アマゾンを追う楽天・郵政とヤフー・ヤマト EC物流は三つ巴の新たな競争に突入
3月12日に日本郵政グループと楽天グループが資本・業務提携を発表。資本提携では日本郵政が楽天に1500億円を出資して8.32%の株式を保有する。業務提携は物流、モバイル、DX(デジタルトランスフォーメーション)、金融、ECなど多岐にわたる。郵政グループの日本郵便と楽天は昨年12月に、物流領域における戦略的提携に向けて基本合意をしていた。今回は総合的な分野にまで提携を拡大したものだが、ここでは物流分野の提携だけを採り上げる。
一方、ネット通販大手のヤフー(Zホールディングス)も1年前の昨年3月にヤマト運輸(ヤマトホールディングス)と業務提携で基本合意し、同年6月から「Yahoo!ショッピング」「PayPayモール」の出店ストア向けに、ヤマトグループの施設を活用してフルフィルメントサービスを提供してきた。さらに今年3月10日にはフルフィルメントサービスのリニューアルとサイズ別の全国一律配送料金の提供を発表した。
EC物流体制の構築では単独で先行するアマゾンに対して、楽天とヤフーがいずれも宅配便大手事業者とのアライアンスで対抗するという構図になってきた。
アマゾンは物流に対するプライオリティが高く、独自の物流体制の構築で物流自体を事業化し、自社の配送コストの逓減も図る
国内のネット通販大手の中でアマゾンは常にEC物流をリードしてきた。世界各国のアマゾンの中でもアマゾンジャパンは宅配の最先端だった。それは、アマゾンが日本に進出した時点で、すでに日本では宅配便が発達しており、離島など一部の地域を除いて翌日配送がスタンダードになっていたからだ。さらにアマゾンは、受注から宅配完了までのリードタイムの短縮を常にけん引してきた。それに対して楽天やヤフーは物流面で後塵を拝してきたことは否定できない。
それはなぜか。第1には物流に対するプライオリティの違いである。拙著「ネット通販と当日配送~BtoC-ECが日本の物流を変える」(2014年・白桃書房)で、ネット通販会社をタイプ別に分類した。代表的なものは、小売型=アマゾン、モール型=楽天、オークション型=ヤフー、その他のタイプである。これは当時のコア事業に基づいて分類したものだ(その後、各社とも複合化が進んできた)。小売型のアマゾンは、商品を自社で販売するので、購入者宅まで商品を届ける責任がある。それに対してモール型は仮想モールに出店しているテナント収入をコア事業にしているので、販売した商品を購入者に届けなければならないのは出店者であり、楽天に直接的な責任はない。あえて言えばブランドイメージということになる。オークション型のヤフーも同様である。
このようにアマゾンは、ネット通販会社の中でも物流に対するプライオリティが高かった。さらに小売型では受注から配送完了までのリードタイムの短縮が経営上の重要な課題になる。リアル店舗では売場面積が取扱商品の種類や店頭在庫数の物理的制約になる。百貨店や総合スーパーなどと比べて売場面積が極端に狭いコンビニエンスストアは、商品数を絞り込み、店頭在庫もあまり置けない。そこで多頻度配送で商品を補充して販売機会喪失を少なくする物流システムを導入した。
それに対してネット通販は、取扱商品を無限に拡大することが可能だ。だが、取扱商品の種類が増えれば在庫も多くなる。したがって当日配送や何時間以内配送というのは一見、購入者のサービス向上が目的のようだが、実は在庫回転を早めたいという経営上の自社都合という面があった。そのため小売型のネット通販会社においては、モール型などのネット通販会社より物流システム構築に力を注ぐ必要があったのである。
アマゾンは現在、アマゾンフレックス(軽自動車の自営業者と直接契約)、デリバリープロバイダ(地域を決めて契約している配送元請会社。プロバイダが自営業者と契約して配送したり、プロバイダがさらに運送会社と契約し、その運送会社が配送したり、あるいは自営業者と契約したりしている)、宅配便事業者(配送密度の薄い地域の宅配を委託)という3つの配送チャネルを使い分けている。
このように物流体制が構築できると、自社のベースカーゴにアマゾンマーケットプレイスの出展者の荷物などを相乗りさせることで物流システム自体を事業化することができる。同時に、他社の荷物の取り扱いが増えるにしたがって配送効率が向上し、自社の荷物の配送コストの逓減にもなる。
このように今やアマゾンは物流会社と言っても過言ではなくなってきた。
今後ますますEC化率の上昇が見込まれる中で、楽天やヤフーも物流体制の構築が戦略上の急務になってきた
時代の趨勢として小売り市場におけるEC化率は今後ますます高まる。コロナ禍はそのトレンドを一気に加速させた。このようなことからネット通販大手各社は、短期間に物流面でアマゾンに追い付き、追い越すことが焦眉の課題になってきた。だが、自前で物流体制を構築するには時間がかかる。ヤフーとヤマト運輸、楽天と日本郵便の提携は、このような流れの中でとらえることができる。
楽天と日本郵便の物流アライアンスで核になるのは、RFC(楽天フルフィルメントセンター)と日本郵便の配送ネットワークの組み合わせである。今後は全国にある日本郵便の施設にRFCを併設するような動きも出てくるだろう。
アマゾンのフルフィルメントセンターとRFCの違いは、アマゾンが自社の在庫をベースにしているのに対して、RFCはテナント各社の在庫が主になっている点だ。アマゾンは自社の膨大なベースカーゴにアマゾンマーケットプレイスの出店者の商品を相乗りさせる。アマゾンに相乗りすることで出店者は物流コストをダウンできるという構造なので、購買者に対する送料の設定などもアマゾン主導でやりやすい。
だが、楽天はテナント各社の物流を受託して代行する形なので、たとえば「送料無料」の最低購入金額の設定でも楽天主導で統一することが簡単ではない(なお「送料無料」は直接的にはテナント各社がコスト負担するが、販売価格に転嫁されるので結果的には購入者の負担になる。「送料無料」は消費税の内税、送料別は外税と基本的には同じ)。
そこで、楽天がアマゾンに物流で対抗するには、RFCでテナント各社の物流業務を一括受託することで、テナントに対する主導権を強める必要がある。そのためにも日本郵便との提携でRFCの用地取得や配送料金のコストダウンが図れるのは大きい。
一方、日本郵便もこの間、宅配便の取扱個数を伸ばしてきたがCtoCでの伸びが多かった。楽天との提携によってBtoCの大口取引先を安定的に確保できることは大きい。
なお、過疎化と高齢化が進む地方では、一般的に郵便局への「信頼性」が都市部より高い傾向にある。また、高齢者はネット購入もキャッシュレス決済も苦手だ。たとえば北海道の最北端で移動販売事業を行っている運送事業者によると、年金支給日には移動販売の客数が極端に減るという。年金が振り込まれる金融機関まで、高齢者としては「遠出」をし、金を下ろして現金化するためだ。ネット販売、キャッシュレス決済の両面から示唆に富んだ話である。
このような層に楽天が浸透を図るには日本郵便は良いパートナーである。信頼性の高い配達員がタブレットを持参して高齢者のネット購入をサポートし、カード決済などもできるようにすれば、ユーザーの拡大につながる(郵便局の人手確保といった問題はある)。
一方、ヤフーとヤマト運輸の提携では、ヤマトグループのフルフィルメントセンターを活用する。ヤマト運輸は宅配便のパイオニアで、そもそもはCtoCがサービスコンセプトの出発点だが、BtoCのボリュームが大きい。だがBtoCの多くは、中小のネット通販会社と契約してフルフィルメントサービスを提供しているEC物流事業者から、宅配業務だけを受託している。そのためヤマト運輸としてはグループでフルフィルメントセンターの運営を強化し、中小規模のネット通販会社を取り込むことで元から一括受託するようにしたかった。宅配業務だけよりも一括受託の方が料金的にアローワンスもある。また、自社センターからの出荷なら集荷コストがかからず、幹線輸送コストも減らせる。さらに取扱個数が増えれば配送効率が向上して、一般の宅配便荷物の配送コストも逓減できるからだ。
ヤフーとしては、アマゾンに対抗するためにブランド的に統一した物流サービスを購買者に提供しなければならない。これは楽天も同じだが楽天とヤフーの違いは、ヤフーが自社主導で物流サービスを統一するのではなく、ヤマト運輸との提携によって物流サービスのスタンダードを決めている点だ。そのスタンダードに出店ストアが自主的判断で相乗りするような、緩やかな統一を目指しているものと思われる。このようにヤフーとヤマト運輸のアライアンスは、短期間に物流体制を構築したいヤフーと、フルフィルメントセンターのベースカーゴを確保したいヤマト運輸の双方にとって相乗効果が見込める組合せだ。
独自の物流体制で先行するアマゾンに対して、大手宅配便会社とのアライアンスによって短期間に物流サービスのブランドスタンダードを構築するとともに、アマゾンの物流レベルに追い付きたい楽天やヤフー。ネット通販大手3社の物流分野における競争は新たな段階に突入した。