Facebookが社運をかけたメタバースは、批判を乗り越えて存在感を見せることができるか
Facebookグループが社名を「メタ」に変えてまで注力しているメタバース「Horizon Worlds」が、世界中で大きな批判にさらされているようです。
きっかけになったのは、マーク・ザッカーバーグCEOが投稿した1枚のメタバース内での自撮り画像。もともとは、「Horizon Worlds」がフランスとスペインでも提供開始されることを紹介するための投稿だったのですが、その画像のクオリティの低さが様々な批判を集めるきっかけとなってしまいました。
参考:Meta、メタバース「Horizon Worlds」をフランスとスペインでも提供開始
例えばこの画像を元に、2002年のゲームキューブのゲームみたいだと揶揄したツイートには4万以上のいいねがついています。
その後、ザッカーバーグCEOはFacebook側にHorizonとアバターのグラフィックは近日中にアップデートされる予定であることを投稿しています。
ただ、こちらはそれほどまだ大きな話題にはなっていないため、最初の投稿のネガティブインパクトを上回ることはできていないようです。
参考:マーク・ザッカーバーグ氏、自社メタバース内での“自撮り”写真を投稿するも「あまりにもクオリティーが低い」と騒然
本来、メタバースの成否は必ずしも画質だけで評価されるものではありませんし、今回の批判はザッカーバーグCEOが投稿した画像に対してのものであって、実際の「Horizon Worlds」への評価ではありません。
ただ、すでに30万登録を超えていると言われる「Horizon Worlds」ですが、まだまだファンを増やすには苦労しているのが現実ではあるようです。
特定の市場のリーダーにある企業が、新しい市場に挑戦する際に既存のユーザーやプレイヤーから批判されることは過去にも繰り返されてきた騒動ではあります。今後、メタ社の「Horizon Worlds」がどのようなポジションになるのか、過去のケースを事例に3つのシナリオをご紹介しましょう。
■1:Appleの携帯電話市場参入的シナリオ
ザッカーバーグCEOがFacebookグループの社名をメタに変えてまで目指しているのは、このAppleのiPhone的な成功シナリオでしょう。
iPhoneが発売された2007年当時、AppleはiPodを軸に音楽プレイヤー市場では強力な存在感をはなっていましたが、モバイルコンピューティングの世界でここまでの大成功を収めるとは思われていませんでした。
当時、日本ではiモードに代表されるモバイルコンピューティングがはじまっていましたし、携帯電話市場はノキアやモトローラなどの巨大メーカーがしのぎを削っていたのです。
ただ、Appleはその市場にiPhoneを軸に、App Storeというスマートフォンアプリのマーケットを構成し、多数の企業を自らのエコシステムのパートナーとして取り込んでいくことで、スマートフォン市場を一気に全く違うマーケットに進化させました。
現在はGoogleのAndroid勢に市場シェアでは押されてはいるものの、Appleがモバイルコンピューティング市場のリーダーの一社であることを否定する人はいないでしょう。
■2:Microsoftのインターネット市場参入的シナリオ
巨大な独占企業が、新しい市場への転換を行って既存企業との激しい戦いを演じた事例として有名なのが、Microsoftのインターネット市場参入のケースです。
1995年当時のMicrosoftのビル・ゲイツ氏は、インターネットへの対応に出遅れたと言われていますが、その後全社的にインターネットシフトを推進。Netscapeのブラウザに対抗してインターネットエクスプローラーをWindows PCにバンドルするなど、その強引な戦略でシリコンバレーのスタートアップからはかなり嫌われていた時期があったと聞きます。
ただ、その後インターネットエクスプローラーのシェアが9割になるなど健闘したものの、最終的にはGoogleなどのインターネットネイティブな企業との競争に大勝することはできずに現在に至ります。
もちろん、現在のMicrosoftは、その後LinkedInなどB2B分野を中心にインターネット企業を買収、Officeもインターネット対応するなど着実にネット企業としての存在感も増しています。
■3:GoogleのSNS市場参入的シナリオ
Microsoftからのネット市場での競争に対して、強さを見せたGoogleですが、SNS市場に対しては苦戦を続けた歴史があります。
実はGoogleはOrkutというSNSの草分け的サービスを生み出した会社ではあるのですが、OrkutをはじめGoogle BuzzやGoogle Waveなど様々なSNSをリリースすれどヒットにはつなげられないというサイクルを繰り返します。
最終的に、2011年6月には1年をかけた大プロジェクトとしてGoogle+(グーグルプラス)というSNSを鳴り物入りでリリースするのですが、これもFacebookやツイッターの牙城を崩せず、2019年にサービス終了するという結果に終わっているのです。
もちろん、Googleには何といってもYouTubeがありますので、動画SNSの世界では大きな存在感を持っています。
ただ逆に言うとYouTubeをもし買収できていなかったら、GoogleはSNS市場においてはほぼ存在感がない企業になっていた可能性もあるわけです。
SNS市場の成功はメタバース市場に活かせるのか
こうやって歴史を振り返ると、特定の市場で独占的地位にあった企業でも、新しい技術進化の波においても存在感を見せることができるかどうかは、別の問題ということが良く分かると思います。
メタバース市場において、メタ社の「Horizon Worlds」が批判の対象になってしまうのも、ある意味Microsoftのインターネットエクスプローラーが多くのコアなネットユーザーから批判されていたり、GoogleのGoogle+がコアなSNSユーザーから批判されていたのと同じ構造ということもいえるかもしれません。
もちろん、ザッカーバーグCEOは、Oculus社を買収しVRヘッドセットのリーダーとしてのポジションを取ることで、AppleがiPhoneで成し遂げたように、ポストスマートフォンの新しいメタバース市場のリーダーを目指しているのは間違いありません。
ただ、先日Meta Questの大幅値上げが発表されるなど、当初のシナリオ通りに端末普及が進んでいないのが現状のようです。
参考:Meta Quest 2、2万円以上の値上げ。59,400円に
また、ある意味ザッカーバーグCEOがやろうとしているのは、端末としてはMeta QuestでiPhone的な成功をおさめつつ、さらに「Horizon Worlds」で自らのSNS市場におけるFacebookのような独占的なプラットフォームも並行して確立しようという、ハードとソフト両面での挑戦になります。
さすがのメタグループにとっても、戦線が拡がりすぎていてなかなか思う通りに開発が進んでいないという面はあるのかもしれません。
メタグループの文化と歴史
また、Facebookグループは歴史上、SNSの仕組み自体は先行していたOrkutやFriendsterなどの構造をコピーし、ニュースフィードの仕組みはTwitterの仕組みをコピーし、Instagramのストーリーズの仕組みもSnapchatの仕組みをコピーし、と他社の発明した仕組みを自社のサービスに取り込んで成長してきた企業。
逆に言うと、自ら画期的なユーザーインターフェースやアプリケーションを開発するということにはあまり成功してきた歴史がないため、今回のメタバースのような全く新しいサービスを開発するのには苦労している、という面もあるのかもしれません。
そういう意味では、MicrosoftやGoogleが新市場への参入に苦労したように、Facebookが主力事業だったメタグループも、新市場への参入に苦労するのは当然という言い方もできるでしょう。
いずれにしてもメタバース市場の活性化にはつながるはず
もちろん、そうは言っても、なにしろザッカーバーグCEOのメタバース市場転換への思いは本気のようですし、批判を受けながらも多額の投資を続けているのも事実です。
「Horizon Worlds」のYouTubeチャンネルには、チュートリアル的な動画ばかりがアップされている印象ですが、逆に言うとまずは基礎固めから着実にしているという見方もできます。
また、こうやってメタグループのメタバースが話題になることによって、メタバース市場全体への注目が高まる効果があるのは間違いありません。
丁度、世界最大のVRイベントであるバーチャルマーケット2022 Summerが開幕中ですが、期せずしてザッカーバーグCEOの画像が話題になったことで、バーチャルマーケットのクオリティの高さが改めて評価される効果もあったようです。
参考:【Vket】『バーチャルマーケット2022 Summer』が本日(8/13)から開催。広瀬香美さんとゲッダンを舞い、ホラーで投資を学び、551のCM「あるとき~」を再現。
企業同士の競争の結果、どの企業が勝利を収めるのかは当然企業同士の戦略や時代の流れによって異なります。
ただ、その競争の結果、技術やサービスが進化して、私たちユーザーがその進化したサービスを楽しむことができるようになるはず。
まずは、メタ社の「Horizon Worlds」が批判を受けながらどのように進化していくのか、注目していきたいと思います。