのビデオで、ハードは、デップの名前を一度も出してはいない。しかし、「私は、それを、公が見つめる中で体験したの。だから、私は、ほかの女性たちに訴えかけることができる、特殊な立場にいるのよ」などと言っていることから、彼女が意味するDVの相手が誰なのかを察するのは容易である。ほかに、ハードは、「どうしてこんなことが私に起こってしまったの?私は強くて、頭が良いのに」「DVという言葉には、恥がつきまとう。でも、扉の閉められた家の中で起こる時、(DVを行った相手は)、知らない人になっているのよ。私も、そう言われたわ。それをやった人は、その時、知らない誰かになっているの」「私には、信頼できる何人かの女友達がいた。その人たちがいなかったら、私の人生はどう違っていたことかしら」などとも、時に涙声になりつつ、語っている。最後は、メディアがDVについて語ることや、被害に遭っている女性たちが声を上げることの重要さを強調して締めくくっている。

ハードは、2009年、DVの加害者として逮捕された過去があるのだが(http://bylines.news.yahoo.co.jp/saruwatariyuki/20160608-00058588/)、それはさておき、気になるのは、このビデオのせいで、彼女はデップからもらえるはずのお金を反故にしたのではないかということである。

今年8月に双方が合意した離婚条件で、ハードはデップから700万ドルの支払いを受けることになっている。離婚条件で揉めていた時、ハード側は、デップがDVを行っていたことを認めるよう主張したが、デップは断じてそれを拒否し、離婚条件成立時に出された声明では、「(私たちはどちらも)金銭的な利益が目的で嘘の責め立てをしたりしていません。また、故意に、肉体的、あるいは感情的に、お互いを傷つけようとしたことはありません」という、曖昧な説明がなされただけだった。

デップが雇ったハリウッドきってのスーパー離婚弁護士ローラ・ワッサーが、700万ドルの支払い条件のひとつとして、今後いっさい彼に関するDVについて語ってはならないという秘密保持の約束を取り付けたのは、ほぼ疑いの余地がない(前の記事でも述べたが、カリフォルニアには離婚において‘慰謝料’、つまり、悪かったほう、離婚の原因を作ったほうが払うという法律はなく、収入の高いほうが低いほうに対して払う。つまりこの700万ドルは、デップが悪かったことを認めるものではない)。それなのに、ここでこんな発言をしてしまったところを見ると、ハードは、メル・ギブソンの元恋人オクサナ・グリゴリエヴァの失敗例を知らないのかと思えてくる。

ギブソンとの間に娘を授かったものの、破局し、DVを持ち出して、ギブソンから75万ドルをもらえる約束を取り付けたグリゴリエヴァだが、支払い条件の中には、DVに関することを今後いっさいしゃべらないという秘密保持の約束が含まれていた。にも関わらず、彼女は、2013年、毒舌で有名なハワード・スターンのラジオ番組に出演。スターンが、ネットに流出したギブソンによる暴言録音テープに触れ、「最も狂った録音テープだよね。(あの音声を)1日50回くらい聞いたよ。女性をあんなふうに扱うなんて、信じられない。それも、自分の子供の母親を」「僕はずっと君の味方だ」と言う中、グリゴリエヴァは、静かに微笑みつつ「言葉になりません」と言うくらいで、ほぼ何も発言しなかった。

しかし、ギブソンはこのインタビューが約束に違反すると彼女を訴訟。裁判所は彼の言い分を認め、3回に分けて支払われる予定だったお金のうち、まだ支払われていなかった2回目と3回目は払わなくてよいとの判決を出している。このインタビューで彼女はギブソンの名前を出してはいないし、自分から彼によるDVについて語ってはいないものの、スターンによる「君が耐えてきたこと」などというコメントに乗っかるのは、実際にDVがあったことを示唆する行為だというのが、判決の理由だった。

ハードの場合は、グリゴリエヴァよりずっとあからさまなことを言っている。また、最近、彼女は、未公開映画「London Fields」のプロデューサーから、1,000万ドルの訴訟を起こされたばかりだ(http://bylines.news.yahoo.co.jp/saruwatariyuki/20161122-00064705/)。これらのことが、本業であるはずの女優業にどのような影響を与えるのかも、注目されるところである。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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